座っている時間が増えると総死亡率増加、心血管疾患死亡率増加、2型糖尿病発症などのリスクを上昇させる可能性があります。長時間の座りっぱなしのリスクを軽減するには、30分~1時間おきに5分ほど歩くなどの軽い活動を取り入れるのがいいかもしれません。
座位時間と死亡率の関係
座位時間が長いくなると、死亡率が高くなる傾向があることが多くの研究でわかっています。ひとまずそれらの研究を見てみましょう。
①Inoueらの報告
これは45~74歳の83034人(男性39183人・女性43851人)が対象で、平均8.7年追跡した多目的コホート研究(JPHCスタディ)です(1)。
この研究によれば、男性ではテレビ視聴時間が週3時間未満の群に比べて、8時間以上の群では死亡の相対危険度が有意に高いことが示されています(参照:身体活動量と死亡との関連について)。
②Katzmarzykらの報告
この研究では、身体活動量に関わらず座位時間が総死亡、心血管系疾患による死亡と有意に関連することが示されています(座っている時間が「ほとんどない」群と比較した場合)(2)。
③Dunstanらの報告
オーストラリア人8800人を対象にした前向きコホート研究です(3)。
この研究によると、テレビ視聴時間が総死亡率、心血管系疾患による死亡率が有意に関連していることが示されています。
④Basterra-Gortariらの報告
スペインの研究で、13284人を対象にしたコホート研究です(4)。
報告によれば、テレビを1日3時間以上見ていると死亡リスクが2倍になっていたとのことです。
⑤Wilmotらの報告
システマティックレビューです(5)。
解析によれば、テレビ視聴と座位時間はいずれも2型糖尿病発症の危険因子であるとのこと。とりわけ、座位行動の2型糖尿病に対する影響は、死亡率や心血管系疾患と比べても強いことが示唆されています。
長時間座位の対策はあるか?
座位時間が長くなればなるほど、身体にたいする悪影響は大きいようです。とくに糖尿病や心疾患に強く影響するようですね。
座位時間増加にともなうリスクをいかに軽減していくか。これが問題だと思います。いくつかヒントになりそうな研究があったので、それについて書いていきます。
①Thorpらの報告・Dunstanらの報告
これらの報告によれば、20~30分おきに軽く活動(2分ほど歩く)するだけでも、グルコース応答やインスリン分泌などの代謝系に好影響があったとのことです(6・7)。
②Thosarらの報告
これは「3時間座りっぱなしの群」と「座りっぱなしの間に軽く歩いた群」を比較した研究です(8)。
どちらも開始時、1時間おきにFMD(Flow Mediated Dilation:血流依存性血管拡張反応)を計りました。歩行群は座ってから30分後、1時間半後、2時間半後にトレッドミルを使って5分歩きました。
結果は以下のようになりました。
座位群は有意にFMDが低下していました。FMDというのは、以下のような指標とされています。
カフで腕を締めた後の血流増大によるずり応力により血管拡張物質である一酸化窒素(NO)が血管内皮からどれだけ放出されたかを診る検査です。 血管内皮機能が低下しているとNOの産生が少なくなり、FMD値は低下します。
UNEXホームページ「FMD検査とは」より
長時間の座りっぱなしが、下肢の鬱血(静脈の血液の流れが悪くなって滞留する状態)を引きおこし、それが動脈などに影響を与えているようです。
この報告を参考にすれば、少なくとも30分~1時間ごとに5分間ほどウォーキングを取り入れるだけで、長時間の座位によるデメリットを相殺できるかもしれません。
まとめ
じっとしているのは肉体的にも精神的にもよろしくないようです。なるべく意識して、こまめに動くようにしましょう。
【資料】
(1)Daily total physical activity level and premature death in men and women: results from a large-scale population-based cohort study in Japan (JPHC study).[PMID:18504139]
(2)Sitting time and mortality from all causes, cardiovascular disease, and cancer.[PMID:19346988]
(3)Television viewing time and mortality: the Australian Diabetes, Obesity and Lifestyle Study (AusDiab).[PMID:20065160]
(4)Television viewing, computer use, time driving and all-cause mortality: the SUN cohort.[PMID:24965030]
(5)Sedentary time in adults and the association with diabetes, cardiovascular disease and death: systematic review and meta-analysis.[PMID:22890825]
(6)Alternating bouts of sitting and standing attenuate postprandial glucose responses.[PMID:24637345]
(7)Breaking up prolonged sitting reduces postprandial glucose and insulin responses.[PMID:22374636]
(8)Effect of prolonged sitting and breaks in sitting time on endothelial function.[PMID:25137367]
(9)UNEXホームページ「FMD検査とは」:http://unex.co.jp/fmd/
(10)身体活動・座位行動の科学、熊谷秋三・田中茂穂・藤井宜春、杏林書院、2016