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◆はじめに
こんにちは、リハビリ行きましょうか?
う~ん、リハビリしたくないなぁ。
昨日もお休みしましたよ。
でもねぇ・・・
(サボり?)ダメですよ!家に帰るにはしっかりリハビリしろって先生にも言われてるでしょ!?
・・・
なんか険悪な感じだなぁ…
大丈夫かしら? ってなんで院内に犬が…
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◆交渉学における「立場」と「利害」を理解する
1.立場と利害のちがい
先日、松浦正浩さんの著書『おとしどころの見つけ方』(以下、本書)を読みました。これは交渉について書かれたものですが、「立場」と「利害」について、以下のように書かれていました。
交渉学では、表面的な要求を「立場」、そして背後にある理由を「利害」と呼んで区別しています。
立場を受け入れる、受け入れないで水掛け論に終始するより、相手の利害を探って、その利害を満足させてあげることで、意外と簡単に問題が解決することがあるのです。『おとしどころの見つけ方』P28
言い換えれば、立場というのは「建前」であり、利害というのは「本音」ともいえるでしょう。
たとえば、部下が休みを取りたいと言ってきたときに、上司としては「休んでほしくない」というのは立場(建前)であり、「その日に休まれると仕事がまわらなくなる」というのは利害(本音)といった感じですね。
2.利害を探ることが重要
有給消化について「休ませてほしい!」と「休んでほしくない!」という立場レベルの水掛け論になってしまうと、らちがあきません。
下手をすると険悪な雰囲気なってしまい、後戻りできなくなる可能性もあるでしょう。
そこで、相手の利害を探ることが重要であると本書では提言しています。
もし、あなたが上司なら、相手(部下)の利害を教えてもらう、たとえば「どうしてその日に休まないといけないのか?」といったことを訊くのもいいでしょう。
また、自分(上司)の利害を教える、たとえば「その日に休まれると業務が滞って、まわらなくなってしまう」と伝えるのもいいでしょう。
このように立場ではなく利害を探っていくことで、打開策がでてきて問題が解決する可能性が高まります。
打開策としては、たとえば部下は自分の代わりに業務にくわしい人を出勤させることもできるかもしれませんし、担当している業務をその日は休業するといったこともできるかもしれません。
そうなってくると、上司の利害である「その日に休まれると仕事が回らくなる」が無くなるので、休みをとってもいいよということになるかもしれません。
◆患者は本音を隠しているらしい!?
2018年11月に興味ぶかい報告がでました。平均年齢が36歳の若年層グループ(2011人)と、平均年齢が61歳の中高年層グループ(2499人)のアメリカ人4510人を対象にしたものです(1)。
この報告によると、半数以上の患者が自身の重要な医学的情報を、医師に伝えなかった経験があることがわかりました。以下、すこしくわしく見てましょう。
1.患者が医師に伝えていないこと(隠していること)
資料(1)参照作成
上のグラフは、どれほどの患者が医師に伝えていない(隠している)ことがあるかをあらわしたものですが、もっとも多かったのは「医師の勧告する治療内容に同意していなかった」でした。
そのような経験があるのは、若年層グループでは45.7%、中高年層グループでは31.4%いました。30~45%の患者が、医師の治療に同意していなかったというのはなかなか衝撃的です。
また「治療内容を理解できていない」や、「食生活・運動といった生活の見直しができていない」などの人が一定数いることもわかりました。臨床ではこういったことに注意する必要がありますね。
2.患者が医師に伝えない理由
資料(1)参照作成
上のグラフは、患者が医師に伝えなかった理由を割合にしてあらわしたものですが、もっとも多かったのは「医師から責められるのが嫌だった」でした。そのような経験があるのは、若年層グループでは81.8%、中高年層グループでは64.1%いました。
患者さんも人間ですから、後ろめたいことを叱責されるのがイヤなんですね。
患者さんが指導を守っていないと、なんでもかんでも怒ってしまったり、きつくあたったりしてしまう医療者がいますが、患者さんが本当のことを言わなくなる可能性があり、注意したほうがいいでしょう(ときにはしっかりと伝えないといけないときもあると思うので、絶対ダメということではありません)。
また、以下のような理由も挙げられており、臨床で注意する必要がありますね。
・「不摂生(自分の生活習慣)がいかに悪いことかを聞かされるのが嫌だった」
・「厄介な患者と思われたくなかった」
・「医師の時間を気にした(時間を取らせたくなかった)」
・「それほど重要なこととは思わなかった」
・「医師に愚かな患者と思われたくなかった」
3.患者の立場ではなく利害を探れ
なぜこのような報告を紹介したかといいますと、患者は利害・本音を伝えていない(隠している)可能性が大いにあるということを意識してほしかったからです。
「はじめに」で、リハビリを拒否する患者とセラピストの対話を載せました。
セラピストは拒否する患者さんの立場(表面的なところ)だけを見て、「サボりかなぁ」なんて勘ぐってしまいました。しかし、もうすこし患者さんの利害を探るといいかもしれませんよね。
◆利害を探ってみたパターン
こんにちは、リハビリ行きましょうか?
う~ん、リハビリしたくないなぁ。
昨日もお休みしましたよ。
でもねぇ・・・
(リハビリしたくないのは何か利害があるのかもしれないな…)どうして、リハビリしたくないんですか?
じつはね、リハビリしてる時間にドラマの再放送があるのよ。
そうだったんですね。2時間ドラマの再放送のやつですか?
そうそう。あれが入院生活で唯一の楽しみでね。あれを見てるときはいろいろ辛いことも忘れられるのよ。
そうだったんですね。ドラマは午後からでしたよね?
そう。
(午後がいいっていう患者さんがいたから時間を入れ替えたら…) だったらリハビリの時間を午前中に変えましょうか?
できるの? そうしてくれたらありがたいねぇ。
わかりました。じゃあ、明日からそうしましょう。
よかったわ!
でも、どうして言ってくれなかったんですか?
リハビリよりドラマのほうが見たいなんて怒られるかなって思ってね。
そうだったんですね。大切なのはおばあちゃんがリハビリして元気になることだから。心配しちゃうからなんでも相談してくださいね。
これからは相談するようにするね。
ふぅ~、肩の荷がおりたよ。
あんたなにもしてないでしょ! はやく出ていきなさい。
お呼びでない? こりゃまた失礼いたしました!
◆さいごに
セラピストは時間を変えることで、患者さんのドラマを見たいという利害を満足させることに成功しました。
そして、セラピスト自身もほかの患者さんの時間調整をしたいという利害を上手に満足させることができました。最終的には、うまく信頼関係も築けたのではないでしょうか?
まぁ、現実の世界はもっと複雑ですから、こんなに簡単にはいかないでしょう。しかしながら、こういう風に利害を探していくことで、安易にレッテル貼りをしたり、水掛け論になってイライラなんてことが少なくなったりすると思うので、意識してみるのがいいかなと思います。
もっと交渉学について知りたい方は、一読してみてはいかがでしょうか。
【資料】
(1)Prevalence of and Factors Associated With Patient Nondisclosure of Medically Relevant Information to Clinicians.[PMID:30646397]
(2)おとしどころの見つけ方、松浦正浩、CrossMedia Publishing、2018
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