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◆はじめに
世の中には『成功哲学』といった本のジャンルがあります。この場合の成功というのは、おもに「金持ちになる」といった感じだと思います。「成功するための15の法則」とか「ユダヤ人が教える成功に必要なもの」みたいな。
今回は、この『成功哲学』というのは、本のなかでももっとも役に立たないよということを書いていこうと思います。
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◆成功哲学とは後づけに過ぎない
渋沢栄一という人をご存知でしょうか。
Wikipediaには、『江戸時代末期(幕末)から大正初期にかけての日本の武士(幕臣)、官僚、実業家。第一国立銀行や東京証券取引所などといった多種多様な企業の設立・経営に関わり、「日本資本主義の父」ともいわれる』と説明されています。
渋沢栄一といえば、論語が有名ですよね。渋沢自身が『論語と算盤』という本を書いているほどで、論語の仁義道徳精神が自分をここまで成功に導いたとものと考えていたようです。
しかし、日本文化史研究家のパオロ・マッツァリーノさんは、論語と渋沢の歴史的背景に触れながら、矛盾さについて著書『エラい人にはウソがある』のなかで指摘しています(詳しくは本を読んでください)。
そして、成功哲学というものについて、以下のように言及しています。
これはあとづけの論理だということです。歴史はしばしば、後世の人間の倫理道徳・歴史観によって勝手な解釈がほどこされ、史実が歪められてしまうものなのです。(中略)
人間は、先に信念や哲学を思いついて、それに基づいて行動したりしません。おのれの経営哲学を本にして出版してから会社経営をはじめる人なんてのはいません。先に行動があり、それが成功をおさめると、あとからもっともらしい理屈をつけて、成功には理由があったかのように自慢したがる。それが人間の業なのです。
『エラい人にはウソがある』P175ー176
たしかに、よくよく考えてみればそうですよね。行動していくなかで、自分なりの法則や哲学といったものがつくられていくわけで、それが先にあるというのはあり得にくいです。よほどの大天才なら、あり得るかもしれませんが。
吉岡友治さんも、著書『「眼力」をつける読書術』のなかで、『成功哲学』関連の本について、同様の指摘をしています。
こういう本は、理由が徹底的に後づけになるからだ。成功した者がやったことをとりあえず並べているだけにすぎない。
でも、成功する前には、試行錯誤の段階がある。結果につながらないこともいろいろ試しているはずだから、後になって振り返って、そのどれが役に立ったか、本人だってわかりはしない。それを無理に後から、「成功に至る道筋」と意味づける。
『「眼力」をつける読書術』P124
◆成功哲学にはいろいろなバイアスが関わっている
人の脳というのは、不安定を嫌う傾向があります。なにか安定したものを求めてしまうものなんですね。それは、趣味や習慣のみならず、技能や思考パターン、政治、宗教に信条など多岐にわたります。
そういう傾向のなかで、「昔から自分はそうだった」と考えるバイアスがあり、それを「一貫性バイアス」といいます。
たとえば、自分は昔から論語が好きで、それを実践してきたと言う渋沢栄一などはそれにあたるのではないでしょうか? なぜなら、渋沢が論語を熱心に語りだすのは1908年、つまり渋沢が68歳のときです。若いときから読んでいたのであれば、30~40歳代など若い時分からもっと語ってもいいような気がします。
おそらく、自身の成功哲学を考えていく中で、一貫性バイアスが働き、その対象が論語だったのではないかと推察されます。
ほかにも「利用可能性ヒューリスティック」も考えられます。ヒューリスティックというのは、直感的判断という意味で、利用可能性ヒューリスティックとは、「自分が以前に見聞きして頭に浮かべやすいことに影響される」というものです。
たとえば、9・11のテロ。飛行機がビルに衝突している場面を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。このテロが起こり、アメリカ国内で飛行機を避ける人が急増しました。こういった、頭に浮かびやすいある事柄に影響されることを利用可能性ヒューリスティックというわけです。
これも渋沢の論語と関係があるかもしれません。論語を読んでいたという、利用可能性ヒューリスティックが働いたというわけですね。
◆月をさす指を見るな、月そのものを見なさい
禅に『指月の法』という言葉があります。「月をさす指を見るな、その先にある月そのものを見よ」という意味です。
指というのは方法であり、月というのは大局のこと。つまりは「方法(ハウツー)だけを模倣してもだめだ、その大局を見よ」ということです。大局というのは、目的や思考、状況などいろいろなことが当てはまると思います。
小手先の成功哲学(ハウツー)ばかりを見ていては、よろしくないということですね。
お金儲けといったビジネスにおいて、自分の状況や目的、思考などを点検していけば、安易に成功哲学に頼るようなことはないでしょうし、引き寄せの法則やポジティブシンキングなどのオカルト的なものをビジネスとして使うようなことはないでしょう。
【資料】
(1)エラい人にはウソがある、パオロ・マッツァリーノ、さくら舎、2015
(2)「眼力」をつける読書術、吉岡友治、東洋経済新報社、2009
(3)自分では気づかないココロの盲点 完全版、池谷裕二、講談社、2016
(4)ヘンテコノミクス、佐藤雅彦、菅俊一(原画)/高橋秀明(画)、マガジンハウス、2017
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