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◆舌の位置で筋力が変わる
舌の位置で筋力が変わる。
そんなことを言われたらどう思われるでしょうか?「そんなことありえないよ」と一笑に付すこともできますが、とある研究報告によればこれは事実かもしれません。
2014年に出たRosa di Vicoらの『The acute effect of the tongue position in the mouth on knee isokinetic test performance: a highly surprising pilot study』という論文にそれが示されています。
対象は健常男性18名で、舌の位置によって下肢筋のパフォーマンスが変わってくるかを調査しました。
調査においては以下のような細かな配慮(調整)がなされています。
・テスト前にはアルコールまたはカフェイン含有飲料を24時間飲むことを控える。
・4時間絶食させてテストにおける栄養の影響を軽減。
・歯科医による通常の舌の位置のスクリーニングを受ける。
・日内変動の影響を除くために、同時刻にテストを行う。
・テストの前に自転車エルゴメーターおよび動的ストレッチングなどを実施。
筋力の測定には、BIODEXという等速性筋力測定装置が用いられました。BIODEXというのは以下の動画のような装置です。おもにスポーツ選手や運動器疾患の患者さんに用いられます。
この装置で下肢の筋力を測定するときに、舌の位置を3つにわけました。
・舌を前歯に押しつける(MID群)
・Palatine Spotと呼ばれる“スポット”に軽く触れる(UP群)
・舌を下歯に触れる(LOW群)
資料(1)より引用改編
Palatine Spotは、論文のなかで『The palatine spot is a place in the mouth ceiling in correspondence of the palatine bone between the inter-dental papilla of the upper front teeth and the first fold of the palate.』と記されています。
前歯に当てた舌を上方へ滑らせていって、ゴツゴツしたところを経て、ストンと落ちるツルツルした窪み部分だと思われます。
画像:船戸和弥のホームページより引用
さて、テストの結果が以下のようになりました。
『The present study showed a significant improvement in the isokinetic knee performance with the tongue in the UP position compared to the tests with the MID and LOW positions (Tab. 1). 』
簡単に言えば、舌を前歯や下歯に当てている群より、舌をスポットの当てている群のほうが筋のパフォーマンス(最大ピークトルク、最大ピークトルク/体重単位、最大仕事量、平均ピークトルク、加速時間、減速時間など)が大幅に改善されていました。つまり、筋力が上がっていたということですね。
また、一般的に0.7以上あれば信頼性が高いと評価される級内相関係数(ICC)も0.952~0.987でした。ICCというのは、簡単にいうとテストを複数回おこなった時の測定値間の一貫性のことで、高いほど再現性が高いということになります。
◆頚部の安定性が筋力につながる?
なぜ舌の位置によって筋力に差が出てくるのでしょうか?
論文では三叉神経などの影響があるのではないかと推察しています。今回はわたしなりに調べてみた範囲でひとつの仮説を提示したいと思います。
歯科医師である山下久明さんは、著書『背すじを伸ばすな!』のなかで、舌は頭部の揺れを軽減するダンパー的な役割があると指摘しています。ダンパーというのは衝動や振動を弱める装置のことをいいます。引用して紹介します(図番号など一部割愛)。
舌の表側の筋肉を使えば舌は上に持ち上がり、裏側の筋肉を使えば下に丸まろうとします。ですから、舌が上あごを押しているときは、当然、舌の表側の筋肉が収縮します。すると、舌骨は前方へひっくり返ろうとします。そこへは舌骨下筋も加担します。
ひっくり返ろうとする舌骨を引き止めようとするのが、オトガイ舌骨筋です。オトガイ舌骨筋によって引き止められた舌骨は、上に上がる力が強く残こり、のど仏を持ち上げることになります。そしてオトガイ舌骨筋が、舌骨を引いたときの反動は、舌あごを回転させる力となって、頭蓋に戻されて打ち消されます。
こうして、舌骨から連なる一連の軟組織とのど仏、そして気道などを引っ張るときの弾性を利用したダンパーができあがるのです。
この記載は、論文でいうスポットに舌を当てることで拮抗的な筋肉のつり合いが取れるようになり、頭頚部が安定するとも読み取れるのではないでしょうか。
舌をスポットに当てることで頚部の安定性が向上し、アライメントやマッスルインバランス、筋緊張などに影響が生じて、筋力が発揮しやすくなるのかもしれません。ここらは完全に推測ではありますが(笑)
なぜこのようなバンパーみたいな役割ができたのかというと、筆者は進化の過程で前頭葉の発達で大きくなった頭部を支えるためにそういう構造になったと推論していますが、そのあたりはやや飛躍の感も否めません。詳しく知りたい方は本を読んでみてください。
いずれにせよ、以前紹介した『効果的なパテラセッティングの方法』や『対称性緊張性頚反射を利用した立ち上がり法』などに、このたび紹介した舌のスポット法を合わせてみるのもいいかもしれませんね。舌を口蓋上部に当てるだけなので危険性はほぼありませんし、一言伝えるだけでいいんですからお金もかかりません。
【資料】
(1)The acute effect of the tongue position in the mouth on knee isokinetic test performance: a highly surprising pilot study.[PMID:24596696]
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