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    忙しい人のための要約
    鉄不足(鉄欠乏性貧血)は、いろいろな原因でおこります。近年、鉄不足にピロリ菌が関係していることを示唆するエビデンス(研究)が相次いで報告されています。鉄不足のある人は、ピロリ菌感染の検査(感染があれば除菌)を検討してみるのがいいかもしれません。

     

     

    ◆はじめに~ピロリ菌と鉄不足について~

    わたしはピロリ菌と鉄不足について、記事にしてきました。鉄不足は世界でもっとも多い栄養障害です。

     

    その鉄不足にピロリ菌が関わっていることが多くの研究・報告からあきらかになっています。

     

    <鉄の参考記事>

    鉄不足は世界でいちばん多い栄養障害

    多くの報告から日本人女性の30~70%が鉄欠乏の疑いがあると考えられます。

    鉄分不足(貧血)によって引き起こされる症状

    鉄不足は多彩な症状を引き起こします。

    鉄不足と甲状腺機能低下症について

    鉄不足により甲状腺機能低下症が引き起こされる可能性があります。

     

     

     

    ◆診断のための除外項目

    ひとくちに貧血といっても、いろいろな原因でおこります。ピロリ菌による鉄欠乏性貧血であると確定するためには、ピロリ菌以外の貧血の原因を除外しないといけません。

     

    2003年にAnnibaleらが基準を発表しています(1)。

     

    ピロリ菌が鉄欠乏性貧血の原因あると診断するためには、つぎの事項が除外されていることが条件とのことです。

     

     

    〇明らかな出血・失血の原因がないこと(消化管および消化管外)

    〇消化管精査(上部・下部消化管内視鏡など)により出血の原因となる可能性のある病変が認められないこと

    〇消化性潰瘍(活動性、瘢痕性を含む)

    〇セリアック病(自己免疫疾患のひとつ)

    〇自己免疫性胃炎、胃手術の既往

    〇食思不振・摂食の異常、アルコール依存症、薬物依存症

    〇月経過多

    〇NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の使用、抗凝固療法

    〇消化管外の腫瘍性病変、慢性疾患の存在

     

     

    少なくともいまあげた項目は確認してから、ピロリ菌の影響を疑う必要がありそうです。

     

     

     

    ◆ピロリ菌と鉄欠乏性貧血の疫学データと臨床試験

    世界各地で、ピロリ菌が血清鉄やフェリチンなどに与える影響についての疫学調査がおこなわれています。

     

    また、ピロリ菌と鉄欠乏性貧血に関する臨床試験もおこなわれています(資料(2)引用改編)。

     

    一覧を表にして下に掲載しています。

     

    ~12の疫学調査と7の臨床試験~

    報告者PMID地域内容
    Milman9679031オランダピロリ菌感染者でフェリチンが低値
    Peach9734575オーストラリア女性のピロリ菌感染者でフェリチンが低値
    Collett10493426ニュージーランド男性のピロリ菌感染者で血清鉄が低値
    Cohe11445801韓国ピロリ菌感染のある女子高生の競技者でIDAの頻度が高い
    Parkinson11063492アラスカピロリ菌感染者でフェリチンが低値
    Berg11316140ドイツピロリ菌感染者でフェリチンが低値
    Seo12121504韓国ピロリ菌感染児童のフェリチンが低値
    Choe12538339韓国ピロリ菌陽性の思春期児童ではフェリチンが低値
    Kaffes12911657オーストラリア低用量アスピリンを使用する老年女性ではピロリ菌陽性者のほうがフェリチンが低値
    Nahon14632670フランス原因不明のIDA患者ではピロリ菌関連胃炎が高頻度
    Cardenas16306309アメリカピロリ菌感染者ではIDAの頻度が高い
    Baggett16452320アラスカピロリ菌感染のある小児ではIDAの頻度が高い
    Choe10382128韓国RCT
    除菌治療群でヘモグロビン(Hb)がより上昇した
    Choe11445801韓国除菌治療群でHb、血清鉄、フェリチンがより上昇した
    Valiyaveettil16204902インドRCT
    除菌治療群でHb、血清鉄がより上昇した
    Gessner16425133アラスカRCT
    14週間までのIDAの残存率は除菌治療の有無で差がない(→Faganの報告参照)
    Chen17879411中国経口鉄剤+除菌群ではIDAの改善が早かった
    Sarker18775429バングラデッシュRCT
    除菌治療の有効性は認められなかった
    Fagan19125674アラスカRCT
    Gessnerらの報告の続報、40か月後は除菌群でより改善

    疫学調査では、ピロリ菌感染者の鉄(フェリチン)が低くなっていることがわかります。

     

    しかし、臨床試験の結果は、除菌が鉄欠乏性貧血にたいして有効なものと無効なものとがありました。つまり、除菌によって鉄欠乏性貧血が改善することもあれば、改善しないこともあったということです。

     

    こうなるとピロリ菌除菌が鉄不足を改善するのかどうかわかりません。しかし、2010年にはじめてメタ・アナリシスが発表されました。

     

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    ◆ピロリ菌と鉄欠乏性貧血のメタ・アナリシス

    2010年、Yuanらがピロリ菌と鉄欠乏性貧血のはじめてとなるメタ・アナリシスを発表しました(3)。

     

    メタ・アナリシスというのは、多くの研究・報告をまとめて統計的に分析したものです。エビデンスのなかでは、もっとも信頼性がたかいといわれています(くわしくは「EBMの超基礎知識」を参考)。

     

    対象になった研究は16のRCTです。対象者はピロリ菌に感染した鉄欠乏症患者で、除菌+経口鉄と経口鉄のみの治療で比較しています。

     

    結果はいかのようになりました。

     

     

     

    資料(3)より引用改編

     

    ピロリ菌除菌をおこなった患者(とくに中等度~重度の貧血がある患者)において、ヘモグロビン・血清鉄・フェリチンの値が有意に改善がしていました。

     

    つまり、ピロリ菌を除菌することで、鉄欠乏がさらに改善したということですね。研究者たちは、ピロリ菌除菌が貧血・鉄欠乏に有効であることが示唆されると結論しています。

     

     

    ◆鉄が改善しないときはピロリ菌の検査を検討しよう

    日本人のピロリ菌感染者は多いです。とくに年齢がうえの人ほど多いことがわかっています。

     

    資料(4)より引用改編

     

    鉄剤をながらく飲んでいるけど、なかなか貧血(鉄不足)が改善しないという人は、ピロリ菌検査を検討してみてもいいかもしれません。

     

    検査や除菌(治療)などについては、「ピロリ菌感染について~原因・症状・検査・除菌~」の記事を参考にしてください。

     

     

    ◆ピロリ菌は妊婦にも悪影響をおよぼす

    ピロリ菌と鉄不足について書いてきました。

     

    ピロリ菌が胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんなどに強く関係していることは知っている人もおおいと思います。

     

    しかし、ピロリ菌の影響はそれだけではありません。とくに妊婦さんへの影響は見すごせません。

     

    悪阻(つわり)や流産、子癇前症(妊娠高血圧腎症)などに関係しているという報告もあります。

     

    資料(5)引用改編作成

     

    ピロリ菌と名前はかわいいですが、非常に怖い細菌です。気をつけましょう。

     

    【資料】

    (1)The stomach and iron deficiency anaemia: a forgotten link.[PMID:12801042]

    (2)島田忠人:鉄欠乏性貧血とHelicobactor pylori感染症.日本内科学会雑誌 99(6), 1207-1212, 2010

    (3)Iron deficiency anemia in Helicobacter pylori infection: meta-analysis of randomized controlled trials.[PMID:20201716

    (4)胃がんは「ピロリ菌除菌」でなくせる、浅香正博・秋野公造、新潮版社、2017

    (5)Helicobacter pylori and pregnancy-related disorders.[PMID:24574739

     

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