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◆腸腰筋とは
画像:資料(1)より引用改編
腸腰筋は腸骨筋と大腰筋の総称です。
おもに、股関節の屈曲と外旋に作用しています。
◆腸腰筋の特徴
大腰筋・腸骨筋ともに、赤筋線維が白筋線維より約3倍太いという報告があります(2)。
このことから、深層にて、持久的な股関節の安定に作用していると推測されています。
上のイラストを見てください。
腸腰筋は停止部である小転子にむかうとき、恥骨上縁を通過したあと、すぐ30~45度後方に折れまがります。
股関節を最大伸展させたとき、この折れまがりにより、大腿骨への腱の付着角度は大きくなります。
結果として、股関節屈曲への筋のテコ比を大きくし、効率をよくしています。
◆腸腰筋と骨盤交差症候群
ヤンダアプローチで有名なJandaは、筋肉のインバランスにより生じる骨盤交差症候群というものを報告しており、これが腰痛の原因のひとつではないかと考えました。
資料(3)参照作成
強く硬い(短い)筋肉は、腰の屈筋(主に腸腰筋)と後ろの伸筋であるのに対し、弱くて長い抑制的な筋肉は腹筋と大殿筋であった。
『運動器リハビリテーションの機能評価Ⅱ』
つまり、腸腰筋が硬く短くなっていることで、腰部の筋肉のバランスが崩れ、腰痛が起きているかもしれないということですね。
もちろん、これはひとつの仮説であり、腸腰筋が原因でないこともありえます。
◆評価・検査:腸腰筋の硬さ・長さ
腸腰筋の硬さ、長さを検査するには、トーマステストが用いられます。
トーマステストの方法は以下のようになっています。
①トーマステスト
②トーマステスト別法(ケンドールテスト)
また、もう少し動ける人なら、トーマステストの別法(ケンドールテスト)も使えます。方法は以下のようになっています。
動画を参考にしてください。
※音が出ますので注意してください。
◆腸腰筋を直接さわってゆるめる!?
腸腰筋をゆるめる方法は、いろいろとありますよね。横隔膜と腸腰筋は連続しているので、横隔膜からアプローチすることもできます。
ときどき、お腹から直接タッチするみたいな手技もありますが、あれはそれほど効果ないとおもいます。
腸腰筋はめちゃくちゃ深層にあります。腸腰筋にいたるまでに、皮下脂肪や内臓がありますから、まず触れることは不可能です。
3年ほど前に、とある大学で解剖実習に参加しました。実際に腸腰筋を観察してみましたけど、まずお腹から直接さわるなんて無理です。そうとう深部にあります。
波動とかイメージ力、膜とかでゆるめることができる人もいるかもしれませんが、わたしはできません(笑)
◆PIRで腸腰筋をゆるめよう!
今回は、PIRをもちいて腸腰筋をゆるめる方法を紹介したいとおもいます。
PIRというのは、post isometric relaxationの略語で、等尺性収縮後弛緩法といいます。
①仰臥位の方法
【手順】
① セラピストは健側(黄色)に立ち、両下肢を屈曲させる。
② 患側(紫色)の股関節をゆっくりと伸展させる。健側の下肢はセラピストの腹部で固定する。
③ 患側が可動域最終に到達したら、呼気にあわせて股関節を屈曲させる(実線矢印:最大収縮の10~20%)。
④ セラピストは患者の屈曲運動に抵抗(点線矢印)をかける(5~8秒)。
⑤ 患者に力をぬかせ、ゆっくりと息を吐かせる。抵抗感を感じるところまで股関節を伸展させる。
⑥ ③~⑤を5~10回くりかえす。
見てもらったらわかるように、PIRは非常にソフトな手技です。
高齢者は骨粗鬆症などを合併していて、骨折リスクが高くなっています。
以前の医療事故の記事『リハビリ事故の事例・判例から対策を考える』で述べましたが、実際にストレッチや筋力測定をしただけで骨折してしまう患者さんもいます。
骨折が起これば、裁判沙汰にならずともイヤな気持ちになると思います。
そういう意味では、PIRは、患者さんを守るのみならず、セラピスト自身も守ってくれるかもしれません。
②側臥位の方法
手順自体は、ほぼ仰臥位と同じですね。①②はできないと思うので、③~⑥を環境にあわせて実践します。
③側臥位の注意点
・骨盤をしっかりと固定する。
・腰椎の過伸展に注意する。
・上部体幹が不安定にならないように診察台やベッドの端をつかませる。
PIRは安全かつ即効性がありますので、ぜひ臨床で活かしてもらえたらと思います。
【資料】
(1)The techniques of soft tissue release and true socket reconstruction in total hip arthroplasty for patients with severe developmental dysplasia of the hip.[PMID:22820830]
(2)長谷川真紀子、ヒト腸腰筋(大腰筋、腸骨筋)の筋線維構成について、昭和医学会雑誌47、833‐842、1987
(3)運動器リハビリテーションの機能評価Ⅱ第4版、陶山哲夫ら監訳、エルゼビア・ジャパン、2006
(4)マッスルインバランスの考え方による腰痛症の評価と治療、荒木茂、三輪書店、2012
(5)Post Isometric Relaxation 等尺性収縮後の筋伸長法、伊藤俊一、三輪書店、2008
(6)運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略、工藤慎太郎、医学書院、2017
(7)筋骨格系のキネシオロジー第2版、嶋田智明ら監訳、医歯薬出版、2012
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