◆はじめに
厚生労働省の『平成28年国民健康・栄養調査』によると、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は12.1%(男性16.3%、女性9.3%) 、「糖尿病の可能性を否定できない者」の割合は12.1%(男性 12.2%、女性12.1%)であるとされています。
また「糖尿病が強く疑われる者」は約1000万人と推計され、平成9年以降増加しているとしています。
糖尿病は神経障害や腎障害、切断といった合併症のみならず、心血管疾患や脳血管疾患とも関係しています。つまり、糖尿病をスタートにして、いろいろと医療費の増大が関わっているわけですね。
今回はビタミンDが糖尿病に好影響を与えるとのことで、エビデンスを紹介したいとおもいます。医療費削減につながるかもしれません。
ちなみに本記事における糖尿病は2型糖尿病のことを指しています。
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◆ビタミンDはインスリン分泌に影響をあたえる
動物実験によれば、活性型ビタミンD[1,25(OH)₂D]はインスリンが必要なときに、膵臓のインスリン分泌細胞にあるVDR(ビタミンD受容体)に働きかけ、インスリン分泌の役割を果たすことが示唆されています(1.2)。
つまり、ビタミンDがインスリンを出しやすくしてくれるということですね。2型糖尿病においては、インスリンが相対的に不足しますので、これらの役割は非常に大切であると考えられます。
しかし、これらの報告は動物実験レベルですので、人間においてはどうなのかということを調査する必要があります。
Chiuらの報告によれば、126人を調査したところビタミンDが充足していることは、インスリン感受性および適切な膵臓β細胞機能と正の相関があり、逆にビタミンD欠乏症はグルコースの恒常性(ホメオスタシス)に影響を及ぼし、耐糖能障害およびインスリン抵抗性を引き起こす可能性があることが示唆されています(3)。
詳細なメカニズムはまだ不明とのことですが、VDRがビタミンDにより刺激され、膵臓でなんらかの反応が起きていることが予測できますね。
◆ビタミンD不足・欠乏は糖尿病の独立した危険因子
糖尿病の危険因子(肥満、高血圧、脂質異常症、家族歴)を、すくなくとも1つ以上もっている糖尿病でない1080人を対象に調査した研究があります(4)。
調査によると対象者の10.5%が欠乏(10ng/mL未満)、51.6%が不足(10.0ー19.9ng/mL)、38.0%が充足(20ng/mL以上)ということでした。そしてビタミンDの濃度が高くなればなるほど、有意に糖尿病の発症率が低くなることがわかりました。
資料(4)より引用
また年齢、性別、血圧、ライフスタイルなどを調整しても、ビタミンD濃度の低値はBMI・インスリン抵抗性・インスリン分泌指数とは独立して、2型糖尿病の発症リスクと関係していることがわかりました。
糖尿病の発症リスクは20ng/mLと比較して、10.0ー19.9ng/mLの人は2.06倍、10ng/mLの人は3.23倍になっていました。
この研究では20ng/mL以上を充足としていますが、日本の『ビタミンD不足・欠乏の判定指針』では30ng/mLが充足レベルになっています。ゆえに、この指針に合わせると糖尿病発症のリスクはさらに高くなることが考えられますね(日光によるビタミンDの生成と不足・欠乏の判定指針について)。
◆ビタミンD濃度があがるほど糖尿病予備軍は減る
Shankarらは、糖尿病のない20歳以上の12719名(女性52.5%)を調査しました(5)。
ビタミンD濃度レベルで4つに分類(≦17.7、17.8-24.5、24.6-32.4、>32.4ng/mL)し、糖尿病予備軍(前糖尿病)の状態[2時間グルコースの濃度:140-199mg/dL、空腹時グルコース濃度:10-125mg/dL、HbA1c:5.7-6.4%]との関連を分析しました。結果は以下のようになりました。
資料(5)より引用
ビタミンD濃度と糖尿病予備軍(前糖尿病)は、統計的に有意に関連していました(最高値と最小値:オッズ比1.47(95%CI 1.16-1.85;P = 0.001)。つまり、ビタミンD濃度が高くなるほど糖尿病予備軍の人が減る傾向にあったということですね。
◆ビタミンDは糖尿病の進行を低下させる
糖尿病予備軍(前糖尿病)である980人の女性および1398人の男性を対象にして、8~10年間にわたり追跡した研究があります(6)。
それによると男女ともにビタミンDの濃度が4ng/mLあがるにつれて、糖尿病予備軍(前糖尿病)から糖尿病に進行する割合が約25%低下(男性21%・女性27%)したと報告されています。
◆システマティックレビューの報告
ビタミンDと糖尿病の関連について17の報告、20万人以上を分析したシステマティックレビューがあります(7)。
資料(7)より引用改編
それによれば、ビタミンDの濃度が高い群は低い群と比較して、発症リスクが糖尿病は19%(95% CI 0.71ー0.92)、メタボリックシンドロームは14%(95% CI 0.80ー0.92)低下しました。
◆ビタミンDの摂取は過剰より不足のリスクが高い
多くの研究を見てきましたが、ビタミンDは糖尿病の発症予防や進行予防に効果がありそうですね。
しかし「ビタミンDを摂取しすぎると危険なんじゃないの?」と思ってしまう人もいるかもしれません。
田中、桒原によると、体内ではビタミンDの活性化は厳密に調整されているため、過剰に摂取してもそのままビタミンDの濃度が増加するわけではないので、安全性は高いとしています(8)。
むしろ、過剰摂取より摂取不足のリスクのほうが高いと考えられ、たとえば肥満者ではビタミンDを多く摂取する必要があります。ビタミンDは脂溶性のため、肥満者などでは脂肪に吸収され、血中へまわる量が不足するためです。
Wartsmanらの報告では、肥満者(BMI30以上)ではUV照射や経口投与におけるビタミンD濃度が非肥満者(BMI25以下)と比較すると低いことが示されています(9)。
UV照射の比較(血中濃度)
資料(9)より引用改編
UV照射ではビタミンD前駆体(ビタミンDになる前の段階の物質)の量は非肥満者・肥満者で有意な違いはなかったにも関わらず、ビタミンD濃度の増加度は、肥満者のほうが57%低かったのです。
これはつまり、皮膚の状態がおなじで、同じ太陽光を浴びても、肥満した人はそうでない人に比べて、ビタミンDの合成が少ないということですね。
経口摂取(血中濃度)
資料(9)より引用改編
経口投与においても、投与後の血中ビタミンD濃度は肥満者のほうが低いという結果でした。
一律の量というよりは、個人によって適切な量の摂取が大切であることが考えられますね。
しかし、原発性副甲状腺機能亢進症、サルコイドーシス、結核およびリンパ腫などでは、ビタミンDに応答して高カルシウム血症のリスクを増加させる可能性がありますので(10)、なにかしらの疾患を抱えている人は医療機関に確認したほうがいいですね。
【資料】
(1)Cytogenetic and molecular delineation of a region of chromosome 3q commonly gained in marginal zone B-cell lymphoma.[PMID:12551824]
(2)Influence of vitamin D3 deficiency and 1,25 dihydroxyvitamin D3 on de novo insulin biosynthesis in the islets of the rat endocrine pancreas.[PMID:9854180]
(3)Hypovitaminosis D is associated with insulin resistance and beta cell dysfunction.[PMID:15113720]
(4)Association of vitamin D deficiency with incidence of type 2 diabetes in high-risk Asian subjects.[PMID:23364011]
(5)Serum 25-hydroxyvitamin d levels and prediabetes among subjects free of diabetes.[PMID:21430085]
(6)Low serum 25-hydroxyvitamin D level predicts progression to type 2 diabetes in individuals with prediabetes but not with normal glucose tolerance.[PMID:22426800]
(7)Vitamin D, type 2 diabetes and other metabolic outcomes: a systematic review and meta-analysis of prospective studies.[PMID:23107484]
(8)田中清・桒原晶子、食の機能としてのビタミンD、食と医療;1:124ー132、2017
(9)Decreased bioavailability of vitamin D in obesity.[PMID:10966885]
(10)Vitamin D supplementation, 25-hydroxyvitamin D concentrations, and safety.[PMID :10232622]
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