[ad#ad4]
パテラセッティングは、ベッド上安静の患者さんなどによく使われる運動療法です。
しかし、臨床でよく使っているわりにエビデンスなどを考えて実践していないなぁと思い、すこし調べてみました。
◆パテラセッティングの目的
結論から言えば、セッティングの目的は筋力強化ではありません。大腿四頭筋の筋活動を維持することです。
つまり、活動している筋線維数を減らさないということですね。
欧米の理学療法士が、運動療法の教科書として使用している『運動療法大全』には、こんな記載があります(改行は筆者による)。
筋セッティング運動
セッティング運動には、軽度の抵抗または無抵抗に対して行われる低強度の等尺性収縮が含まれる。この運動は、軟部組織の損傷後の治癒の急性期に、筋痛と攣縮を減少させ、弛緩と血液循環を促進するために用いられる。(中略)筋セッティングは大きな抵抗に対して実施しないため、非常に弱化した筋以外では筋力を向上させない。
しかし、リハビリテーションのごく初期に、治癒中の組織を保護するために筋の不動化が必要な場合に、セッティング運動は筋の衰退を遅延させ、筋線維間の可動性を維持することを可能とする。
ちょっと訳がわかりにくいですが、セッティングの目的は、循環促進、筋の廃用・可動性低下を防止するためなどと書いてますね。
◆臥床中に必要なセッティングの回数(量)
さて、そもそも臥床していて、筋トレで下肢筋は強化(または維持)できるのか?
報告によれば、臥床中に大腿四頭筋にたいして、高負荷低頻度のトレーニングをおこないましたが、筋力増強効果はなく筋萎縮がおこりました(2)。
「回数を多くすればいいのではないか?」と考える人もいると思います。
市橋らは、1万歩あるいたときの筋活動量を、セッティングで補うにはどれくらい回数が必要かを調査しています(3)。
その報告によれば、1万歩あるいたとの同じ筋活動を得るためには、大腿直筋は466回、内側広筋は381回のセッティングが必要であるとしています。
以前、『エビデンスから退院時の歩行指導を考える』の記事で、筋力を維持するためには1日に4000歩あるくことが必要であることを述べました。
ということは、さきほどの研究結果に0.4をかけることで、筋力を維持するために必要な回数がわかりますよね。
内側広筋:381×0.4=152回
臥床しているときに、大腿部の筋力を維持をするためには、少なくとも150~180回以上のセッティングが必要になるということです。
現実的には難しいかなと思いますね。
もちろん、つきっきりで手厚い介入ができるのであれば、強化もできるかもしれません。
しかし、時間の制約・マンパワーの問題もありますし、「セッティングで筋力強化しよう!」というのは、非現実的・非効率的であると思います。
やはり、セッティングの目的は、筋力強化ではなく、なるべく大腿四頭筋の活動性を落とさないというのが、適当であるとおもいます。
◆文献からパテラセッティングを考察
1.一般的なパテラセッティングのデメリット
ここでは一般的なパテラセッティングのデメリットを、3つ挙げていきたいと思います。
①ハムストリングスの代償について
ハムストリングスは、とある条件下において、膝関節屈曲0~60度までの範囲内で大腿四頭筋の共同筋になるとの報告があります(4)。
つまり、ハムストリングスは膝伸展にも関与しているということです。便宜上、発見者の名前にちなんで、「Blaimontの法則」としておきます。
ハムストリングスが膝伸展にかかわる条件とは、足部が固定され、股関節前面の固定がおこなわれている(股関節の伸展が生じない)ことです。
これだけだとわかりにくいので、具体的な実例をもちいて説明します。
資料(5)より引用改編
(左)立位から体幹をまっすぐにしたまま膝関節を60度前後まで屈曲していき、そこから膝を伸展していきます。この場合は、大腿四頭筋の活動がメインになります。
(右)膝を60度前後まで屈曲して、体幹を床に平行になるくらいまで前傾します。そこから体幹の前傾を維持したまま、膝関節の伸展をおこないますと、ハムストリングスの活動がメインになります。
右側がさきほど説明したBlaimontの法則になります。
なぜ、こんな話をしているかというと、これが一般的なセッティングのデメリットに関係してくるからです。
一般的なセッティングでは、膝の下にタオルなどをいれて、押しつけるように指示することが多いとおもいます。
資料(5)より引用改編
しかしこの方法は、さきほどのBlaimontの法則を用いた膝伸展に似てますよね?
つまり、一般的におこなわれている長座位で膝をおしつけるセッティングは、ハムストリングスの活動→膝関節伸展→大腿四頭筋の活動という流れになるのです。
すなわち、一般的なセッティングでは、ハムストリングスが先に活動してしまう、いわゆる代償が起こっているということです。
また、これは膝伸展時にハムストリングスが活動するという、余計なことを学習してしまうということに繋がってしまいます。
さらにいえば、一般的なセッティングでは、ハムストリングスの活動が優先されてしまい、本来の大腿四頭筋の活動を維持するという目的を達しにくくなっているのです。
まとめます。
一般的におこなわれている長座位での膝押しつけによるセッティングは、ハムストリングスの活動という代償作用があり、患者さんに余計な動作学習を強いることになってしまいます。
また、大腿四頭筋の活動をあげるという、セッティング本来の目的も達しにくくなってしまいます。
②大腿四頭筋の活動をあげる方法について
では、どうすればハムストリングスを活動させないで、大腿四頭筋の活動をあげることができるのでしょうか?
それは大腿遠位を固定したまま、膝関節を伸展させることで可能になります。
これによって、ハムストリングスの代償を防止することができます。
資料(5)より引用改編
膝を押しつけるのでなく、膝を伸ばすように指導する。これがポイントですね。しかし、
という指摘もあると思います。
たしかに、膝伸展をするということは、二関節筋である大腿直筋だけの活動をあげるような感じがすると思います(内側・外側・中間広筋は単関節筋)。
しかし、岩崎らの報告によれば、外的な負荷がない場合、股関節や膝関節の屈曲角度が変わっても、大腿周囲の等尺性収縮による筋活動に差はなかったとしています(6)。
つまり、膝を押しつけた状態での等尺性収縮でも、伸ばした状態での等尺性収縮でも筋活動には差はないということです。
ちなみに、内側広筋が膝の最終伸展時に活動するといわれていますが、この報告では、それは否定されています。
セッティングでは内側広筋を意識しようといわれていますが、それほど重視することではないのかもしれません。
2.適切な体幹支持と股屈曲角度について
事柴らは、体幹支持と股関節屈曲角度の変化が、セッティングの下肢筋筋活動におよぼす影響について調査をしています(5)。
①体幹支持あり・股屈曲15度
②体幹支持あり・股屈曲65度
③体幹支持なし・股屈曲115度
以上の3群に被験者をわけ、セッティングをおこない下肢の筋活動を比較しました。
結果は以下のようになりました。
資料(7)より作成
セッティング力については、②背面支持あり・股屈曲65度が有意に活動が増加していました。
また筋別にみると、②が③と比較して、内側広筋と外側広筋が有意に増加していました(①と②には有意差なし)。
まとめると、内側広筋・外側広筋においては、背面支持あり・股屈曲角度15度~65度くらいでセッティングをおこなうのがよいということです。セッティング力においては、背面支持あり・股屈曲角度65度がよいということです。
総括すると、背面支持あり・股屈曲65度が効率がよいのではないでしょうか。
3.上肢とパテラセッティングの関係について
篠原らは、上肢の動作がセッティングの下肢筋筋活動におよぼす影響について調査をしています(7)。
資料(8)より引用改編
①上肢支持なし
②上肢接触
③上司把持
以上の3群に被験者をわけ、セッティングをおこない下肢の筋活動を比較しました(膝関節は屈曲角度25度)。
結果は以下のようになりました。
資料(8)より作成
セッティング力、大殿筋・内側広筋・半膜様筋の筋活動は、③上肢把持で、①②より優位に筋活動が高くなりました。
グラフをパッと見ただけでも、③上肢把持の筋活動が大きいことがわかりますね。
つまり、上肢はなにかを把持していたほうが良いということですね。ベッド柵などがいいのかもしれません。
[ad#ad7]
◆腹臥位・立位のパテラセッティングって必要?
腹臥位のセッティングは、背臥位に比べてると、大腿直筋の筋活動が55%から80%へと高くなるとの報告もあるようです。また、立位でセッティングをおこなうこともあります。
しかし、腹臥位や立位のセッティングって、あまり有用性がわかりません。
そもそもセッティングは、ベッド上安静の人など、離床が制限されている人の筋活動を維持する目的でおこなうことが多いとおもいます。
腹臥位ができるくらいなら、セッティング以外でも大腿直筋の強化はできますし、立位になれるのにセッティングをする意味ってなんでしょうか?
離床ができるのであれば、起立着席運動とかをしたほうがいいと思います。まあ、患者さんにもよるとは思いますが。
◆文献を統合した最効率なパテラセッティング
いままで述べてきたことを統合すると、もっとも効率的なセッティングはこうなります。
まあ、対象となる患者さんのなかには、体幹を起こせない人や関節運動を起こしてはいけない人などもいると思いますので、そこらはケースバイケースで対応が必要ですね。
【資料】
(1)最新運動療法大全、渡邊昌ら監修、ガイアブックス、2008
(2)市橋則明、臥床が膝屈・伸筋力に与える影響と筋力増強訓練の効果、理学療法学18(4):397‐403、1991
(3)市橋則明、大腿四頭筋の廃用性筋萎縮を防止するために必要な下肢の運動量について、体力科学42:461‐464、1993
(4)Blaimont:The Function of Hamstrings.Springer-Verlag,Berlin.1986
(5)国分貴徳、理学療法における臨床と研究の接点、理学療法ー臨床・研究・教育22:9‐15、2015
(6)岩崎富子、大腿四頭筋の機能、臨理8巻1号:8‐16、1998
(7)事柴壮武、体幹固定性の違いと股関節角度の変化が大腿四頭筋セッティングの下肢筋筋活動に及ぼす影響、理学療法の臨床と研究22:21‐24、2013
(8)篠原博、身体固定の有無が大腿四頭筋セッティングの筋力と下肢筋活動におよぼす影響、理学療法の臨床と研究23:3‐6、2014
[ad#ad3]