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◆所得が少ないとうつ状態の人が多い
65歳以上の3万2891人を対象にした調査研究があります。その報告によれば、所得が少ないほどうつ病の人が多いことがわかっています(1)。
資料(1)より作成
うつ状態の割合が、65歳から69歳で所得が100万円未満の人では、所得400万円以上の人の7.3倍に達しているとのこと。つまり、お金(所得)が少ない人ほどうつ状態の人が多いということですね。
お金のストレスというのは、とくに見た目年齢に影響を与えることが示唆されています(参照:額・眉間のしわが深いと心臓病のリスクがあがる)。
見た目年齢というのは、寿命に関わっていることも報告されており(参照:老け顔は短命!~見た目年齢(肌)と寿命の関係について~)、経済的なストレスというのは、けっこう重大なことのようですね。
◆うつ病は社会的・経済的負担を増加させる
うつ病は社会的負担を増加させるという報告もあります(2)。
National Health and Wellness Survey(NHWS)の2012~14年のデータ(8万3504人)を解析したところ、以下のようなことがわかりました。
・うつ病未診断群および非うつ病対照群と比較すると、うつ病診断群は欠勤・プレゼンティズム・全体的な作業生産性の低下・活動障害が多く認められた。[欠勤(13.1 vs.6.6 vs.2.5%)、プレゼンティズム(presenteeism、41.4 vs.38.1 vs.18.8%)、全体的な作業生産性の低下(47.2 vs.41.1 vs.20.2%)、活動障害(48.4 vs.43.3 vs.21.1%)]
・うつ病未診断群と比較して、うつ病診断群は、患者1人あたりの直接的コスト(1.6倍)、間接的コスト(1.1倍)が高かった。
つまり、うつ病の人がいると社会的・経済的負担が増加するということですね。社会的には欠勤が増えたり、生産性が低下したり、経済的にはコストが1.1~1.6倍になったり。
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◆低所得層への社会保障を拡充する方策を考えてみた
ランド医療保険実験というものがあります(3)。
これはアメリカの6市に住む2750世帯を対象にした研究で、1971~1986年にわたり実施されました。そして、この研究では非常に重要なことが示唆されました。『「原因と結果」の経済学』より引用して紹介します。
このランド医療保険実験が明らかにしたことはこれにとどまらない。なんと、医療費の自己負担割合と人々の健康状態のあいだには因果関係がないことを明らかにしたのだ。(中略)
つまり、医療費の自己負担割合が高くなっても、人々の健康状態の悪化にはつながらない。むしろ、医療費の自己負担割合の増加はコンビニ受診を防ぎ、国全体の医療費の抑制につながることが示されたのだ。
『「原因と結果」の経済学』P72
しかし、自己負担割合をあげろ!には注意が必要なのです。引用を続けます。
所得が低く健康状態の悪い人に限ってみると、自己負担割合の増加は健康状態を悪化させることが確認されている。
つまり、自己負担割合を上げることは、総じて見れば健康状態に悪影響はないものの、貧困層の健康状態に悪影響を及ぼすと考えられる。
『「原因と結果」の経済学』P72
社会保障費の増加は日本の大きな問題になっています。この研究・調査を活かすのであれば、所得が高い人の自己負担割合をあげ、その分で浮いたお金を所得が低い人に回していくのがいいかもしれないですね。
そうすることでうつ病を予防し、それが間接的に社会的・経済的メリットにつながるかもしれません。
ちなみに、アメリカに住んでいる約123万人を対象にした研究によると、メンタルヘルスには経済的地位(収入)よりも運動量のほうが関連しているという報告があります(4)。
収入をすぐに上げることは現実的に難しい場面が多いと思うので、うつ病予防には運動量を増やすというのもいいかもしれませんね。
【資料】
(1)検証「健康格差社会」、近藤克則、医学書院、2007
(2)Health-related quality of life outcomes, economic burden, and associated costs among diagnosed and undiagnosed depression patients in Japan.[PMID:30881068]
(3)Health insurance and the demand for medical care: evidence from a randomized experiment.[PMID:10284091]
(4)Association between physical exercise and mental health in 1·2 million individuals in the USA between 2011 and 2015: a cross-sectional study.[PMID:30099000]
(5)「原因と結果」の経済学、中室牧子・津川友介、ダイヤモンド社、2017
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