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    忙しい人のための要約
    ランドセルは児童の腰背部痛などの痛みに関係している可能性があります。タブレットなどを利用するなどして対策が必要でしょう。また、生物心理社会モデルを意識して、多角的に介入することも重要だと思います。

     

     

    ◆はじめに

    ランドセルと腰背部痛について書こうと思ったのは、森下さんが以下のようなツイートをしていて、質問させていただいたのがきっかけとなりました。

     

     

    わたしもランドセルと腰背部痛についてすこし興味はあったのですが、エビデンスは知らなかったので、この機会に調べてみようと。さて、本編にいきます。

     

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    ◆システマティックレビュー:ランドセルは背部痛に関係

    最初に断っておきますと、原著論文ではランドセルではなくバックパックとなっています。背負ってはこぶという本質は変わりませんので、本記事では、便宜的にランドセルと記載しています。

     

    さて、33の報告を解析したシステマティックレビューがあります(1)。システマティックレビューというのは非常に質の高いエビデンスのことです(参照:EBM(根拠に基づく医療)とは~初学者のための超基礎知識~

     

    この報告によると、児童(children and adolescents)において、背部痛はランドセルによる姿勢の変化やランドセルの重量などと関係しているとのことでした。ランドセルの使用は、児童の背部痛のリスクになる可能性がありそうです。

     

    ランドセルと腰背部痛のリスク因子について、もうすこし詳しくみていきます。

     

     

     

    ◆児童の腰背部痛のリスク因子とメカニズム

     

    1.ランドセルの重量・体重比

    ランドセルの重量が腰背部痛に関わっているという報告があります。

     

    ・システマティックレビューにおいて、背部痛とランドセルの重量が関係している(1)

    ・12〜18歳の1126人の児童を対象にした研究によると、ランドセル自体の重量と体重に対するランドセルの重さ(ランドセルの体重比)が大きいことが腰背部痛に関係(2)

    ・10~18歳の871人の児童を対象にした研究によると、感じられるランドセルの重さが腰背部痛の症状と関係(3)

    ・9歳から15歳までの344名の児童を対象にした研究によると、ランドセルの重量が増加するにともなって背部痛が増加した(4)

    ・11〜14歳の1540人の児童を対象にした研究によると、多変量解析において重いランドセルが腰背部痛に関係(5)

     

    ランドセルの重量・体重比が大きくなることが、腰背部痛に関係しているようですね。

     

    ランドセルの体重比に関しては、10%程度がカットオフ値として推奨できるという報告があります(6)。また20%をこえると注意が必要という報告もあります(7)。ランドセルを使用するのであれば、ランドセルの体重比を10%以下にするようにするのがよいでしょう。

     

    たとえば、25kgのお子さんがランドセルを使用する場合は、2.5kg以下にするといった感じでしょうか。後述するように、若年もリスク因子になっています。おそらく若年であるほど、ランドセルの体重比が大きくなりがちということもあると思われます。

     

    1999年とすこし古いですが、日本の小学生のランドセルの比重についての報告があります(8)。それによると、ランドセルの体重比は以下のようになっています。

     

    資料(8)参照作成

     

    ランドセルの体重比(平均値)

    ・小学1年生(N=144):14.8%

    ・小学4年生(N=157):11.2%

    ・小学6年生(N=162):9.0%

     

    やはり、低学年ほどリスクがありそうです

     

    また、ランドセル重さは、血流にも関係しているかもしれません。

     

    Maciasらの報告によると、ランドセルの重量による圧は、皮膚の血流を閉塞する圧力閾値(約30mmHg)よりも高いということが報告されています(9)。実際、若年女子において、リュックサックを背負ったときの肩の荷重圧により、指血流量が減少するという報告もあるようです(8)。

     

    ランドセルを使用することで、血流が阻害され、腰背部痛が間接的におこっているのかもしれませんね。

     

     

    2.年齢(若年)

    若年もリスク因子であると報告されています。

     

    ・11〜14歳の1540人の児童を対象にした研究によると、多変量解析において若年が腰背部痛に関係(5)

     

    さきほども述べたように、若年であるということは体が小さいということです。体が小さいとランドセルの比重が大きくなりがちであったり、体の発育が不十分なためランドセルの重さの影響を受けやすいのかもしれません。

     

     

    3.性別(女性)

    女性という性別もリスク因子になっています。

     

    ・10~18歳の871人の児童を対象にした研究によると、女性が腰背部痛の症状と関係(3)

    9歳から15歳までの344名の児童を対象にした研究によると、少女は少年よりもはるかに多くの腰背部痛を経験(4)

    ・11〜14歳の1540人の児童を対象にした研究によると、多変量解析において女性が腰背部痛に関係(5)

    ・13歳から15歳までの児童とその親(16394名)を対象にした研究によると、女性が腰痛と関係(10)

     

     

    4.姿勢の変化・側弯症

    側弯症や姿勢の変化なども関係しています。

     

    ・10~18歳の871人の児童を対象にした研究によると、姿勢が腰背部痛の症状と関係(3)

    ・11〜14歳の1540人の児童を対象にした研究によると、多変量解析において脊柱側弯症のスクリーニング検査陽性が腰背部痛に関係(5)

    13歳から15歳までの児童とその親(16394名)を対象にした研究によると、脊柱側彎症が腰痛と関係(10)

     

    森らの報告によると、ランドセルも重さが増量するにともなって、前傾姿勢が強くなるのが認められました(8)。

     

    資料(8)より引用

     

    長時間の登下校中の前傾姿勢は、発育途中の児童には過負荷になる可能性がありますね。

     

     

    5.使用時間

    使用時間も関係しているようです。

     

    ・10~18歳の871人の児童を対象にした研究によると、使用時間が腰背部痛の症状と関係(3)

    ・平均11.7歳の115人の児童を対象にした研究によると、ランドセルの使用時間が背部痛に関係している(11)

     

     

    ◆腰背部痛のリスクを下げる因子

    ロッカーのある児童は、腰痛が少ないと報告されています(5)。

     

    理由としては、荷物を置いていく、いわゆる置き勉(教科書などを家へ持ち帰らないこと)によって、ランドセルの重量が減るからというのは考えられますが、ちょっと外国の小学校の事情がよくわかんないので、ぜんぜん違うかもしれません(笑)

     

     

    ◆ランドセルは関係ないという報告もある

    いろいろ児童の腰背部痛とランドセル(その他のリスク因子)について書いてきましたが、ランドセルは関係ないという否定的な報告も散見されます。

     

    ・重いランドセルを腰痛の原因とする強力な証拠はない(12)

    ・11~14歳の1446人の児童を対象にした研究によると、ランドセルの重量などの機械的要因は腰痛に関連していなかった(13)

    ・19の研究を解析したところ、ランドセルの重量や運搬について一貫した解決策は不明(14)

     

     

    ◆生物心理社会モデルでの対応が重要

    ランドセルを使用することでの疲労感が、間接的に腰背部痛に関係しているという報告があります(11)

     

    疲労は肉体的なものもあるかもしれませんが、もしかしたら心理的な面からの影響もあるかもしれません。実際、疲労というのは脳の酸化ストレスによるともいわれています(参照:イミダペプチドによって疲労が取れる!?

     

    痛みに関しては、「構造異常モデル」から「生物心理社会モデル」へのシフトが提唱されています(参照:急性腰痛と危険因子ガイド~慢性化させる治療家の特徴~)。

     

    資料(15)参照作成

     

    痛みの原因が筋肉や骨といったもの(筋骨格系)の異常だけでとらえるのではなく、生物学的・心理学的・社会学的要因からとらえようということですね。論文でもそのように推奨されています(12.16)。

     

    ランドセルの機械的なストレスのみではなく、心理社会的なものも含めて診ていくことが大切ですね。ランドセルの使用→疲労感→メンタルストレス→筋緊張増加→痛みということもあり得ますからね。

     

     

    ◆ランドセル負荷問題における結論と対策

    1結論:ランドセルを軽くしよう

    否定的な報告もありますが、総合的にみて、ひとまずランドセルは軽くしたほうがいいかなと思います。

     

    とくに小さい女児などはリスクがありますし、腰背部痛以外の首痛や肩痛などにも影響しているとの報告もありますから(17)。

     

    最近はタブレットなども安価になってますし、教科書は家で見て、学校にはノートとタブレットだけとか上手に使いわけできたらいいのではないでしょうか?

     

    もちろん、腰背部痛の原因はランドセルだけではないので、先述したように多角的にみていく必要があると思います。

     

     

    2.対策:ランドセルを正しく使用しよう

    株式会社のセイバンが、2000人を対象にして調査した報告があります(18)。それによると、以下のようなことがわかっています。

     

    ・小学生は平均約6kgのランドセル(荷物含む)を背負って登校している

    ・小学生の約3割が、ランドセルを背負って痛みを感じている

    ・体格にあわせてランドセルの肩ベルトの調節をしているのは66.2%

     

    これは今年(2018年)の報告です。やや大雑把な調査なので、なんとも言えないところもありますが、気になるのは、ランドセルのベルトを調節していない人が3~4割ほどいることですね。

     

    ランドセルを軽くするといっても、現状ではむずかしいこともあると思います(置き勉したらダメという先生もいるかと思いますし、宿題をやるにあたっても教科書は必要ですから)。よって、可能なかぎり軽くすることを念頭に、なるべく正しくランドセルを使うことも大切です。

     

    まずは、背中とランドセルのあいだに隙間をつくらない。隙間があると前傾姿勢になりやすく、体に負担がかかるからです。

     

    資料(18)より引用

     

    そのためには、成長や季節(服によって体格が変わるため)におうじて、こまめにランドセルのベルトの長さを調節することも必要です。資料(18)には、目安として以下のように書かれています。

     

    小学校1年生の薄着の季節は上から2番目、厚着の季節は上から4番目、小学校6年生は上から6番目となります。背負った時にランドセルが地面に対して垂直になっているか、背中にピッタリしているかをチェックしながら、調節してください。

    資料(18)より引用

     

    ほかにも、重いものは背中側に軽いものは表側にする、ランドセルのなかの教材などが動かないように詰めていれるなども重要のようです。

     

    子どもたちが痛みに苦しまないよう、対策をしっかりしていきましょう。

     

    追記

    2018年9月3日、文部科学省は、通学時の持ち物負担の軽減にむけて、適切に工夫するよう(置き勉を認めるなど)全国の教育委員会に求める方針を決めたとのことです。子どもたちの負担がすこしでも減るのはいいことですね。

     

    【資料】

    (1)Thoracic spine pain in the general population: prevalence, incidence and associated factors in children, adolescents and adults. A systematic review.[PMID:19563667]

    (2)The association of backpack use and back pain in adolescents.[PMID:12942009]

    (3)School backpacks: it’s more than just a weight problem.[PMID:20075526]

    (4)Correlation between backpack weight and way of carrying, sagittal and frontal spinal curvatures, athletic activity, and dorsal and low back pain in schoolchildren and adolescents.[PMID:14734974]

    (5)Back pain and backpacks in school children.[PMID:16670549]

    (6)Association of relative backpack weight with reported pain, pain sites, medical utilization, and lost school time in children and adolescents.[PMID:17430435]

    (7)[Backpack and spinal disease: myth or reality?].[PMID:15211269]

    (8)森由紀大村知子大森敏江木岡悦子:小学生の学習用具の携行方法と負荷について、日本家政学会誌 50(9)、949-958、1999

    (9)Asymmetric loads and pain associated with backpack carrying by children.[PMID:18580364]

    (10)Risk factors for non-specific low back pain in schoolchildren and their parents: a population based study.[PMID:12791432]

    (11)Backpacks on! Schoolchildren’s perceptions of load, associations with back pain and factors determining the load.[PMID:11805666]

    (12)Low Back Pain in Children and Adolescents.[PMID:28264103]

    (13)Low back pain in schoolchildren: the role of mechanical and psychosocial factors.[PMID:12495949]

    (14)The backpack problem is evident but the solution is less obvious.[PMID:19369725]

    (15)痛覚のふしぎ、伊藤誠二、講談社、2017

    (16)Back pain and backpacks in children: biomedical or biopsychosocial model?[PMID:17023376]

    (17)Back pack injuries in Indian school children: risk factors and clinical presentations.[PMID:22316840]

    (18)セイバン『脱ゆとり教育の小学生、平均6kgのランドセルので通学』(→PDF

     

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