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◆笑顔は人の記憶に残るという”笑顔の優位性仮説”
人間には承認欲求があります。つまり、他人に認められたいという欲求です。認められるためには、まず顔を覚えてもらわないといけません。覚えてもらうために役に立ちそうなのは「笑顔の優位性仮説」(happy face superiority hypothesis)です。
笑顔の優位性仮説というのは、簡単にいえば「笑顔の人は記憶に残りやすい」ということです。実際に仮説を検証した報告を見てみましょう。
リエカ大学のŠvegarらの報告です(1)。
大学生24人が参加しており、以下のような実験を行いました。
学生たちに顔写真を見せます。顔写真の表情は笑っている、怒っている、驚いているなど7パターンで、そのうち6枚をランダムに配置して学生に呈示します。そして、しばらくしてから、1枚の写真を見せて、おなじ場所にあったかどうかを判断させるというものです(画像参照)。
資料(1)より引用
結果は以下のようになりました。
資料(1)より引用
笑っている顔(happy)が、圧倒的に正解している割合が高かったのです。つまり、笑顔の顔をよく覚えていることが示唆されたのです。
以前の記事『ことわざから導く孤独の悪循環を解消する方法』で、孤独感を避けるような遺伝子が人には残っているだろうということを書きました。サバンナの真ん中で孤独になれば死んでしまうので、それを避けようとする遺伝子があってもおかしくありません。
孤独を避けるための有効な手段として「笑顔」があったのではないでしょうか。笑顔を示すことで敵意がないことをアピールするのです。
かつ、笑顔をしめすことができるような協力的な関係を築ける人を、少しでも把握しようとする名残として、笑顔の優位性仮説があることが予測されます。
視覚に障害がある人が健常者と同様の表情で感情をあらわすといった報告もあり(2)、笑顔がいかに人にとって重要なものであるかがわかります。
◆笑顔はストレスを癒し、楽しみを増強する薬
笑顔はストレスを癒す魔法の薬でもあります。その科学的根拠をいくつか見ていきます。
カンザス大学のKraftらの笑顔のストレス軽減効果についての報告があります(3)。
この報告では、以下の写真のように若年健常者(170人)に、いろんなパターンで箸をくわえてもらうという実験をおこなっています。
資料(3)より引用
左から笑顔にならないくわえ方(neutral)、口角だけあがるくわえ方(standard-smile)、大きな笑顔になるくわえ方(Duchenne-smile)です。箸をくわえたまま、1分間にわたり氷水に手をつけるなどを遂行してもらい、その際の心拍数やストレスなどを計測しました。
結果は、大きな笑顔になるくわえ方(Duchenne-smile)のグループで、心拍数やストレスの度合いがもっとも低くなっていました。
資料(3)より引用
また、さきほどの実験と同じようにくわえてもらって笑顔をつくる方法で、読んでいる漫画がおもしろくなるかどうかを調べた報告があります(4)。結果は、笑顔をつくったほうのグループが漫画をおもしろく感じたとのこと。
なるほど、笑顔は人生を楽しくするようです。
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◆笑顔は他人のストレスも軽減する
広島国際大学の松本らは、笑顔が健常者のバイタルサインやストレスにどのような影響を与えるかを調べています(5)。
実験内容は、健康な対象者34名(模擬患者)に対して、2名の看護師が笑顔と無表情という異なる表情でバイタル測定などの看護介入をおこなうというものでした。
結果、平均血圧と脈拍数は笑顔の介入で有意に低下しました。またストレス(唾液αーアミラーゼ活性値)の変化量は、介入順序に影響を受け、無表情の介入で有意に増加することがわかりました。
看護師さんが笑顔でしてくれたほうが安心するのは想像に難くないですね。笑顔は自分だけでなく、他人も癒している可能性がありますね。
◆知ってはいけない笑顔の効果を笑い飛ばせ
ここで残念なお知らせがあります。
じつは、笑顔の効果を知っているとあまり効果がない(6)、笑顔の実験には再現性がないよといった批判的な報告があるのです(7)。
この記事を読んで、「笑顔って効果あるんだぁ」と知ってしまった人は、笑顔の効果が得られないかもしれません。。。
しかしながら、最近になって報告された山形県のコホート研究によれば、よく笑っている人のほうが、全死亡率や心血管疾患の発症率が低くなる可能性があることが示唆されました(8)。
資料(8)より引用改編
「効果ないかも」なんて、笑い飛ばしてしまうくらいでいきましょう!(無理やり笑)
【資料】
(1)Domagoj Švegar, Igor Kardum. “Happy Face Superiority Effect in Change Detection Paradigm.” Psihologijske Teme 22(2013):249-269.
(2)Matsumoto, David, and Bob Willingham. “Spontaneous facial expressions of emotion of congenitally and noncongenitally blind individuals.” Journal of personality and social psychology 96.1 (2009): 1.[PMID:19210060]
(3)Kraft, Tara L., and Sarah D. Pressman. “Grin and bear it: The influence of manipulated facial expression on the stress response.” Psychological science 23.11 (2012): 1372-1378.[PMID:23012270]
(4)Strack, Fritz, Leonard L. Martin, and Sabine Stepper. “Inhibiting and facilitating conditions of the human smile: a nonobtrusive test of the facial feedback hypothesis.” Journal of personality and social psychology 54.5 (1988): 768.[PMID:3379579]
(5)松本睦子, et al. “看護師の表情の違いが対象者のリラクセーションに及ぼす影響: 健康対象者におけるバイタルサインおよび唾液 α-アミラーゼ活性値の変動について.” 広島国際大学看護学ジャーナル 10.1: 15-26.
(6)Labroo, Aparna A., Anirban Mukhopadhyay, and Ping Dong (2014), “Not Always the Best Medicine: Why Frequent Smiling can Reduce Well-Being,” Journal of Experimental Social Psychology, 53 (July), 156-162.
(7)Wagenmakers, E-J., et al. “Registered replication report: strack, martin, & stepper (1988).” Perspectives on Psychological Science 11.6 (2016): 917-928.[PMID:27784749]
(8)Sakurada, Kaori, et al. “Associations of frequency of laughter with risk of all-cause mortality and cardiovascular disease incidence in a general population: findings from the Yamagata study.” Journal of epidemiology (2019): JE20180249.[PMID:30956258]
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