EBMとは根拠にもとづく医療のことです。実践するためには、進歩する医療の知識を常にアップデートし、偏見を持たないよう注意する必要があります。世の中の真実は、データと現実の間にあることを意識し、データを患者におしつけないよう心がけましょう。
EBMとは
根拠に基づく医療(こんきょにもとづくいりょう、evidence-based medicine, EBM)とは、「良心的に、明確に、分別を持って、最新最良の医学知見を用いる」(“conscientious, explicit, and judicious use of current best evidence”) 医療のあり方をさす 。エビデンスに基づく医療とも呼ぶ。
治療効果・副作用・予後の臨床結果に基づき医療を行うというもので、専門誌や学会で公表された過去の臨床結果や論文などを広く検索し、時には新たに臨床研究を行うことにより、なるべく客観的な疫学的観察や統計学による治療結果の比較に根拠を求めながら、患者とも共に方針を決めることを心がける。
Wikipedia
WikipediaでEBMの概要はわかりました。きれいにまとまってますね。根拠を示しながら、患者とともに方針を決めていくのが大切なようです。ちなみに、ともに決めていくようなコミュニケーション法をshared decision making(SDM:共通意思決定)といいます。
エビデンスレベルとは
エビデンスとは根拠のことですね。もちろん、根拠にもレベルがあります。
隣に住んでいるおじいちゃんの話と専門家の話が同じレベルではありませんよね。さらに言えば、世界中にある多くの研究や調査を集め、分析したもののほうが専門家よりエビデンスのレベルは高くなります。
エビデンスのレベルについては以下のようになっています。
これはエビデンス・ピラミッドと呼ばれています。ピラミッドの上のほうにいくほど、信頼性が高く、研究を実施するのが困難になります。逆に下にいくほど、信頼性が低く、研究を実施するのが容易になります。もうちょっと細かく見ると以下のようになります。
信頼性が低い=誤っている?
ここでよく勘違いしている人がいますが、エビデンスの「信頼性が低いこと」と「誤っている」ことは同じではありません。
「信頼性が低い」というのは、正しいか間違っているかを「知らない(わからない)」という意味であって、「誤っている」ということではないのです。
つまり、信頼性が低くても正しいことはあり得るということです。
医学は常に進歩している
医学は日々進歩しています。昔は当たり前のように行われていた医療も、科学の進歩によって無効であるとわかると廃れていきました。
Shojaniaらの報告よれば、毎年200万件超の論文が発表されていますが、そのうちの23%が2年以内に、15%が1年以内に、7%が発表された時点で結論が覆されているとのことです(1)。
そうであるならば、私たちは常に新しい情報を得るように心がける必要がありますね。しかし、そうでない大人が多いのが実情です。
常に知識をアップデートする
大人になると勉強しなくなるものです。それは、なぜか?
自信(自分・人生)を否定されるからです。自分が長らく積みあげてきた経験と知識。これほど自分の自信になるものはありません。その自信を武器にして歩んできた人生。それが勉強によって、一瞬にして否定されることがあります。
たとえば、体罰によって生徒を更生してきた自信がある体育教師がいたとします。しかし、体罰は生徒に大きな害があり、有益なことはひとつもないことが研究によってわかっています(参照:体罰問題について~必要な体罰というものはありません~)。
勉強してしまうと、体罰が自信の根幹であった体育教師にとっては、今までの人生を否定されるように感じられるのです。だから、勉強しないのです。
「それでもいいじゃないか。自信をもって生きていくのは大切だ」という人がいるかもしれません。
私はそう思いません。勉強しないで育まれた経験と知識は、「偏見」というものに変わってしまいます。そして、勉強しないので自分が偏見に満ちていることさえも気づかないのです。偏見に利点はありません。偏見は進歩の障壁です。
上松司さんは、著書『会社習慣病』のなかで、「自分は正しい」という錯覚に陥ってしまった人のことを「お山の大将症候群」であると指摘しています。学ぶことをやめて、お山の大将症候群になってはいけないのです。
人の命にかかわる医療の専門家なら、なおさら偏見をもたないようにするのは必要でしょう。20年も30年も前の医療知識しかない、偏見に満ちた医師に診てもらいたくはないですよね。
いくつになっても謙虚に学びつづけ、学んだことを科学的に検証し、それを状況や患者の意向を踏まえて実践する。そういった基礎的なことがとても大切なんだと思います。
エビデンス・ハラスメントに注意
学ぶことは大切ですが、学んだことをそのまま患者にあてはめようとしてしまう人がいます。エビデンスを最優先して、患者にそれを押しつけるのはただのハラスメント(嫌がらせ)です(参照:エビデンスハラスメント(エビハラ)に注意しよう!)。
真実はどこにある?
世の中には「データを見ようとしない人」と「データしか見ない人」がいます。
データを見ようとしない人は、先述した勉強しない大人です。自分の狭い知識と経験だけをよりどころにして、偏見だけで世の中をみています。
データしか見ない人は、データが世のなかのすべてを表していると考えています。データだけですべてがわかると思っています。そういう人はどれだけデータと現実が乖離していようと、矛盾していようと気にしません。データこそが正義なのです(参考:論文は不正・捏造だらけ!?エビデンスをどう捉えていくか)。
データを見ようとしない人はスタートラインにも立っていませんし、データしか見ない人はデータを出すことがゴールだと思っています。どちらもよろしくありません。
真実というのは、データと現実の間にあるのです。それを常に意識して、偏った人間にならないよう注意しなければなりません。
【資料】
(1)How quickly do systematic reviews go out of date? A survival analysis.[PMID:17638714]
(2)PT・OT・STのための診療ガイドライン活用法、日髙正巳・藤本修平、医歯薬出版株式会社、2017
(3)臨床のためのEBM入門、吉川壽亮・山崎力、医学書院、2003
(4)TMS JAPAN METHOD2015資料
(5)論理的な考え方伝え方、狩野光伸、慶應義塾大学出版会、2015
(6)みんなの道徳解体新書、パオロ・マッツァリーノ、ちくまプリマー文庫、2016
(7)13歳からの反社会学、パオロ・マッツァリーノ、角川文庫、2013
(8)会社習慣病、上松司、マイナビ新書、2014