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◆変形性股関節症と筋力低下
Harris-Hayesらが、慢性股関節痛がある若年者(CHJP)の股関節周囲の筋力低下について報告しています(1)。
資料(1)より引用
それによれば、慢性股関節痛がある若年者は、ない人と比較して股関節周囲の筋力が有意に低下していました。患側の筋力低下の度合いは16%~28%でした。
日本でも加藤の報告があります(2)。
人工股関節全置換術を施行した末期変形性股関節症(以下、変股症)高齢女性を調査したものです。
それによると、変形性股関節症がある群の股関節最大外転筋力は、健常者と比較すると有意に低下していました。手術による影響もあるかと思いますが、変股症の主な症状に痛みがありますから、そういった因子も低下の要因かもしれません。
資料(2)より作成
◆筋力低下と転倒リスク
アメリカ老年医学会が報告している転倒予防のガイドラインのなかでは、筋力低下がある高齢者は、筋力低下がない高齢者にくらべて4.4倍転倒しやすいことが示されています(3)。
また、Rubensteinらの転倒危険因子をまとめた報告でも、筋力低下の相対リスクが6.2ともっとも高くなっていました(4)。
◆変形性股関節症と歩行訓練(リハビリテーション)
さきほど紹介した加藤の報告では、興味深いことがわかっています。
術後の変股症患者を対象に、歩行時に踵をつけて歩くことを意識させるのとさせないのとで、股関節周囲の筋活動にどれほど影響があるのか調べたのです。
結果は以下のようになりました。
資料(5)より引用、資料(2)より出典
歩くときに、踵をつけることを意識させたほうが、股関節周囲の筋活動が有意に高まっていました。
◆なんちゃってリハビリ!?~WalkからGaitへ~
高橋哲也さんは以下のように述べています。
長年にわたる逃避跛行で正常から逸脱した歩行パターンがプログラムされている下肢関節疾患患者の歩行訓練では、単なる″歩行(walk)″ではなく、踵接地を意識させた適切な″歩行(gait)″動作の指導が重要となります。
(”臨床思考”が身につく運動療法Q&A)
以前、日本理学療法士協会の半田会長が「なんちゃってリハビリ」ということを機関誌のコラムに書いていました。理学療法士が提供しているのが、歩行訓練ではなく、お散歩になっているのではないかという提言でした。
たしかに、お散歩になっていることも多いような気がします。患者さんの歩行訓練のときに、スリッパのまま廊下を歩いたりしている人もいるのではないでしょうか。スリッパだと踵をつけて歩くのは難しいですよね。
そういったことに気づけない理学療法士は、「なんの専門家なんだろう?」とほかの医療職から怪訝に思われても仕方ないような気がします。
◆最適解を提示することに価値がある
「踵をつけることを意識して歩きましょう」
この一言でも、股関節周囲の筋活動が高まり、筋力の向上とまではいかなくとも、維持くらいは図れるかもしれません。いずれにせよ、踵を意識させない歩行訓練よりはメリットがあるでしょう。
リハビリテーションというのは、ラスク博士(参照:リハビリテーションの父、ハワード・ラスク博士)も言っているように、患者さん自身が頑張らないといけません。
しかし、素人である患者さんだけでは、不合理なこともしてしまうかもしれない。だからこそ、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士という専門職があるわけです。
専門職の任務は、患者さんに最適解(現状から最適と考えられる解答)を提案することにほかなりません。
患者さんが必要最小限の努力で頑張れるよう手助けできるところに、専門職の価値があるのではないかなと思います。
【資料】
(1)Persons with chronic hip joint pain exhibit reduced hip muscle strength.[PMID:25299750]
(2)加藤浩:術後股関節疾患患者に対する踵接地を意識させた歩行訓練が股関節外転筋活動に及ぼす影響.理学療法科学27(4):479‐483、2012
(3)Guideline for the prevention of falls in older persons. American Geriatrics Society, British Geriatrics Society, and American Academy of Orthopaedic Surgeons Panel on Falls Prevention.[PMID:11380764]
(4)Falls in the nursing home.[PMID:8053619]
(5)”臨床思考”が身につく 運動療法Q&A、高橋哲也、医学書院、2016
(6)運動療法各論 高齢者の機能障害に対する運動療法、市橋則明、文光堂、2010
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