忙しい人のための要約
    ・情動粒度は情動(感情)を正確に把握する能力である
    ・情動粒度はサーチライト、スキーマの役割がある
    ・情動粒度が高いと生活へのメリットが高まり、低いとデメリットが高まる
    ・情動粒度には社会格差も関係しており、ミクロとマクロの対処が必要

     

     

    ◆情動粒度とは

    Lisa Feldman Barrettさんという人が創った概念に『情動粒度(emotional granularity)』があります。

    簡単にいうと、物事(感情など)を細分化する能力といった感じです。

     

    たとえば、なんでもかんでも「ヤバい」って言う人いませんか?

     

    美味しいものを食べても、綺麗な景色を見ても、感動する映画を見ても「ヤバい!!!」みたいな。これは情動粒度(感情を細かくわける能力)が低いといえます。

     

    たいして、「美味しいもの食べて“嬉しい(楽しい、喜ばしいなど)”」「綺麗な景色を見て“感動した(感激した、興奮したなど)”」といった感じで、細かくわけることができる人は情動粒度が高いと言えるでしょう。

     

    情動粒度 情動はこうしてつくられる

     

    つまり、情動(感情)を正確に把握(区分)できるかどうかという能力が情動粒度と言えます。

     

    この情動粒度。いかに重要なのかについて、Barrettさんは著書『情動はこうしてつくられる』のなかで、以下のように述べています。

     

    たとえばあなたは、「すばらしい気分」と「ひどい気分」という二つの情動概念しか知らなかったとしよう。すると自分自身で情動を経験したり他者の情動を知覚したりする際、あなたはたった二つのどんぶり勘定的な概念を用いて情動経験を分類する他はない。そのような人は、心の知能が高いとは言えない。

    それに対し、「すばらしい気分」のより細かな意味(幸福、満足、興奮、リラックス、喜び、希望、啓発、誇り、あこがれ、感謝、至福など)や、ひどい気分の五〇種類の陰影(怒り、腹立ち、警戒、悪意、不満、後悔、陰うつ、悔しさ、不安、恐怖、憤慨、怖れ、嫉妬、悲惨、憂うつなど)を識別する能力を持っていれば、脳は、予測、分類、情動に知覚に有用な多くのオプションを駆使して、状況に応じた柔軟な対応ができるだろう。感覚刺激を効率的に予測して分類して、状況や環境に即した行動を起こせるようになるのだ。『情動はこうしてつくられる』P197‐198

     

    情動粒度が高い人は環境にうまく適応できる、対処しやすくなるということが考えられるわけですね。

     

    たとえば、子どもは癇癪をおこしたり、急に泣いたりしますが、これはつまり情動粒度が低いからなんですね。自分の感情をうまく言語化できない(=自身がどういう感情を抱いているかわからない)ため、感情的にぎゃあああ!となってしまうわけです。

     

     

    ◆情動粒度の2つの役割的側面

    情動粒度の役割を細かく見ると、ふたつの側面があるように思います。

    ひとつはサーチライト的側面、ふたつめはスキーマ的側面です。

     

    情動粒度 情動はこうしてつくられる

     

    (1)サーチライト

    サーチライトは、アメリカの社会学者であるタルコット・パーソンズが提唱したものです。刈谷剛彦さんの著書『知的複眼思考』では、ジェンダーを例にあげて解説しています。

     

    ジェンダーというのは、社会的、文化的に作られた「性差」、つまり、男女の違いのことをいいます。この概念が登場するまでは、男女の違いということは、身体の特徴にかかわる生物学的な違いであると見られることが多かったわけです。『知的複眼思考』P233

     

    このようにジェンダーという概念(サーチライト)が生まれたことで、暗闇に埋もれていた「社会的・文化的な性差」が照らし出されたわけです。

     

    情動粒度を高めることは、サーチライト的側面を強化することに繋がるのではないかと思うわけです。なんとなく埋もれてしまっている自分の情動(感情などの認識)を、把握しやすくなるということですね。

     

     

    (2)スキーマ

    もうひとつの側面はスキーマです。今井むつみさん著書『学びとは何か』では、スキーマは以下のように説明されています。

     

    私たちは日常で起こっている何かを理解するために、常に「行間を補っている」。

    実際には直接言われていないことの意味を自分自身で補いながら、文章、映像、あるいは日常的に経験する様々な事象を理解しているのだ。行間を補うために使う常識的な知識、これを心理学では「スキーマ」と呼んでいる。『学びとは何か』P18‐19

     

    タイヤが4つあって、ハンドルがあるもの。

     

    なんとなく自動車が思い浮かんだのではないでしょうか?

    これはあなたのスキーマが働いているわけで、勝手に行間を補ってくれたわけです。たとえば、自動車というもの(概念)を知らない人がいたら、「タイヤが4つあって、ハンドルがあるもの」と言っても自動車は絶対に浮かびません。

     

    情動粒度にもスキーマ的側面があり、情動粒度が高ければ自分の情動(感情などの認識)の隙間を埋めて、把握しやすくなるわけです。

     

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    ◆情動粒度の科学的メリット・デメリット

    情動粒度は人生にも大きな影響を与えることがさまざまな論文で報告されています。ざっと列挙しましょう。

     

    (1)情動粒度が高い場合

    情動粒度が高いと、以下のようなメリットがあることが報告されています。

    ・うつ症状が軽く、医者にかかることが少ない(1)
    ・情動調節の柔軟性が30%ほど高くなる(2.3)
    ・ストレスを感じても飲みすぎない(4)
    ・自分を傷つける相手に攻撃的になりにくい(5)
    ・統合失調症を有する人では家族や友人と良好な関係を維持でき、社会生活で正しい行動を選択する能力が高い(6)

     

    (2)情動粒度が低い場合

    たいして、情動粒度が低いと以下のような疾患と関係があることが報告されています。

    ・うつ病(7)
    ・社交不安障害(8)
    ・摂食障害(9)
    ・自閉症スペクトラム障害(10)
    ・境界性パーソナリティー障害(11.12)
    ・不安、抑うつ(13)

     

    つまりは、情動粒度が高いとメリットがあり、低いといろいろとデメリットがあるようだということですね。

     

     

    ◆情動粒度は社会格差に影響される

    Barretteさんは、情動粒度を高めるために以下のようなことを推奨しています。

    ・旅行する
    ・読書する
    ・映画を観る
    ・新しい料理を食べてみる

    いろいろと経験を積むことが大切だということですね。

     

    個人的にはここで社会格差のことを考える必要があるかなと思います。

     

    とある研究によれば、知的専門職と労働者階級と生活保護の家庭では、子どもが耳にする語彙が少ないことが報告されています(14)。

     

    情動粒度 語彙

    資料(14)参照作成

     

    語彙が少ない=情動粒度が低くなるというのは、想像しやすいですよね。

     

     

    ◆まとめ~ミクロとマクロの視点が必要~

    情動粒度を高めようと考えるときに、個人的な努力、つまりミクロな視点も必要ですし、社会格差の是正というマクロな視点も欠かせません。

     

    情動粒度が低い=個人の責任であるとは簡単にいえません。

     

    健康の社会的決定要因(SDH)なども言われていますから、包括的に考えていかないといけません。健康の社会的決定要因という概念(言葉)をここで初めて知った人は、情動粒度が高まりましたね笑

     

     

    【参考資料】
    (1)Quoidbach, Jordi, et al. “Emodiversity and the emotional ecosystem.” Journal of experimental psychology: General 143.6 (2014): 2057.
    (2)Barrett, Lisa Feldman, et al. “Knowing what you’re feeling and knowing what to do about it: Mapping the relation between emotion differentiation and emotion regulation.” Cognition & Emotion 15.6 (2001): 713-724.
    (3)Kashdan, Todd B., Lisa Feldman Barrett, and Patrick E. McKnight. “Unpacking emotion differentiation: Transforming unpleasant experience by perceiving distinctions in negativity.” Current Directions in Psychological Science 24.1 (2015): 10-16.
    (4)Kashdan, Todd B., et al. “Emotion differentiation as resilience against excessive alcohol use: An ecological momentary assessment in underage social drinkers.” Psychological Science 21.9 (2010): 1341-1347.
    (5)Pond Jr, Richard S., et al. “Emotion differentiation moderates aggressive tendencies in angry people: A daily diary analysis.” Emotion 12.2 (2012): 326.
    (6)Kimhy, David, et al. “Emotional granularity and social functioning in individuals with schizophrenia: an experience sampling study.” Journal of psychiatric research 53 (2014): 141-148.
    (7)Demiralp, Emre, et al. “Feeling blue or turquoise? Emotional differentiation in major depressive disorder.” Psychological science 23.11 (2012): 1410-1416.
    (8)Kashdan, Todd B., and Antonina S. Farmer. “Differentiating emotions across contexts: Comparing adults with and without social anxiety disorder using random, social interaction, and daily experience sampling.” Emotion 14.3 (2014): 629.
    (9)Selby, Edward A., et al. “Nothing tastes as good as thin feels: Low positive emotion differentiation and weight-loss activities in anorexia nervosa.” Clinical Psychological Science 2.4 (2014): 514-531.
    (10)Erbas, Yasemin, et al. “Emotion differentiation in autism spectrum disorder.” Research in Autism Spectrum Disorders 7.10 (2013): 1221-1227.
    (11)Suvak, Michael K., et al. “Emotional granularity and borderline personality disorder.” Journal of abnormal psychology 120.2 (2011): 414.
    (12)Chapman, Alexander L., Kristy N. Walters, and Katherine L. Dixon Gordon. “Emotional reactivity to social rejection and negative evaluation among persons with borderline personality features.” Journal of personality disorders 28.5 (2014): 720-733.
    (13)Turk, Cynthia L., et al. “Emotion dysregulation in generalized anxiety disorder: A comparison with social anxiety disorder.” Cognitive Therapy and Research 29.1 (2005): 89-106.
    (14)格差は心を壊す、リチャード・ウィルキンソン&ケイト・ピケット、東洋経済新報社、2020

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