忙しい人のための要約
    患者に情報を伝えるさいに知っておきたいことは、医療は白黒つくものと考える患者もいる、情報の出し方で認識が変わる、「提供した情報=伝わった情報」ではない、患者はいろいろ隠しているということ。それらの対策についても解説。

     

     

    ◆はじめに

    以前の記事で、患者さんへの情報提供の難しさについて触れました(参照:腰痛の症状は説明の仕方ひとつで良くも悪くもなる)。

     

    今回は、情報提供に関して、さらに一歩踏みこんで、より実践的なことを書いていこうと思います。それは、医療者が患者さんに情報提供するときに、知っておいたほうがよい4つのことです。

     

     

    ◆医療は白黒つくものと考える患者もいる

     

    1つめは、患者さんのなかには、医療は白黒つくものだと考えている人がいるということです。イチかゼロか、丁か半か、極端にものごとを考えてしまう感じですね。

     

    医療にかぎらず、世の中のすべてのものはそう簡単に白黒つけられるものではありません。とくに、医療の分野は不確実性が強いものだといえるでしょう。同じ薬を飲んでも、体の機能や構造だけではなく、教育歴や家庭環境などのバックグラウンドによっても効果・効能が変わってきます。

     

    しかし、人間はそういった曖昧さを嫌う傾向があります。少し話は脱線しますが、そこにつけこんでくるのが、いわゆるトンデモ医療といったものでしょう。

     

    医療の不確実性がわかっている人なら、「癌が絶対に治る」なんてことは口が裂けても言えないんですが、患者さんはなんでもいいから治してほしい。

     

    そこに、「必ず治ります!」と言って、患者さんの心をもてあそび、金を搾取してやろうとするのがトンデモ医療なわけです。

     

    医師である岩田健太郎さんは、著書『食べ物のことはからだに訊け!』のなかで、トンデモ医療の特徴として、「極論が多い」ということを挙げています。

     

    確実に、絶対に治る治療法なんて存在しません。アメリカではこれを「Never say never」なんて言ったりします。「絶対ないとは絶対言うな」ってことです。

    ところが、「トンデモ」健康本では「絶対」「必ず」といったオールマイティな「キラキラワード」をちりばめます。

    『食べ物ことはからだに訊け!』P43

     

    話を戻しましょう。白黒つくものと考えている患者さんには、医療というのは不確実な要素が多く、すべての疾患(症状)が寛解するわけではないということを、エビデンスとともに伝えることが大切でしょう。

     

    また、医療というものは、不確実なものであることを意識しておくことは、変に期待をもって落ち込んだりしないためにも重要かと思います。

     

    医師である帚木蓬生さんは、ネガティブ・ケイパビリティという概念を紹介しています。

     

    ネガティブ・ケイパビリティというのは、『どうにも答えの出ない、どうにも対処のしようのない事態に耐える能力』(P3)のことです。

     

    患者さん・医療者にかぎらず、ものごとを極端に考えやすい人は、ネガティブ・ケイパビリティを鍛えたほうがいいかもしれませんね。気になる人は一読してみてはどうでしょうか。

     

     

    ◆情報の出し方で認識が変わる

     

    2つめは、情報の出し方で認識が変わってしまうということです。

     

    たとえば、手術の説明をするとき。

     

    A「術後1か月の生存率は90%です」

    B「術後1か月の死亡率は10%です」

     

    どちらの説明も同じ内容のことを言っているわけですが、なんとなく認識(受け取り方)が違うのではないでしょうか。このように同じ情報であっても、伝え方によって認識が異なることをフレーミング効果といいます。

     

    さきほどの手術の説明では、Aの場合は約80%の人が手術をすると答えましたが、Bの場合は約50%の人しか手術をすると答えなかったという報告があります。伝え方によってこれほどまでに、患者さんの選択が変わってしまうんですね。

     

    フレーミング効果の対策としては、複数回の説明をする、異なる方法を用いて情報を提示するなどが挙げられます。

     

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    ◆「伝えた情報=伝わった情報」ではない

     

    3つめは、伝えた情報は伝わった情報ではないということです。

     

    インフォームドコンセント、つまり説明して同意を取りましょうということが医療界でいわれるようになって久しいですが、これは患者さんに医療の内容を理解してもらうことに意義があったはずです。

     

    しかし、それが徐々に形骸化し、形だけでも説明だけしとけばいい、訴訟対策でサインだけもらっとけばいいみたいになってしまっているところも多いのではないでしょうか。

     

    重要なのは、説明しとけばいいということではなく、どれほど患者さんが理解できているのかということです。

     

    「そうか、丁寧に説明しないといけないな」と考える人もいるかもしれません。たしかに丁寧なのは大切ですけど、丁寧がポイントではないと思います。

     

    公務員がつくるパワーポイントをみたことがあるでしょうか。こんなやつです↓

     

    厚生労働省老健局「1.介護保険制度の改正案について」より

     

    これはすごく丁寧です。でも、なにが言いたいのかよくわからないですよね。もっと言えば、わかりにくい。

     

    丁寧でわかりやすい説明がベストですけど、丁寧とわかりやすさがごっちゃになってしまっている人もいるように思います。まずは、わかりやすさを重視したいところですね。

     

    説明時の対策としては、説明した内容を患者さんから逆説明してもらう(ティーチバック法)メモを取りながら聞いてもらう説明の補助として資料を渡す(ファクトボックスなど:グラフィカルアブストラクトは情報をわかりやすく伝えるのにいい)などが挙げられます。

     

     

    ◆患者はいろいろ隠している

     

    4つめは、患者さんはいろいろ隠しているということです。

     

    以前の記事でも紹介しましたが、半数以上の患者が、自身の重要な医学的情報を医師に伝えなかった経験があることが報告されています(参照:リハビリ拒否時の交渉学~利害を探って問題を解決せよ~)。

     

    医療者に気を使って、聞きたいことがあっても訊けない、きちんと言いたいことを言えていない患者さんがいることを、念頭に置いておくのは非常に大切でしょう。

     

    対策としては、どんな質問でもいいですよと患者さんに伝えておく、質問する機会を設ける、患者さんが質問しそうなことをピックアップするなどが挙げられます。

     

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    患者さんとの情報共有、それにもとづく意思決定が大切であることがいわれるようになってきています。

     

    いままで述べてきたようなことに注意しながら、よりよい医療を提供できるようになるといいですね。

     

    【資料】

    (1)PT・OT・STのための診療ガイドライン活用法/中山健夫 監修(医歯薬出版)

    (2)食べ物のことはからだに訊け!/岩田健太郎(ちくま新書)

    (3)ネガティブ・ケイパビリティ/帚木蓬生(朝日新聞出版)

    (4)医療現場の行動経済学/大竹文雄・平井哲(東洋経済新報社)

     

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