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◆美味しんぼ『レモンと健康』
美味しんぼに『レモンと健康』という話があります(単行本14巻・アニメ51話)。そのなかで以下のような場面があります。
体力がないことに不安を感じた女性社員たちは、昼休みを利用して皇居回りでジョギングをはじめます。そのことに気づいた主人公の山岡は女性社員たちを待ち伏せして、やや皮肉を込めて「足腰を鍛え鍛えて癌で死に」という川柳をよみます。これを聞いて女性社員たちはムッとしますが、山岡はこんな排気ガスだらけの場所でジョギングなんかして健康になるはずがないと諭しました。
といった感じです。さて、アニメを見ていた私は思いました。本当に排気ガスによって汚染された場所で運動すると不健康につながるのかな?と。そこで調べてみることにしました。
◆大気汚染は健康に関わっているエビデンス
大気汚染は健康に関連していることが、多くの報告から明らかになっています。
・世界保健機構によると粒子状物質(PM)の大気汚染が毎年約80万人の早死に寄与していると推計(1)
・虚血性心疾患や慢性閉塞性肺疾患(COPD)の早期死亡の増加につながる(2)
・心血管疾患の罹患率および死亡率にとって重要な独立した危険因子(3)
・NO₂(二酸化窒素)が心血管や呼吸器の死亡率増加に関係(4)
◆大気汚染下での運動は呼吸機能によくない
健康のためにウォーキングなど運動をしている方も多いかもしれませんが、そういう方にたちにとってショッキングな報告が2017年に『Lancet』に掲載されました。それによると、大気汚染された場所での運動(ウォーキング)は呼吸器機能に悪影響があるとのことです(5)。
1.調査方法の概要
・大気汚染が高い道(オックスフォードストリート)と大気汚染が低い道(ハイドパーク)でのウォーキングの効果の違いを検証。
・60歳以上の119人が対象(安定労作性狭心症の虚血性心疾患患者39人・GOLD分類ステージ2のCOPD患者40人・健常者40人)。
・3~8週の間隔をあけて両方の道を2時間ずつウォーキングし、呼吸機能などを計測。
・ウォーキング中に大気汚染(黒色炭素、粒子状物質:PM₁₀・PM₂.₅、超微小粒子、二酸化窒素)の濃度も計測。
2.調査結果の概要
(1)主観的症状
・COPD患者は汚染が低い道と比較して高い道では咳、息切れが多い傾向。痰、喘鳴は有意に多かった。
・虚血性心疾患患者は汚染が高い道のウォーキング後には有意に咳が多くなった。
(2)1秒量(FEV₁)・努力性肺活量(FVC)
資料(5)より引用改編
・汚染が低い道ではFEV₁が上昇(5~6時間後に平均7.6%)、26時間後も3.6%の上昇を維持。
・汚染が高い道ではFEV₁の改善が少なく、維持時間も短かった。
・健常者では汚染が高いではFVCの上昇が認められなかった。
・COPD、虚血性心疾患患者では汚染が低い道のほうが26時間後まで上昇が上回っていた。
(3)脈波伝播速度(PWV)
脈波伝播速度は、心臓の拍動が動脈を通じて手や足にまで届く速度のことです。動脈壁の弾力性が低下したりすると脈波が伝わる速度が速くなります(=上昇するとよくない)。
資料(5)より引用改編
・PWVは健常者では汚染が低い道で減少傾向、汚染が高い道では7.17%上昇。
・COPD、虚血性心疾患患者でも健常者と同様の傾向がみられた。
(4)汚染物質と肺・血管機能
・COPDの肺機能に対して超微小粒子、PM₂.₅、一酸化窒素がFEV₁、FVCの減少と関連(ウォーキング3時間後)。
・健常者とCOPD患者のPWV上昇に黒色炭素、超微小粒子が関連。
論文の筆者たちは、以上の結果をもとにして、大気汚染された場所でのウォーキングは避けたほうがいいと結論づけています。美味しんぼの山岡が言っていたことは理にかなっていそうですね。
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◆汚染下でも運動のメリットのほうが大きい!?
ところが、デンマークの約52000人(50~65歳)を対象にした調査によれば、大気汚染があっても運動をしないよりはしたほうがメリットがあったとのこと(6)。運動によって死亡率が有意に低下しており、大気汚染がひどい地域でもその有意性は変わりませんでした。
しかし、この報告は要約しか読めなかったので、なんともいえないところがあります。
とはいえ、大気汚染を恐れるあまりに運動不足になってしまうのは元も子もありませんね。運動不足は万病のもとですから。ちなみにこの論文でも、車のすくないところで運動したほうがいいよといっています。
◆大気汚染への対策
上記の報告は外国のものであり、日本の大気汚染のレベルはそこまでひどくはないと思います。
実際、日本のなかでは空気が汚れているだろうと推察される東京の皇居のまわりは、アメリカ環境保護庁の基準では「良好」とのこと(7.8)。
資料(7)より引用
しかし、やっぱり大気汚染が気になっちゃうっていう人もいるかと思います。そこで、対策をいくつか考えてみました。
1.運動する時間を変えてみる
資料(9)より引用
上の図は、国立環境研究所で報告されている「交通量に対してディーゼル車の占める比率の高い道路沿道において観測された1日の浮遊粒子状物質(SPM:粒径が10ミクロン以下のPM)の変化」です(9)。
時間帯よって浮遊粒子状物質が変化していますね。朝方は思ったよりも多く、お昼や夜間は少ないですね。ウォーキングするならお昼や夜間がいいかもしれません。
ついでにいえば、血糖値のことを考慮するとウォーキングするなら昼ごはん、夜ごはんの後がとくにいいかもしれません。食事のあとにウォーキングをすると血糖の上昇が抑えられると報告もありますので(10.11)。
資料(11)より引用改編
上の図は食後にウォーキングをした群と座位で過ごした群の血糖の変化を表したものです。食後にウォーキングをすることで血糖の上昇が抑えられているのがわかりますね。
2.汚染が強い日は室内で運動する
最近は大気汚染の程度をネットで調べることができますから、汚染が強い日は室内で運動するという手もあります。
室内で有酸素運動しようとするなら段差(階段)昇降とかが手軽かもしれません。
3.マスクをつけて運動する
マスクをつけて運動するという手もあります。
しかし、マスクを選ぶ際には注意が必要です。安価な布製マスクは大気汚染からほとんど身を守ってくれないという報告があるからです(12)。なるべく口にフィットするようなマスクを選ぶなどが重要のようです。安物買いの銭失いにならぬよう注意しましょう。
【資料】
(1)Clearing the air: a review of the effects of particulate matter air pollution on human health.[PMID:22194192]
(2)The contribution of outdoor air pollution sources to premature mortality on a global scale.[PMID:26381985]
(3)Cardiovascular effects of particulate air pollution exposure: time course and underlying mechanisms.[PMID:22724512]
(4)Quantitative systematic review of the associations between short-term exposure to nitrogen dioxide and mortality and hospital admissions.[PMID:25967992]
(5)Respiratory and cardiovascular responses to walking down a traffic-polluted road compared with walking in a traffic-free area in participants aged 60 years and older with chronic lung or heart disease and age-matched healthy controls: a randomised, crossover study.[PMID:29221643]
(6)Does traffic-related air pollution in urban air modifies beneficial effects of exercise on mortality? A cohort study(→リンク)
(7)Yahoo!JAPANニュース「皇居ランは健康に逆効果?説を検討」
(8)Technical Assistance Document for the Reporting of Daily Air Quality- the Air Quality Index (AQI) May 2016(→PDF)
(9)国立環境研究所「自動車から排出される粒子状物質の排出特性と大気中における動態の解析」
(10)Advice to walk after meals is more effective for lowering postprandial glycaemia in type 2 diabetes mellitus than advice that does not specify timing: a randomised crossover study.[PMID:27747394]
(11)Exercise after You Eat: Hitting the Postprandial Glucose Target.[PMID:28974942]
(12)Evaluating the efficacy of cloth facemasks in reducing particulate matter exposure.[PMID:27531371]
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