[ad#ad4]
◆ピロリ菌の概要
ヘリコバクター=ピロリ[Helicobacter pylori]
1983年、オーストラリアのB.J.MarshallとJ.R.Warrenは慢性胃炎患者の胃粘膜から、らせん菌を純培養することに成功した。その後、本菌が胃炎を惹起することが確認され、胃炎、胃・十二指腸潰瘍、胃がんなどの原因菌として注目されている。(中略)
きわめて強いウレアーゼ活性を有し、アンモニアを産生することにより、胃酸を中和し胃粘膜上で生存できる。臨床分離株の約60%が培養細胞に空胞を形成して死に至らしめるタンパク質毒素VacA(vacuolating cytotoxin A)を産生している。(中略)
米国立衛生研究所(NIH)は「消化性潰瘍患者は初発、再発にかかわらず、除菌療法をすべき」との勧告を行っている。わが国でも除菌療法が急速に進歩し、広く日常診療の一つとして普及している。プロトンポンプ阻害剤と抗菌薬2剤を用いた3剤併用療法は1週間以内に80~90%の患者の除菌を可能にする。
(生化学辞典)
◆ピロリ菌とは
ヘリコバクター・ピロリ(Wikipedia)より引用
ピロリ菌の体には、鞭毛(べんもう)という6本前後の脚があります。この脚を高速で回転させることで、胃の中を泳いでいます。つまり、ヘリコバクター・ピロリとは、「鞭毛を螺旋状に旋回させながら泳いでいる、胃の幽門から見つかった細菌」という意味になります。
◆ピロリ菌の感染率・感染の原因
資料(2)により引用、資料(3)出典
日本におけるピロリ菌の感染率は、
10歳までが5%程度
20代で10~20%程度
30代で15~25%程度
40代で40%程度、
40代以上では50%以上(70~80%程度とも)
といわれています。つまり、年配になるほど感染率が高くなっています。
日本で上水道の普及率が80%を超えたのは1970年です。それ以前は、井戸水などの水を使用していたわけです。そういった上下水道の完備といった衛生環境が関係しているようです。
そのため、上下水道が完備されていない時代に生まれた人、つまり現在の年配の人たちの感染率が高くなっているようです。いまの日本での感染は、口から口への家庭内感染(ピロリ菌感染している親が、離乳食などを口移しで子どもに食べさせるなど)がほとんどです。
ウレアーゼというのは、尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解する酵素(反応をおこす物質)のことです。
アンモニアはアルカリ性だから、胃酸とまじわると中和するんですね。だから、ピロリ菌は胃酸がある胃のなかでも生きていけるんです。
◆ピロリ菌と症状(胃炎・胃潰瘍・十二指腸潰瘍・胃がんなど)
ピロリ菌は、胃や十二指腸といった消化器の病気に関係しているといわれています。実際、胃・十二指腸潰瘍がある患者さんの90%が、ピロリ菌に感染していました(7)。
ピロリ菌と胃がんの関係は、多寡はあるものの間違いないでしょう(10)。
ピロリ菌が胃潰瘍や胃がんに関係していることを、知らなかったと人も多いのではないでしょうか?しかし、WHO(世界保健機構)は、20年以上もまえに「ピロリ菌は発がん作用のある細菌である」と認定しています。
資料(4)(5)参照作成
◆ピロリ菌除去と消化器疾患のエビデンス
ピロリ菌の除菌によって、消化器疾患が減少することは多くの報告から明らかになっています。いくつか紹介します。
■約1500名の日本人を8年間追跡した調査です(6)。
この調査によれば、ピロリ菌に感染している1246名のうち36名(2.9%)に胃がんが発生しました。たいして、ピロリ菌に感染していない280名には胃がんは発生しませんでした。
資料(6)より作成
■ピロリ菌を除菌できた人と除菌できなかった人で、胃潰瘍・十二指腸潰瘍の再発率を調査しました(7)。
結果は、除菌できたほうが圧倒的に再発率が低くなりました。
資料(7)より作成
■早期の胃がん発症者で、手術をおこなった人を対象にしています(8)。手術をした半数はピロリ菌除菌、もう半数は除菌をしないで経過をみました。
すると、除菌したほうが二次的な発がんのリスクが1/3になりました。つまり、除菌により胃がんの発生が減ったということです。
資料(8)より引用改編
■386名の胃がん患者を調査したところ、ピロリ菌陰性はわずかに3.11%でした(12/386名)。つまり、胃がんになった人の96%はピロリ菌に感染していたということです。ピロリ菌に感染していない人は、胃がんになる確率が低いということですね(9)。
◆マレーシアの謎
資料(4)より引用改編
マレーシアには、マレー人・中国人・インド人といった人種が異なるひとたちが住んでいます。マレー人は、ピロリ菌の感染率が低くて、胃がんも少ないです。中国人はピロリ菌の感染率は高く、胃がんも多いです。インド人はピロリ菌の感染率は高いですが、胃がんは少ないです。
こういった違いは、ピロリ菌の感染だけでは説明できないんですね。胃がんの発生には、ピロリ菌の感染が関係していますが、ピロリ菌だけではないということです。食生活や睡眠といったライフスタイル、精神的ストレスといった環境、遺伝なども関係しているかもしれません。
[ad#ad7]
◆ピロリ菌の検査~医療機関・ABC検査・検査キット~
まずは子どもでもピロリ菌の検査をしましょう。
年齢を重ねるにつれて、ピロリ菌は薬剤などへの耐性(薬が効かなくなる)をもつようになります。また小児のピロリ菌感染は、15歳をこえると増加しないとのことです。
資料(4)より引用改編
中学生くらいのときに、いちど検査を受けておくのが無難でしょう。
また、いまの日本でのピロリ菌感染の原因は、家庭内感染(親から子どもへ)でした。つまり、親になる前に検査をしておくことも大切です。親ならば、愛する子どもにピロリ菌を移したくないと思います。お子さんができる前に、感染していないか検査するのがベストではないでしょうか?
①医療機関で調べる
いきなり「ピロリ菌検査してほしい」と言っても、難しいようです。医者がピロリ菌の感染を疑って、はじめて検査ができます。
あと、健康保険が適応になるのは、胃カメラなどで胃炎と診断されないといけないようです。保険診療で、4000~5000円ほどの費用がかかります。
あとは、医者といっても得意・不得意の分野がありますので、ピロリ菌を検査したいという目的ならば、認定医などのピロリ菌に詳しい医者に診てもらったほうがいいと思います。
認定医を探すなら、「日本ヘリコバクター学会 認定医一覧」を参考にされるのがいいかもしれません。
②ABCリスク検診で調べる
自治体や企業などでは、「ABC検診」という名称でピロリ菌の検査を実施しています。血液検査などから、胃がんにかかるリスクを調べるものです。
しかし、血液検査ですので、リスクがないとなっても、安心は禁物のようです。ひとつの目安として、利用するのがいいかもしれません。
血液によるリスク評価の代表的なものとして、血清抗体価でピロリ菌の感染状態を判断し、胃粘膜の萎縮の程度をペプシノゲン法で判断し、その組み合わせで胃がんリスクをグループ分類する胃がんリスク評価(いわゆる「ABC分類」)があります。胃がんリスク評価では、胃がんになるリスクが高いか低いかを評価し、換言すれば、胃の健康度評価を行うことはできますが、胃がんを診断するものではありません。(中略)
ABC分類では、ピロリ菌抗体とペプシノゲン法とも陰性の場合をA群といい、一般的にはピロリ菌感染のない健康的な胃と判定されていることが多いのですが、実際のA群の中には、以前にピロリ菌に感染していた人や、あるいは、現在もピロリ菌感染が継続している人が一部含まれてしまいます。実際に、胃がんの患者さんの胃がんリスク評価の結果では、胃がんの10%前後がA群に分類されたという報告があります。
③検査キットで調べる
郵送検査で調べる方法です。
病院に行く時間がない人にはいいかもしれません。尿や便を採取して送るだけなので、それほどわずらわしくありません。
◆実際に検査キットを使ってピロリ菌を検査してみた!
わたしが使ったのはこの検査キットです。約3600円なので、ピロリ菌によって胃がんになるかもしれないことを考えれば、安いと思います。
ちなみにパートナーで調べてみようと思う人には、ふたり分用もありました。こちらのほうが6500円で、ひとつが3250円なので、すこしお得です。
便を採取して、郵送するだけです。結果はいかのように文書で通達されます。
わざわざ病院を受診し、医師に伝えたりする必要がないので、こちらのほうが圧倒的に楽ですね。
◆ピロリ菌の除菌(薬)について
ピロリ菌の除菌は、複数の薬剤を組みあわせて使用します。いまのところ、単独で有効な抗生物質はありません。
一次除菌と二次除菌、三次除菌があります。
①一次除菌
一次除菌では、PPI(プロトンポンプ・インヒビター=プロトンポンプ阻害薬)という胃酸をとめる薬と、AMPC(アモキシシリン)とCAM(クラリスロマイシン)というふたつの抗菌剤を、1週間かけて飲みます(2回/日)。
この除菌法で80%の人が除菌に成功します。
②二次除菌
一次除菌で使用するCAMは、ピロリ菌に耐性を生みやすい薬です。つまりピロリ菌に効かなくなります。
そのため、CAMをMNZ(メトロニダゾール)にかえます。そして、まあ1週間かけて飲みます(2回/日)。
二次除菌は、80~90%の人が成功します。
つまり、一次除菌+二次除菌により、95%の確率でピロリ菌を除菌できます。
③三次除菌
一次・二次除菌でも失敗したときは、三次除菌をおこないます。三次除菌では、MNZをニューキノロン系の抗生剤を使用します。
三次除菌では70%ちかくの人が成功します。
一次・二次・三次の段階的な除菌により、99%の人が除菌可能であると考えられています。
◆ピロリ菌除菌の効果
2000年に胃・十二指腸潰瘍にたいして、2013年に慢性胃炎にもピロリ菌除菌の保険がきくようになりました。
胃炎・十二指腸潰瘍炎、胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃がんの総患者数のどちらも減少傾向にあります。除菌の効果が出てきているのかもしれませんね。
◆胃がんを撲滅していこう!
ピロリ菌を除菌するだけで、胃がんを完全に予防できるわけではありません。しかし、ピロリ菌を除菌することで、胃がんなどの消化器疾患にかかるリスクが低くなることを示してきました。
下のグラフは部位別のがん死亡率を表したものです。胃がんの死亡率は、今でも高いことがわかります。
日本では、胃がんによって、これまで40年にわたって年間約5万人ものかたが亡くなられてきました。ピロリ菌を除菌することで、少しでも胃がんで亡くなる人を減らせるかもしれません。
ぜひ、ピロリ菌の検査をしてみてはいかがでしょうか?
【資料】
(1)生化学辞典、今堀和友ら監修、東京化学同人、2007
(2)武田薬品工業株式会社「ピロリ菌感染は予防できる?」
(3)Time Trends in Helicobacter pylori Infection and Atrophic Gastritis Over 40 Years in Japan.[PMID:25581708]
(4)日本消化器病学会「ピロリ菌と胃がん」
(5)胃がんは「ピロリ菌除菌」でなくせる、浅香正博・秋野公造、塩出版社、2017
(6)Helicobacter pylori infection and the development of gastric cancer.[PMID:11556297]
(7)Follow-up survey of a large-scale multicenter, double-blind study of triple therapy with lansoprazole, amoxicillin, and clarithromycin for eradication of Helicobacter pylori in Japanese peptic ulcer patients.[PMID:12743773]
(8)Effect of eradication of Helicobacter pylori on incidence of metachronous gastric carcinoma after endoscopic resection of early gastric cancer: an open-label, randomised controlled trial.[PMID:18675689]
(9)Re-evaluation of histogenesis of gastric carcinomas: a comparative histopathological study between Helicobacter pylori-negative and H. pylori-positive cases.[PMID:18709553]
(10)上村直実.1. Helicobacter pylori と胃がん.日本内科学会雑誌.Vol. 95,No. 3,P464-467,2006
(11)国立がん研究センターがん対策情報センター
(12)ピロリ菌.net
(13)むだ死にしない技術、堀江貴文・予防医療普及協会、マガジンハウス、2016
[ad#ad3]