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◆ポリファーマシーとは多種類の服薬による不健康の状態
ポリファーマシーという言葉をご存知でしょうか。Twitterで1時間だけアンケートしてみたら、以下のような結果でした。
ポリファーマシーの意味が、
— SGM (@SGM31214252) June 13, 2019
自分をフォローしてくれている人はリハビリ関係者が多いと思うので、リハビリ職内ではあまりポリファーマシーというのは一般的ではないのかもしれません(10名だけなんでなんともいえませんが笑)。
ポリファーマシーとは、「ポリ:poly(複数)」と「ファーマシー:pharmacy(調剤)」からなる言葉で、一般的には『多剤併用により有害事象が起こっている状態』を意味します。
しかし、多剤併用、つまりたくさん薬を飲んでいるから悪いというわけではありません。多剤併用していても、患者さんにデメリットがなければポリファーマシーとは言えません。逆に、飲んでいる薬が少なくても、薬の副作用や薬物間の相互作用などによるデメリットがあればポリファーマシーになります。
2015年の厚生労働省の調査によれば、2つ以上の慢性疾患がある高齢者では、平均6剤以上の処方がおこなわれていることがわかりました(1)。
薬が多いというだけで、ポリファーマシーになってしまうと多くの人がポリファーマシーになってしまいます。多くの薬を使用している人で、薬のデメリットが生じている人をポリファーマシーというわけですね。
◆10種類を服用するハイパーポリファーマシーは世界的問題
ただし、さすがに多量の薬を飲んでいると問題になるようです。薬の種類によらず、10種類上の薬を使用している場合を「ハイパーポリファーマシー」といいます。
厚生労働省の調査によれば、65~74歳では11.7%、75歳以上では27.3%の患者さんがハイパーポリファーマシーだったとのこと(2)。これは医療費が増加しているなか、非常に重要な数字であるように思います。
また、これは日本にかぎった問題ではないようです。とある報告によれば、イギリスでは入院患者のハイパーポリファーマシーの割合が、1995年から2010年にかけて、1.9%から5.8%に増加していたとのこと(3)。
◆ポリファーマシーが起こる4つの理由
さて、ポリファーマシーがおこる理由を4つほど取りあげて紹介していきます。
(1)薬の副作用を薬で打ちけす処方カスケード
(2)患者の安心、患者の期待
(3)薬の処方の管理が難しい
(4)科学的根拠に乏しい処方
(1)薬の副作用を薬で打ちけす処方カスケード
処方カスケードという言葉があります。カスケードというのは、何段も連なった小さな滝のことです。
薬には副作用がでてしまうものがあります。たとえば、Ca拮抗薬の副作用である頭痛などがそれにあたるでしょう。その頭痛を消すためにNSAIDsを処方するということがあります。
このように副作用により日常生活に支障などが出る場合や副作用を見こしてそれを打ち消すために、さらに薬を処方をする場合などがあります。これが処方カスケードです。上流から流れてくる水のごとく、どんどん処方が増えていくというイメージですね。
(2)患者の安心、患者の期待
以前の『理学療法士が効果のない治療をおこなう8つの理由』のなかで、患者さんの期待に応えるために効果のない治療をおこなってしまうことを紹介しました。
ポリファーマシーも同様で、患者さんの安心感や期待感のためについつい処方をしてしまうのも原因のひとつになります。
(3)薬の処方の管理が難しい
日本の医療制度の問題点として、フリーアクセスが挙げられます。フリーアクセスというのは、患者さんがどこの医療機関でも受診ができるというものです。あっちでも処方してもらって、こっちでも処方してもらってということになりやすいんですね。
薬局などで処方などを確認しますが、不十分になりやすいですよね。お薬手帳を忘れましたとか、飲んでいる薬を管理できてないとか。
(4)科学的根拠に乏しい処方
効果の乏しい、または認められていない薬を漫然と処方してしまうという可能性もあります。ほかの病院で処方されていたからまた処方するなど。
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◆ポリファーマシーにおける転倒リスクの増加
リハビリ職種とポリファーマシーになんの関係があるのかといえば、ポリファーマシーの有害事象として転倒が挙げられるからです。
資料(2)より引用
上記のグラフは、高齢者の投与薬剤数と有害事象の関係性をあらわしたものです。
1995年~2010年に、東京大学病院の老年病科に入院した、65歳以上の高齢者2412人の薬物による副作用を後向きに調査したもので、6剤以上の投薬がとくに有害事象の発生増加に関連していることがわかりました(4)。
また、おなじく東京大学病院の都内のクリニックに通院している高齢患者165名を2年間にわたり追跡した報告によれば、5剤以上の服用をしていた患者の40%に転倒が発生していました(5)。
アメリカのHitzemanらの報告でも、入院している高齢者の6分の1に薬物の有害事象が認められ、とくに転倒が多いことが報告されています(6)。
ポリファーマシーと転倒リスクの関係について知っていると、リスクが高い患者さんの転倒予防などにつながりますね。
◆減薬の理解をすすめるために
最近では、ポリファーマシーの患者さんが減薬すると医療機関に報酬が支払われるようになりました。
入院患者が入院前に6種類上の内服薬を処方されていた場合、入院中に2種類以上の内服薬を減薬すると、退院時に2500円が病院にボーナスとして支払われます。
『健康の経済学』P44
リハビリ職種といえでも、医療の情勢としてポリファーマシー(服薬により転倒のリスクが高まるなど)について知っておいたほうがよいでしょう。
減薬に関しては、専門家には日本老年医学会の『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン』、一般人にはおなじく日本老年医学会の『高齢者が気を付けたい多すぎる薬と副作用』(パンフレット)が有用そうです。
【資料】
(1)「平成26年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査」(平成27年度調査)
(2)『個別事項 (その4 薬剤使用の適正化等について)』(PDF)
(3)『Polypharmacy: Guidance for Prescribing』
(4)Kojima T, Akishita M, Kameyama Y, et al: High risk of adverse drug reactions in elderly patients taking six or more drugs: analysis of inpatient database. GeriatrGerontol Int. 2012; 12: 761-2. [PMID:22998384]
(5)Kojima, Taro, et al. “Polypharmacy as a risk for fall occurrence in geriatric outpatients.” Geriatrics & gerontology international 12.3 (2012): 425-430.[PMID:22212467]
(6)Hitzeman, Nathan, and Katherine Belsky. “Appropriate use of polypharmacy for older patients.” American family physician 87.7 (2013): 483.
(7)健康の経済学、康永秀夫、2018、中央経済社
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