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冬の鷹~前野良沢・杉田玄白の解体新書から挑戦精神を学べ

 

 

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目次

◆風雲児たち~蘭学革命篇~

今年(2018年)の元日にNHKで『風雲児たち~蘭学革命篇~』というドラマが放送されました。わたしは録画していて、そのまま2か月ほど放置していて、もう見ないかなと思って消去しようと思っていました。

 

しかし、消去するまえにどんな感じか少し見ておこうと思ったのがよかったです。このドラマとても見ごたえがあり、一気に見終えてしまいました。消さなくてよかった(笑)

 

そもそも、このドラマは日本初の医学翻訳書である『解体新書』ができるまでを描いた、笑いありサスペンスありのドラマで、脚本は三谷幸喜さんです。近々、DVDが発売されるらしいので気になる方は買われてみてはいかかでしょうか。

 

【DVD】(※Blu-rayもあります)

 

【原作】

 

 

 

◆冬の鷹/吉村昭

 

わたしはドラマをみて、もう少し前野良沢や杉田玄白について知りたくなりました。そこで調べてみると、吉村昭の『冬の鷹』という小説があることがわかり、さっそく購入してみました。

 

説を読んでいくと、ドラマでは描かれなかった部分を知ることができ、とても大きな収穫となりました。吉村昭は小説を書くにあたり非常に調査をなされる方のようで、激しいフィクションはない(なるべく史実にもとづいている)ように思われます。

 

読み進めていくと、『解体新書』を翻訳していくなかでの苦労がひしひと伝わってきました。以下、すこし長くなりますが引用して紹介します(注は筆者が追記、また改行は読みやすさを意図し、原文とは異なる)。

 

たとえば頭の部分に、het Hoofd is de oppetste holligheid.というように、二、三行のオランダ語の文章が印刷されている。(中略)Hoofd is de opperste……のoppersteの訳が最初の難問になった。その単語は、むろん「和蘭文字略考(注:良沢の師匠である青木昆陽が書いた簡易な辞書)」にもなく、良沢が長崎の通詞(注:通訳)からあつめた単語集の中にも見あたらない。

良沢にとって、その単語の意味を知る方法はなかったが、ただ一つそれを可能とする道があった。それは、マリンの著した仏蘭辞書を参考にすることであった。その辞書の購入をすすめたオランダ大通詞吉雄幸左衛門は、(中略)

「ここにアホンド(Avond)というオランダ語があります。この意味は、日暮れという単語ですが、その後に、ほれこの通りオランダ語の説明文がござりましょう」

と言って、吉雄は短い文章をさししめした。そこには、laatste gedeelte van den daag.と書かれていた。

「ラトステ(laatste)は、終りという意。ゲテルテ(gedeelte)は部分の意、バン(van)は、之の意。ダグ(daag)は、一日の意。つまりこれをつなぎ合わせると、一日の終りの部分也ということになる。これによってアホンド(Avond)とは、一日の終りの部分、即ち日暮れと推測できるのです

と言った。(中略)或る日、良沢は、説明文を書きうつした巻紙を手にしながら、

「今までしらべたところによりますと、このオペルステoppersteは、最も上という意としか考えられませぬ」と言った。

「最も上でござるか」玄白たちは、一様につぶやいた。(中略)玄白が、不意に顔をあげた。

「もしやすると……。いや、もしやではござらぬ、たしかでござる。たしかでござるぞ」と甲高い声をあげた。他の者たちは、玄白の興奮した顔を見つめた。

「いかがなされた」淳庵が、問うた。

「最も上にあるでがござらぬか」玄白の眼が、異様にかがやいている。

「なにがでござる」

淳庵のいぶかしそうな顔に眼をすえた玄白が、

「頭がでござるよ。人体の最も上に、頭があるではござらぬか」と言って、掌を頭上に置いた。淳庵は、目を大きくひらいた。はじけるような笑い声が、かれらの間から起こった。

 

おそろしく遠い道のりであることがわかると思います。いまなら辞書を引いてもいいし、ググってもいいのであっという間に訳すことができるとおもいます。

 

しかし、当時は体系だった辞書もGoogleもありません。オランダ語とフランス語の辞書から少しずつ少しずつオランダ語を翻訳して、それをなんとかしてつなぎ合わせて日本語に翻訳していったわけですね。

 

最終的には約3年でこれを翻訳して、9代将軍家重に献上するに至るのですからすごいです。まあ、この将軍に献上というのは政治的なものが絡んできており、杉田玄白の知恵ともいえるのですがそのあたりは小説をお読みになってみてください。

 

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◆前野良沢がつくった言葉

解体新書の翻訳はおもに前野良沢がおこなっていました。杉田玄白はどちらかというと良沢が翻訳を円滑に進められるように、マネジメントや出版の交渉がおもな役割だったようです。

 

さて、この『解体新書』翻訳のときにつくられた言葉は、現在でも用いられています。

 

たとえば「神経」ですね。これを知ってる人は結構おおいようです(アンケートを作ったときは杉田玄白が翻訳をしていたのかと思っていましたが、主におこなっていたのは前野良沢のようです)。

 

 

ほかにも「軟骨」、「動脈」、「鼓膜」、「十二指腸」などがあります。小説の中にもどうやって訳したのかでてきます。

 

 

◆挑戦精神をもちたい

『冬の鷹』を読んで、わたしはとても刺激を受けましたね。前野良沢や杉田玄白、中川淳庵、桂川甫周らが『解体新書』の翻訳をはじめたときに比べれば、いまはなんと恵まれた環境でしょうか。

 

英語は苦手だなぁと少し距離を置いていましたが、いまならあっという間に意味を調べられますし、文章も翻訳機能を使えば高い精度で訳せるようになってます。すこしばかし甘えていたなと反省しました。学問(とくに医学)を志すもの、一度は読んでみるといいかもしれません。

 

 

◆さいごに

ちなみにこの本はハッピーエンドという感じではありません。この解体新書を契機として、前野良沢と杉田玄白は仲たがいのような感じになり、ふたりを待ち受ける未来も明暗がわかれていきます。なんとも人生の不可思議みたいなものを感じる終焉でした。

 

それにしても、もしかしたら杉田玄白にたいして、いいとこどりした奴みたいな印象をもつ人もいるかもしれません。

 

しかし、小説を読んでもらうとわかりますが、翻訳という偉業に関しては前野良沢だけでもダメ、杉田玄白だけでもダメだということがわかると思います。2人がそろっていたからこそ成し遂げられたものであることがわかります。なんとも運命の数奇さというものを感じざるを得ませんでした。

 

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