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最近、デービッド・アトキンソンさんの『日本人の勝算』(以下、本書)という本を読みました。
自分の思っていることをデータをもとに明文化してくれたような感じで、とても学びになりました。今回は少し本書の要点を紹介したいと思います。
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1.人口がおおきく減る日本
これから日本は少子・超高齢社会をむかえ、人口がどんどん減っていくとのこと。
これは先日読んだ『FACTFULNESS』でも言及されていて、国が豊かになって少子化になるのは、いわゆる先進国では共通した現象とのこと。国が豊かになると医療の充実や社会環境の好転によって子どもの生存率が高くなり、たくさん産まなくてもよくなるようです。
しかし、日本は人口減がほかの国と比較できないくらい大きいようなんです。
資料(1)参照作成
上のグラフは2060年までの人口増減率の予測を表したものですが、日本の人口減が突出しているのがわかりますね。本書では、現行のような人口増加を念頭に置いた経済対策だと、これから日本はどんどん落ちぶれていってしまうと警鐘を鳴らしています。
2.生産性を高めることが大切
本書では、生産性を高めることが重要であると指摘しています。日本は「人材の質」が高い。OECDの報告によればたくさんある国の中で第4位にランクインしています。なのに労働者の生産性は29位とのこと。
つまり、日本人はすごく優秀なのに成果が全然でてないってことですね。
そこで本書では、いくつかの対策が提言されています。
・企業規模の拡大(中小企業の統合化)
・女性の社会進出の促進
・適切な最低賃金の一律引き上げ
・経営者の再教育 など
個人的にも非常に納得できます。これらの提言に関しても思弁的(純粋な論理的思考だけで、物事を認識しようとすること)だけではなく、公的なデータや報告書などをもとに立案されているので非常に信用できます。
最低賃金をあげるなんていうのは、失業者が増えるのではないか? 生産性が下がるのではないか? といった反論があるかもしれません。韓国が最低賃金をあげて失敗したのは記憶に新しいですから。
しかし、こういった反論にもエビデンスをもとに答えているので、興味がある方は一読されてみるとよろしいかと思います。
3.経済界に任してはダメ、政府が主導せよ
企業や経営者がリスクを負ってるからこそ、多くの雇用がうまれ、経済がまわっているというのは事実でしょう。
しかし、短期的な利益を生みだすことに必死になってしまい、長期的には不利益になっているのではないでしょうか。もちろん短期的な利益を目指すのは、企業にとって当然のことです。でも、そこばかりになってしまって、回りまわって自分の首を絞めているような感じになっています。
たとえば女性進出。女性が働ける社会は、生産性が高いことが本書でも示されています。ゆえに政府は、女性がさらに活躍できるような社会を目指そうとしています。
しかし、そこで邪魔をしてきたのがなんと経済界なのです。1990年代のそのあたりの折衝について、西内啓さんの著書『統計学が日本を救う』には、以下のように書かれています。
当時の日本には、通称「財界の労務部」、つまり経営者側の立場で労働
組合に対向する役割を担う、日本経営者団体連盟と呼ばれる財界の 団体が存在していた(2002年に経団連に吸収)。 彼らも前述の政
府会議と前後して、1990年6月に「育児休業問題に関する見解」 を発表したのだが、育児休業や休業時の所得保障について、次のよ うな意見を述べている。
・企業活動に支障が生じかねない
・社会慣行など現実面に照らして慎重な検討を加える必要がある
・個別企業の判断に拠るべきであり一律に法で強制することは妥当ではない
こうした背景からか、1992年4月より育児休業法が施行される
ことになったものの、その中身は骨抜きもいいところである。休業 期間中の所得保障や休業終了後の現職(休業前の職場や地位)復帰 に関する規定、違反企業への罰則などについて盛り込まれなかっ た。 つまり、せっかくの育児休業制度なのに、
別にその間給料払わなくても、元の職位に復職させなくても、まったく企業は罰せられない、という内容だったのだ。 『統計学が日本を救う』P42-43
つまり、経済界に任せてしまうと、短期的な利益ばかり重視してしまう可能性が高いということですね。この場合でいえば、女性の社会進出なんかいろいろ会社にとって損だからやりたくないということで、育児休業法もまったく役に立たないものになってしまったということです。
よって、経済界に任せるのは避けたほうがよいということです。言い換えれば、ある程度の政府主導の「強制さ」が欠かせないということ。
政府は経済界の顔色をうかがっていますが、それで景気は改善したでしょうか? 少子化は改善したでしょうか? まったくです。経済界主導ではダメなのです。
実際、経済界の短期利益重視をうらづけるようなことが、現在進行形ですすんでいます。それは外国人労働者です。
経済界は日本の労働人口が少なくなっているので、外国人労働者を入れようと躍起になっています。最低賃金をあげないための経済界の対策です。しかし、これじゃだめなわけです。本書でも以下のように批判されています。
最低賃金という壁にぶつかるとどうするでしょうか。理屈上、人手
不足による賃金の上昇を嫌い、日本人の非正規雇用者を増やすだけ では飽き足らず、今度は低賃金で働いてくれる途上国からの外国人 の誘致拡大を求めてくるはずです。(中略) 労働人口に占める最低賃金で働く人の割合が高まり、労働分配率のさらなる低下につながります。そうなると、
デフレ圧力は雪だるま式に強くなるでしょう。 結果として、
途上国からの労働力が増えれば増えるほど、日本という国は「途上国」になっていきます。 『日本人の勝算』P38ー39
政府はしっかりと経済界を主導し、日本の生産性をあげてほしいものです。経済界は短期的には損かもしれませんが、長期的にみれば持続可能な成長が可能になるかもしれませんから、過剰な反発は避けてほしいですね(外資に吸収されるリスクを下げることができるかも)。
4.賃上げによる格差縮小はすべての人にメリット
本書では最低賃金をあげることで、格差(社会)が縮小される可能性があることも紹介しています。これはとても重要です。
阿部彩さんは著書『弱者の居場所がない社会』で、格差が大きいと差別がつよくなる、人を信頼しなくなる、殺人率が高くなる、平均余命が短くなるなどのデメリットをデータをもとに指摘し、社会疫学者のリチャード・ウィルキンソンさんの「格差極悪論」を紹介しています。
格差が大きい国や地域に住むと、格差の下方に転落することによる
心理的打撃が大きく、格差の上のほうに存在する人々は自分の社会 的地位を守ろうと躍起になり、格差の下のほうに存在する人は強い 劣等感や自己肯定感の低下を感じることとなる。
人々は攻撃的になり、信頼感が損なわれ、差別が助長され、 コミュニティや社会のつながりは弱くなる。強いストレスにさら され続けた人々は、その結果として健康を害したり、 死亡率さえも高くなったりする。 これらの影響は、
社会の底辺の人々のみならず、社会のどの階層の人々にも及ぶ。 これが、格差極悪論の要約である。 『弱者の居場所がない社会』P127
最低賃金をあげることは、たんに労働者や企業の利益にとどまらず、すべての階層にたいして、多くの付加価値を生む可能性があるわけです。
5.さいごに
おおまかに『日本人の勝算』をもとに、いくつかの書籍を引用しながら、日本の成長戦略について紹介してきました。いろいろ勉強になりましたので、ぜひ興味を持たれた方は読んでみてください。
そして、日本がよい方向に舵をきれるよう選挙に行くなど行動に移しましょう。経営者の人なら賃金をあげるよう考慮してみるのもよいかもしれませんね。
【資料】
(1)日本人の勝算、デービッド・アトキンソン、東京経済新報社、2019
(2)FACTFULNESS、ハンス・ロスリングら、日経BP社、2019
(3)統計学が日本を救う、西内啓、中公新書ラクレ、2016
(4)弱者の居場所がない社会、阿部彩、講談社現代新書、2011
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