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◆125ºは股関節+骨盤の複合的可動性の総和
日本整形外科学会・日本リハビリテーション学会が制定した「関節可動域表示ならびに測定法」によれば、股関節の屈曲角度は125ºです。
しかし、これは純粋な股関節(寛骨大腿関節)可動域ではありません。125ºというのは、股関節+骨盤の複合的な可動域の総和のことのようです。
◆純粋な股関節の屈曲角度は93°
吉尾の興味ぶかい報告があります(1)。
報告では亡くなった方の解剖により、純粋な股関節の屈曲角度は93±3.6ºであるとしています。股関節を屈曲すると、臼蓋と大腿骨頚部が衝突するため、93º以上は物理的に屈曲できないのです。
論文には解剖された写真が載っているのですが、すこしわかりにくかったので模型をつかって検証してみました。
左が骨盤を右からみた写真です。臼蓋に大腿骨骨頭がおさまっているわけですが、大腿骨の模型はないので、ペットボトルを使いました。キャップのところが骨頭、くびれた部分を頚部、本体を骨幹にみたてています。
ペットボトルを屈曲方向にもっていきます。ペットボトルでも約90ºくらいで臼蓋に衝突しました(右の写真)。なんとなくこれでイメージがつかめました。
ただし、これはあくまでも筋肉や脂肪といった軟部組織をのけて、骨だけを動かしたときの話です。生きている人間の体には、筋肉や脂肪といった軟部組織がありますから、実際の股関節屈曲角度は約70ºということでした。
資料(1)より引用改編作成
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◆可動域訓練と異所性骨化の関係
さきほどの論文では、いかのように述べています。
臨床では股関節の可動域は骨盤の動きを含んだ角度を言っているわけで、体幹と大腿骨の成す角を測っているわけです。真の股関節の可動域ではないわけです。
臨床ではそれが股関節だと思っていて、骨盤の動きがあるということをわかっているにもかかわらず、なぜか「90ºくらいしかない」という股関節を見たときには、股関節の可動域訓練が必要だということで股関節の伸長を行ってしまうのです。
これを見て思いだしたのが、異所性骨化です。異所性骨化について、脊髄損傷のところに以下のような記載があります。
麻痺域の関節周辺(膝、股、肘)に好発する。受傷後3か月前後に局所の腫脹や発赤を伴った可動域制限で発生することが多い。発生病理は不明であるが、拘縮した関節への外傷、過度の可動域獲得訓練などが誘因となる。
(標準整形外科学)
実際に異所性骨化がおきている写真がこれです(両側に異所性骨化があります)。
資料(3)より引用
股関節の純粋な屈曲角度は約90ºであるのに、骨盤の動きを無視した過度な股関節屈曲動作を反復することで、股関節周囲の組織に侵害刺激を与えているのかもしれません。その防御反応として、異所性骨化が生じている可能性が考えられますよね。
骨盤と大腿の協調性が失われた患者さん、とくに弛緩性麻痺があるような患者さんの可動域訓練では、それが侵害刺激にならないよう注意する必要があるのではないでしょうか?
【資料】
(1)吉尾雅春:セラピストのための解剖学.Sportsmedicine 25(2), 4-16,25-26, 2013
(2)標準整形外科学、国分正一ら監修、医学書院、2010
(3)The use of spect/ct in the evaluation of heterotopic ossification in para/tetraplegics.[PMID:24644413]
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