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◆痛みの10年
資料(1)より引用
2000年にアメリカ議会は2001年からの10年間を「the Decade of Pain Control and Research(痛みの10年)」とすることを採択しました。上のイラストはそのロゴマークです。国の議会が採択するほど「痛み」というのは社会的な問題なんですね。
この「痛みの10年」によって、痛みを5つ目のバイタルサインに入れることが決まったり、アメリカ全土の慢性痛の厳格な調査などが行われました。論文を少し引用します。
『痛みの10年』宣言に関わる活動は世界的に広がり、調べるほどに驚くばかりである。相互に連携し合っている学会、医療職関係や患者の団体も数多くある。PCC(引用者注:痛みケア連合)の連合を中心にして、その波紋は確実に広がり、目的意識を持って1つのことを成功させようという勢いが伺える。
痛みの基礎的研究では、それぞれの領域において世界のトップレベルにある日本の研究者は多数いると自負しているが、その研究環境において欧米諸国とは全く比較にならない。(中略)痛みの医療については残念ながら遥かにレベルが低いと言わざるを得ない。
資料(1)より引用
この論文が出てから10年以上経っていますが、日本の痛みに対する治療(とらえ方)はどうなっているでしょうか。まだまだ不十分な気がしますね。
ちなみに、ロゴマークの中央でかがんでいる人間のイラストはデカルトが描いたものです。
デカルトは痛みの仕組みについて、「侵害刺激(痛みを感じるほどの刺激)を与えると、神経の糸がぐいっと引っ張られて、脳のところで鐘が鳴るように痛みを感じる」と考えていたんです。
もちろん、現代の知識からみれば、それは誤っています。しかし、情動的なものだけでなく、人体には痛みを伝える仕組み・機能があるという概念を示したことは、非常に意義があることなんですね。
◆痛みの基礎知識(侵害受容器)
さて、痛みはどのようにして伝わるのでしょうか?
痛みは2種類の受容器(求心性線維)によって伝わります。ひとつは機械的侵害(高閾値機械)受容器(Aδ線維)、そしてもうひとつはポリモーダル受容器(C線維)です。ふたつの受容器の違い(特性)は以下のようになっています。
資料(2・3)参照作成
ふたつをもう少し詳しく説明していきます。
◆機械的侵害受容器とポリモーダル受容器
(1)機械的侵害受容器
これは熱や化学的刺激、極度の冷刺激には反応しません。強い機械的刺激にのみ反応します。
この説明だとわかりにくいので、もっと簡単にいいます。包丁で手を切ったら痛いですよね。あの痛みを伝えるのがこの機械的侵害受容器です。包丁で切った痛みは鋭くて、場所も明確ですよね。
そういった痛みを「一次痛(速い痛み)」といいます。鋭く明確な一次痛を伝えるのが機械的侵害受容器です。
(2)ポリモーダル受容器
一方のポリモーダル受容器は、強い機械的刺激に加えて侵害性熱刺激や化学的刺激、皮膚への強い冷刺激に対しても反応します。つまりは、どれにでも反応する受容器です。
そもそもポリモーダルの「ポリ」というのは「多くの」という意味で、「モード」は「様式」ですから、多くの様式の感覚を伝える受容器という言葉そのままなわけですね。
さて、さきほど包丁の例をあげました。切った時の鋭く、明確な痛みは一次痛でした。経験あると思いますが、切った後はジンジンするはっきりしない痛みがありますよね。これを「二次痛(遅い痛み)」というわけですが、その二次痛を伝えるのがポリモーダル受容器というわけです。
表をみてください。伝達速度が機械的侵害受容器のほうが速いですよね。だから、こちらのほうが素早く脳に伝わるわけです。どうして、これほど速度に差が出るのか?それを理解するのに大切なのが「跳躍伝導」です。
◆跳躍伝導~有髄線維と無髄線維~
神経線維には大きく2種類あります。有髄神経線維と無髄神経線維です。有髄線維というのは、さきほどの一次痛を伝えるAδ線維のことで、無髄線維というのは二次痛を伝えるC線維のことです。
有髄神経は、神経のまわりをミエリン鞘というものが覆っています。そして、このミエリン鞘は一定の間隔で覆っているところが切れています。この切れ目のところを絞輪(発見者の名前をつけてランビエの絞輪とも)といって、その部分は神経線維が露出しているわけです。一方の無髄線維は、そういった覆っているものが無い、ゆえに無髄線維というわけです。
さて、このミエリン鞘は電気を通しません(絶縁している)。ゴムみたいなもんですね。だから、末梢の神経から伝わってくる電気は、ミエリン鞘のところを通ることができません。
よって、絶縁部を飛び越して、神経線維が露出している絞輪のところをジャンプしながら電気を伝えていくんですね。ゆえに速いのです。この飛んでいるのが跳躍(ジャンプ)のようだから、跳躍伝導ともいうわけです。一方の無髄線維はジャンプして進めませんから、ゆっくりと進んでいきます。
わかりやすくすると以下のイラストのような感じです。
資料(4)参照作成
【資料】
(1)熊澤孝朗、山口佳子:アメリカの『痛みの10年』宣言から学ぶ.PAIN RESEARCH,19:23-28,2004
(2)痛み学、ジェニー・ストロング(熊澤孝朗監訳)、名古屋大学出版会、2010
(3)増補改訂新版痛みと鎮痛の基礎知識、小山なつ、技術評論社、2016
(4)痛みを知る、熊澤孝朗、東方出版、2007
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