・甲状腺ホルモンには鉄が必要である
・女性は鉄不足→甲状腺機能低下症の可能性があるため注意
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◆プロローグ
大半は甲状腺そのものに問題があることが多いですね。
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◆甲状腺機能低下症とは
甲状腺機能低下症(hypothyrodism)とは、
甲状腺ホルモンの分泌低下のため、全身の代謝低下状態をきたした病態。(中略)病変の部位によって、①甲状腺原発性、②下垂体性(二次性)、視床下部性(三次性)と分類されるが、甲状腺原発性以外は少ない。
(ナースの内科学)
甲状腺機能低下症の原因として多いのは、自己免疫性疾患である慢性甲状腺炎(橋本病)です。女性の発症は男性の20倍以上であり、女性は注意したほうがいい疾患です。
◆甲状腺の解剖学
画像引用:甲状腺(Wikipedia)
そもそも甲状腺(Thyroid gland)というのは蝶のような形をした分泌腺で、のど仏のすぐ下にあります。
左葉・右葉、ふたつを結ぶ峡部からなります。左葉と右葉は3~5㎝ほどで、重さは男性で17g、女性で15gほどです。
◆甲状腺腫とリンパ節の役立つ鑑別法
ちなみに首にはリンパ節も多く存在しています。首に腫れがある場合、甲状腺が腫れているのか、リンパ節が腫れているのか鑑別が必要になります。簡単に鑑別できる方法があります。
甲状腺は頚筋膜で被われているので、喉頭や気管と結合しています。ゆえに、甲状腺は嚥下(飲み込むときなど)にともなって上下に動くのです。これに対して、リンパ節などは一般に嚥下運動では動きません。覚えていると役立つかもしれません。
甲状腺腫→嚥下で動く
リンパ節→嚥下で動かない
◆甲状腺ホルモンの生理学
甲状腺ホルモンがどのような流れで作られていくかを見ていこうと思います。
まず、視床下部から甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropinreleasing hormone[TRH])が分泌されます。
TRHは甲状腺刺激ホルモン(thyroidstimulating hormone[TSH])を放出するよう下垂体を刺激します。甲状腺は下垂体から出た甲状腺刺激ホルモンの刺激に反応して、ホルモンをつくります。これが一連の流れになっています。
そして料理と同じで、材料がないとホルモンもつくれません。甲状腺ホルモンをつくるのに必要な材料はチロシン(アミノ酸)とヨウ素という栄養素です。
このチロシンとヨウ素をくっつけるのが、甲状腺ペルオキシターゼ(thyroid peroxidase[TPO])という酵素です。
◆甲状腺ペルオキシターゼに鉄が必要
チロシンとヨウ素をくっつける甲状腺ペルオキシターゼこそが、甲状腺機能低下症をおこす原因のひとつなんですね。その理由は、甲状腺ペルオキシターゼが鉄に依存したヘムタンパク酵素だからです。
もう少し詳しくいえば、甲状腺ペルオキシターゼは甲状腺上皮細胞に移動することで、甲状腺ホルモン合成を誘発することができます(2,3)。
その上皮細胞に移動するためには、ヘム鉄が甲状腺ペルオキシターゼに取り込まれていないといけないのです。
つまり、鉄が不足していると甲状腺ホルモン(チロキシンとトリヨードチロニン)を合成するきっかけが失われてしまい、結果としてホルモンの産生が不足し、甲状腺機能低下症になってしまうわけですね。
◆女性は鉄欠乏に注意しましょう
Titchenalらによれば、鉄の状態を細かく評価すれば、多くの甲状腺機能不全の原因を突き止められる可能性が高いとしています(4)。
鉄欠乏がある妊娠している女性は、そうでない女性と比較して甲状腺機能低下の発症率が高いという報告もあります(5)。
以前、日本人女性は大半が鉄欠乏症であるということを記事にしました(→世界最多の栄養障害は鉄欠乏)。ぜひ、女性の皆さんには注意してもらいたいですね。
【資料】
(1)ナースの内科学改訂8版、奈良信雄編著、中外医学社、2010
(2)The influence of iron status on iodine utilization and thyroid function.[PMID:16602928]
(3)Multiple Nutritional Factors and the Risk of Hashimoto’s Thyroiditis.[PMID:28290237]
(4)Iron plays an important role for the thyroid.2009
(5)The Relationship between Iron Deficiency and Thyroid Function in Chinese Women during Early Pregnancy.[PMID:28202844]
(6)栄養学と食事療法大辞典、キャスリーン・マハンら(香川靖雄ら監修)、ガイアブックス、2015
(7)解剖学講義改定3版、伊藤隆、南山堂、2014
(8)バーン/レヴィ カラー基本生理学、坂東武彦ら監訳、西村書店、2003
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