[ad#ad4]
◆体力があるとがんの死亡リスクが下がる
2014年、Sawadaらは日本人男性8760人を対象にして、全身持久力と肥満指数(BMI)、がん死亡率の関連について報告しています(1)。
全身持久力(最大酸素摂取量)を弱・中・強グループに区分して、BMI(体重)とあわせて、がんの死亡リスクを分析しています。ちなみに、BMIは18.5~21.5で低体重、21.6~23.6が普通体重、23.7~37.4が過体重となっています。
結果は以下のようになりました(普通体重で体力が弱の人のリスクを1としている)。
資料(1)より作成
体力がある人は、がんの死亡リスクが低くなっていることがわかります。意外なのは、過体重の人は全体的にがんの死亡リスクが低いことですね。
◆死亡リスクが下がるのはがんだけではない
体力があると死亡リスクが下がるのは、がんだけではないことが分かっています。2014年にBarryらは、10の研究をメタ分析して、全体的な死亡リスクと体重(BMI)、体力(弱・強)の関連を報告しています(2)。
ちなみに、この研究ではBMI24.9以下を普通体重、25~30を過体重、30以上を肥満としています。日本よりもやや基準が高くなっています。さて、結果は以下のようになりました(普通体重で体力が強の人のリスクを1としている)。
資料(2)より作成
見てわかりますように、いかなるBMI(体型)の場合でも、体力がある人は全死亡リスクが低くなっています。体力がないと、体重が普通から過体重~肥満に変わっても、死亡リスクは2倍強を維持しています。しかし、体力があると、肥満であっても死亡リスクは1.21倍でとどまっています。
やはり、体力は死亡リスクを下げるのに重要のようです。
[ad#ad7]
◆ランナーは死亡リスクが低い
体力がある人といえば、ランナーですね。
2015年、Lavieらは1万3000人のランナーを対象にして、練習量(5グループに区分)、死亡率(全原因・心血管)を分析して報告しています(3)。それによると、ランニングスピードが9.7km/時(6.0mph)の場合をのぞき、すべてのグループで顕著に死亡リスクが低下していることがわかりました。
資料(3)引用改編
やはり体力(運動)は死亡リスクを下げるようです。きつめの運動をすると酸化が進み、人体によろしくないということも聞きますが、この報告では練習時間:176分/週、距離:32km/週、頻度:6回/週、運動量:1840MET×分/週、スピード9.7km/時以上でも、死亡リスクが上がることはありませんでした。
よほど過激な運動でなければ大丈夫そうなので、スポーツ選手ではない一般の人は過度に心配する必要はないと思います。
◆ダイエットより運動!~身体活動の目標と基準~
2018年11月に米国保健福祉省(Department of Health and Human Services)から、身体活動ガイドライン(第二版)が発表されました(4)。アメリカ人向けのものですが、日本人でもそれほど大きく変わるものでもないと思うので、参照にしてみてはいかがでしょうか。
運動目標の概要は以下のようになっています(LINK de DIET『米国人のための新しい身体活動ガイドライン』)。
●就学前児童(3-5歳)は、成長と発育を促進するために1日を通じて身体的に活発であるべきである。
●6-17歳の青少年は、毎日60分以上の中-高強度の身体活動をすべきである。
●成人は、1週間に150-300分の中程度身体活動、または75-150分の高強度有酸素的身体活動、またはそれと同等の中-高強度身体活動をすべきである。
●さらに成人は、週に2日以上の筋力トレーニングをすべきである。
●高齢者は、バランストレーニング、有酸素的身体活動、筋力トレーニングなどを含む複数の身体活動をすべきである。
●妊婦および出産後女性は、1週間に少なくとも150分の中強度有酸素的身体活動をすべきである。
●慢性疾患や障害のある成人は、可能ならば、成人のためのキーガイドラインに従うべきであり、有酸素的身体活動と筋力トレーニングの両方をすべきである。
●勧告は、移動を多く、座位を少なくすることがほとんどすべての人に有益であることを強調している。最も身体活動の少ない人が、ほどほどの身体活動から最も利益を受けるだろう。より多く動けばさらに利益が加わるだろう。有酸素的運動と筋力トレーニングの両方が有効である。
全身持久力の基準は、『健康づくりのための身体活動基準2013』(厚生労働省)では以下のようになっています。少なくとも、この基準は満たしておきたいですね。
資料(5)より引用
たとえば、『10.0メッツの強度の運動、例えばランニングなら167m/分(10km/時)の速度 で3分間以上継続できるのであれば、「少なくとも40~59歳男性の基準値に相当する10.0メッツの全身持久力がある」と言える』のように判断します。
実際、成人男性約2200人を対象にしたMommaらの報告によると、この厚生労働省の基準を継続的に満たしている男性は、糖尿病の発症リスクが低減できる可能性が示唆されています(6)。
この報告では、途中から基準を満たした人は、最初から基準を満たしている人と同程度まで糖尿病の発症リスクが低減することがわかりました。つまり、いま全身持久力が低い人も、運動して全身持久力をあげていけば、糖尿病の発症リスクをさげることができる可能性が高まるようです(参考:耐糖能(血糖値)改善のための運動)。
また、全身持久力だけでなく筋肉(筋力)も大切です。
イギリス人約40万人を対象にして、筋力(握力)や肥満、死亡率などを分析したKimらの報告があります(7)。その報告によると、筋力が強くて肥満の人と、筋力が弱くて肥満でない人をくらべると、筋力が強くて肥満の人のほうが死亡リスクが低いことがわかりました。
筆者らは、サルコペニア肥満(筋肉が少なく、脂肪が多い状態)では、体重(脂肪)を減らすよりも、運動によって筋肉をつけるほうが先決だと結論しています。たしかに、筋トレでプラスのスパイラルが起こることを以前に紹介しました(参照:インスリンが増えるとミオスタチンが増え筋肉量が減る)。
一般的には、「健康のためにはまずはダイエット(減量)!!」みたいな感じで、脂肪減少を先行してしまいがちですが、健康のためにはひとまず運動が大切のようです。運動もなしに、食事制限などで体重を減らそうとすると、逆に命を縮めてしまうかもしれませんね。
【資料】
(1)Cardiorespiratory fitness, body mass index, and cancer mortality: a cohort study of Japanese men.[PMID:25261876]
(2)Fitness vs. fatness on all-cause mortality: a meta-analysis.[PMID:24438729]
(3)Effects of Running on Chronic Diseases and Cardiovascular and All-Cause Mortality.[PMID:26362561]
(4)The Physical Activity Guidelines for Americans.[PMID:30418471]
(5)『健康づくりのための身体活動基準2013』(PDFリンク)
(5´)『「健康づくりのための身体活動基準2013」及び「健康づくりのための身体活動指針(アクティブガイド)」について』(厚生労働省HPリンク)
(6)Importance of Achieving a “Fit” Cardiorespiratory Fitness Level for Several Years on the Incidence of Type 2 Diabetes Mellitus: A Japanese Cohort Study.[PMID:29176273]
(7)Independent and joint associations of grip strength and adiposity with all-cause and cardiovascular disease mortality in 403,199 adults: the UK Biobank study.[PMID:28793990]
(8)あざむかれる知性、村上宣寛、ちくま新書、2015
[ad#ad3]