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ビタミンEとハプトグロビン~効果があるのはどんな人?~

忙しい人のための要約
ビタミンEは心血管疾患の予防や治療に効果がないということが大規模試験から指摘されています。しかし、ハプトグロビンの遺伝子型や糖尿病などに焦点をあてるとビタミンEの効果があることがわかっています。栄養素の効果だけでなく、現病歴や遺伝子なども考慮することが大切でしょう。

 

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目次

◆ビタミンEは効果がない?

ビタミンEは抗酸化物質として知られています。体内での酸化ストレスを軽減するとして、サプリメントなどで摂取している人も多いのではないでしょうか?

 

しかし、ビタミンEサプリメントの効果(エビデンス)はいまひとつです。調査によっては、ビタミンEサプリメントを摂取することで、死亡率が4~6%高まるというものもあります(1)。

 

しかし、ビタミンEが効果を発揮するひとつのキーとして、ハプトグロビンというタンパク質が関わっていることが、多くの調査からあきらかになってきました。

 

 

◆ハプトグロビンとは

1.ハプトグロビンの概要

そもそもハプトグロビンというのはなんでしょうか?

 

ハプトグロビン[haptoglobin]

血清α₂グロブリンの一画分に含まれるタンパク質。

ヘモグロビンと特異的親和性をもち、ヘモグロビンの尿中排出を阻止する。種々の疾患で変動がみられ、肝障害や溶血性貧血の患者では低値を示し、炎症性疾患では高値を示す。(中略)

ヒトのハプトグロビンはαおよびβの二つのサブユニットの結合したものでHp1-1、Hp2-1およびHp2-2の三つの型に分けられる。

(生化学辞典第4版)

 

ハプトグロビンは炎症期に増加するタンパク質の1種であり、ヘモグロビンとの関係が強いということですね(参照:アルブミンは炎症に指標!原因、解釈、メカニズムについて)。

 

また、ハプトグロビンにはHp1-1、Hp2-1、Hp2-2という3つの型があるとのこと。じつは、この3つの型というのがビタミンEとの関係において重要になってくるのです。

 

 

2.ハプトグロビンの遺伝子型について

ハプトグロビンの遺伝子型は、人種間でおおきく分布がちがうことが報告されています。

 

・欧米人ではHp1-1が16%、Hp2-1が48%、Hp2-2が36%(2)

・日本人ではHp1-1が7%、Hp2-1が40%、Hp2-2が53%(3)

・以下のような細かい報告もある:表参照(4)

 

資料(4)より引用、原典(5)

 

 

3.ハプトグロビンの抗酸化能

ハプトグロビンの特性(ヘモグロビン結合能や抗酸化能)は、遺伝子型によって変わります。ハプトグロビンは遺伝子型によって構造が異なるからで、Hp1はダイマー構造、Hp2-2はポリマー構造、Hp2-1はダイマー構造とポリマー構造になっています(6)。

 

さて、特性(抗酸化能)の機序について書いていきます。

 

ハプトグロビンはヘモグロビンと特異的親和性が高いということでした。つまり、仲がよくてくっつきやすいということです。

 

この効果によって、ハプトグロビンは、酸化作用(フェントン反応)をもつヘモグロビンと結合して、ヘモグロビンの酸化能を減弱するという働きがあることがわかっています(7)。

 

一方、Hp1-1とHp2-2の抗酸化作用の違いは、ヘモグロビンとの特異的親和性によるものではなく、ヘモグロビンのなかにあるヘム鉄を遮蔽する能力がHp2-2で低いためであるともいわれています(8)。

 

ハプトグロビンの抗酸化における機序については、いろいろあるようです。しかしながら、Hp2-2は、Hp1-1とくらべてヘモグロビンの酸化能力を中和する能力が劣っており、ヘモグロビンはHp2-2と結合したあとも酸化作用を発揮してしまうということは共通しています。

 

 

4.ヘモグロビンのクリアランス

ハプトグロビンによるヘモグロビンのクリアランス(排出能率)も、ハプトグロビンの遺伝子型によって異なっています(9)。

 

Hp2-2とヘモグロビンがくっついたHb-Hp2-2タンパク複合体は、Hb-Hp1-1タンパク複合体とくらべて、CD163受容体によるクリアランスが遅くなっており、結果として長時間の酸化的障害を及ぼすことになります。

 

CD163は、SRCR(scavenger receptor cysteine-rich、スカベンジャー受容体システインリッチ)スーパーファミリーに属する膜貫通タンパク質です。CD163は、ヘモグロビン-ハプトグロビン複合体のスカベンジャー受容体であり、単球およびマクロファージのマーカーとされています。

(コスモ・バイオ株式会社「CD163 抗体」)

 

 

5.Hp2-2はHDLの悪影響を与える

それから、Hp2-2がHDLにも悪影響を与えている可能性があります。

 

Hp2-2の糖尿病患者では、ほかの遺伝子型とくらべて鉄量が2.4倍、過酸化脂質量が50%多く、コレステロールの引き抜き能(末梢の余剰なコレステロールを肝臓へ送りとどける逆転送の能力)が30~40%低下していたとのこと(10)。

 

資料(10)より引用

 

ようするに、Hp2-2の遺伝子型の人は、Hp1-1のヒトよりも酸化ストレスを受けやすく、HDLの機能障害が起こりやすいということです。

 

 

Hp2-2で糖尿病があるとリスクが高まる

問題は糖尿病があるHp2-2の人なんです。

 

糖尿病というのは、血液中の血糖値が高くなる高血糖状態がつづくということです。高血糖状態では、ヘモグロビンも糖化されます。糖化によってヘモグロビンのなかにあるヘム鉄にたいするHp2-2の遮蔽効果が著しく低下し、多量の活性酸素が産生されることとなります(8)。

 

また、高血糖状態ではCD163の発現レベルが低下するので(11.12)、Hp2-2のクリアランスがさらに低下してしまうのです(13)。

 

 

◆ハプトグロビンと粥状動脈硬化のメカニズム

Prusgothamanらは、ハプトグロビンの遺伝子型によって、粥状動脈硬化巣の性状に大きなちがいがあることを見いだしました(14)。

 

Hp2-2では、粥状動脈硬化巣内の出血や鉄沈着、炎症細胞の浸潤および酸化系(ミエルペルオキシダーゼ)が増加、CD163およびIL-10(炎症性サイトカイン)の発現の低下などを認めました。

 

笠井は、以上のような結果から以下のようなメカニズムを推察しています(10)。

 

資料(10)より引用

 

Hp2-2遺伝子型の糖尿病患者では、Hp1-1遺伝子型/Hp2-1遺伝子型の糖尿病患者に比べCD163の発現が低いため、粥状動脈硬化巣内でのHbのクリアランスが低下しヘム鉄が増え、これを代償するためにミエルペルオキシダーゼが賦活化され、酸化ストレス、炎症および血管新生が増悪する結果、粥状動脈硬化巣の不安定化とアテローム血栓形成が高まる

 

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◆心血管疾患リスクのネックは糖尿病?

5つの試験によると、Hp2-2の糖尿病患者は、Hp1-1・HP2-1とくらべると心血管疾患のリスクが2~5倍高いことがわかりました(10)。糖尿病という酸化ストレスを受けやすい状態に、抗酸化能が低いHp2-2が合体すると大変なことになってしまうということですね。

 

ちなみにほかの調査では、糖尿病がない人(HbA1c6.5%未満)では、遺伝子型による心血管疾患リスクの差は認められませんでした(15)。糖尿病(血糖の状態)がネックになってくるということですね。

 

 

 

◆ビタミンEは遺伝子型によっては心血管疾患に効く!?

心疾患疾患の予防や治療にビタミンEが効かないというのは、多くの大規模試験で指摘されています。

 

しかしながら、糖尿病とハプトグロビンの遺伝子型に着目すると、その通説をつくがえす結果が見えてきます。

 

Levyらは、各ハプトグロビンを有する糖尿病患者にビタミンEとプラセボを投与しました(16)。結果は以下のようになりました。

 

資料(17)より引用

 

Hp2-2の心血管イベントが50%以上低下し、Hp1-1やHp2-1のイベント発生頻度まで低下しているのがわかります。

 

また、スタチンを併用するとその効果がさらに大きくなることもわかりました(18)。

 

資料(17)より引用

 

ほかにもHOPEとICAREという2つの大規模試験を、Hp2-2遺伝子とビタミンE摂取に着目して解析した報告があります(19)。

 

それによれば、ビタミンEを摂取していたHp2-2の糖尿病患者では、心筋梗塞、脳卒中、心血管関連の死亡が42%(95%CI:0.40-0.86)減っていました。また、ビタミンEを摂りつづけることで、Hp2-2の人の余命が3年ほどのびることも示唆されました。

 

つまり、ビタミンEが著明に効いたということですね。そして、今年になってHp2-2を有する糖尿病患者とビタミンEの効果を分析したメタアナリシスが発表されました(20)。

 

 

◆メタアナリシスでもビタミンEの効果があった

今年(2018年)の4月に発表された『Meta-analysis of the association of the haptoglobin genotype with cardiovascular outcomes and the pharmacogenomic interactions with vitamin E supplementation.』というメタアナリシスがあります(メタアナリシスについては→参照:理学療法士の70.1%がガイドラインを使ってないという事実)。

 

それによると、Hp2-2をもつ糖尿病患者は心血管疾患イベントが有意に多く、ビタミンE投与は心血管イベントおよび死亡率を下げました(Hp2-2以外の遺伝子型では、ビタミンEの効果は認められなかった)

 

心筋梗塞におけるビタミンEの効果については、有意差はなかったもののリスクが下がる傾向があるように思います。今後の研究いかんによっては、結果が変わってくるかもしれません。

 

 

 

資料(20)より引用改編

 

 

◆ビタミンEの投与の考察

ビタミンE投与が有用になるのは、酸化ストレスを受けやすいHp2-2の遺伝子をもつ人であることが考えられます。ビタミンEを投与することで、酸化ストレスと抗酸化のバランスが取れるということです。

 

逆に、酸化ストレスに強いHp1-1、Hp2-1の遺伝をもつ人は、酸化ストレスが弱まり、バランスが崩れてしまう。簡単に図にすると以下のような感じです。

 

資料(20)参照作成

 

酸化ストレスが少ないのはいいんじゃないかと思われますが、生体防御の観点などからみると、酸化ストレスも身体に必要なものです。

 

酸化ストレスと抗酸化のバランスが重要なわけで、ビタミンEで死亡率があがったなどの調査も、もしかしたらHp2-2以外の人に投与してしまったことが原因なのかもしれません。

 

 

◆まとめ

ビタミンEが糖尿病+Hp2-2の人に有効であることが示唆されました。日本人の半数はHp2-2を有しており、糖尿病患者も増加していることを鑑みると、ビタミンEは糖尿病を有する人の心血管疾患の予防・治療に役立つのではないかと考えられます。

 

2017年のAlshiekらの報告によれば、ビタミンEはHp2-2の糖尿病患者にたいして、糖尿病の罹患および心血管疾患を減少させるのに有効であろうとしています。しかし、それが正式な治療ガイドラインに採用されるには、すくなくとも6000人のHp2-2糖尿病患者を3年間追跡する必要があり、そのためには4000万ドルをこえる費用がかかるであろうと述べています(21)。

 

つまり、めちゃくちゃ金がかかるってことですね。ビタミンEが標準医療として認められるかどうかは、もうすこし様子をみる必要がありそうです。

 

それにしても、ビタミンやミネラルのサプリメントによる栄養の摂取が良いのか悪いのかを一律的に決めるのはナンセンスです。栄養のコンテンツばかりに気を取られて、コンテキストを見ていないのはよろしくありません。

 

ビタミンE(この栄養)が効くのはどういう人か?というのを、コンテキスト(現病歴、生活習慣、遺伝子など)に配慮しながら決めていくことが大切ではないでしょうか。

 

栄養側の生理学にとらわれて、摂取する人間を無視してしまうと、大きなデメリットになる可能性もありえます。

 

日々、勉強ですね(笑)

 

【資料】

(1)Meta-analysis: high-dosage vitamin E supplementation may increase all-cause mortality.[PMID:15537682

(2)Haptoglobin: the evolutionary product of duplication, unequal crossing over, and point mutation.[PMID:6751044]

(3)Genetic polymorphism of haptoglobin subtypes in a Japanese population.[PMID:3315964]

(4)堀尾文彦、ビタミンCとハプトグロビンの遺伝子多型(<特集>「ビタミンと遺伝子多型」-ビタミンC-)、ビタミン;87 巻 (2013) 9 号 p. 497-500

(5)Biological and clinical significance of haptoglobin polymorphism in humans.[PMID:8855140]

(6)M Frank. Structurc-tunction analysis of ihc antioxidant properties of haptoglobin. Bloody. vol.98, p.3693-3698.2001

(7)Identification of the haemoglobin scavenger receptor.[PMID:11196644]

(8)Haptoglobin genotype– and diabetes-dependent differences in iron-mediated oxidative stress in vitro and in vivo.[PMID:15662028]

(9)Genetically determined heterogeneity in hemoglobin scavenging and susceptibility to diabetic cardiovascular disease.[PMID:12750308]

(10)笠井俊二、ビタミンEとハプトグロビンの遺伝子多型(<特集>「ビタミンと遺伝子多型」-ビタミンE-)、ビタミン;87 巻 (2013) 7 号 p. 376-381

(11)AP Levy. Downregula-tion of the hemoglobin scavenger receptor in individuals with dia- f betes and the Hp 2-2 genotype: implications for the response to intraplaque hemorrhage and plaque vulnerability. Circ Res. (2007) vol.101, p.106-110.

(12)Oxidative stress and 8-iso-prostaglandin F(2alpha) induce ectodomain shedding of CD163 and release of tumor necrosis factor-alpha from human monocytes.[PMID:15925282

(13)Correction of HDL dysfunction in individuals with diabetes and the haptoglobin 2-2 genotype.[PMID:18599520]

(14)D Giugliano. Oxidative stress anddiabetic vascular complications. Diabetes Care. (1996) vol.19, p.257-267.

(15)LE Cahill. Haptoglobin genotype is a consistent marker of coro-S, nary heart disease risk among individuals with elevated glycosylated hemoglobin. J Am Coll Cardiol. (2013) vol.61, p.728-737.

(16)Antioxidants and atherosclerosis: don’t throw out the baby with the bath water.[PMID:12600900]

(17)笠井俊二、ハプトグロビンの遺伝子多型は疾患罹患リスクおよびビタミンEの疾患予防・治療効果を決定する重要な因子の一つである、ビタミン;84 巻 (2010) 3 号 p. 111-117

(18)Randomised controlled trial of vitamin E in patients with coronary disease: Cambridge Heart Antioxidant Study (CHAOS)[PMID:8622332]

(19)Vitamin E reduces cardiovascular disease in individuals with diabetes mellitus and the haptoglobin 2-2 genotype.[PMID:20415560]

(20)Meta-analysis of the association of the haptoglobin genotype with cardiovascular outcomes and the pharmacogenomic interactions with vitamin E supplementation.[PMID:29731659]

(21)Anti-oxidative treatment with vitamin E improves peripheral vascular function in patients with diabetes mellitus and Haptoglobin 2-2 genotype: A double-blinded cross-over study.[PMID:28759833]

(22)石川朋子・藤原葉子:ビタミンEと糖尿病、食と医療vol6、49ー56、2018

 

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