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廃用症候群と離床の歩み~欧米に廃用症候群はない!?~

忙しい人のための要約
1800年代は離床は治癒を阻害するものとしておこなわれていませんでした。1900年代に安静の害がわかり、2000年代は安静は治療の一環としてとらえられています。欧米では廃用症候群という言葉は、あまり使用されておらず、今後どうなるのか気にかかるところです。

 

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目次

◆廃用症候群とは

「廃用症候群」とは、疾患などのために活動性や運動量の低下した安静状態がつづくことで、全身の臓器に生じる二次的障害の総称です。

 

廃用症候群という名前の由来は、1964年にHischbergが提唱したdisuse syndromeの和訳からきています(1)。

 

症状としてはいかのようなものがあります。

資料(2)引用

 

人工呼吸器管理や集中治療室管理が必要な重症疾患、多発外傷、急性感染症、手術後、熱傷など高い侵襲をおこす疾患が、廃用症候群の原因になることが多いです。

 

とくに、筋力・体力などの身体機能の余裕がすくない高齢の人では、すこしの侵襲や短期間の安静でも、廃用症候群がおこりやすいです。

 

そのため、医療業界では、安静による廃用症候群を予防していくために、早期離床を行っていこうという風潮があります。

 

さて、まずは廃用症候群と早期離床の歩み(歴史)をみていこうと思います。

 

 

◆廃用症候群と早期離床の歩み

①1800年代(安静推奨期)

1863年、HiltonやThomasらは創傷治癒の観点から、安静・不動を推奨しました(3)。

 

安静こそが治癒につながるという考えがあったのですね。つまり、安静推奨期といえます。

 

そんななか、はじめて離床に関して報告がなされたのは、1899年です。それはRieらが婦人科術後の離床を報告したものでした(4)。

 

 

②1900年代(離床黎明期)

1900年代にはいると、Warrenらが安静臥床による弊害の重大性をあきらかにしました(5)。

 

その後、第二次世界大戦がおこり、欧米ではearly mobilization(早期離床)の重要性が示唆されるようになりました。

 

1900年代は離床の幕あけであり、離床黎明期といえます(ちなみに黎明[れいめい]とは、新しい事柄が始まろうとする時期という意味です)。

 

以前、リハビリテーションの父といわれるラスク医師を紹介しました(参照:『リハビリテーションの父 ハワード・ラスク博士』)。このラスク博士の研究も、早期離床におおきな影響をあたえました。

 

大川弥生医師の『「動かない」と人は病む』より引用します。

 

内科出身のハワード・A・ラスク博士が指導して、ミズーリ州のジェファーソン空軍基地の病院で三年がかりで行った研究は有名です。

これは比較試験で、六四五人の肺炎の傷病兵を二つのグループに分け、一方は従来の「安静第一」のやり方で、他方は検査値がある程度よくなったら、起きて活発な生活をする体力再建プログラムを開始して、その最終結果を比較したのです。

その結果はおどろくべきものでした。活発な生活をしたグループでは「安静」のグループと比べ、入院期間は三分の二と短くてすみ、再発した人の率は何と十分の一だったのです(この時代はまだ抗生物質がなく、ペニシリンですら品不足で、再発が多かった時代でした)。

『「動かない」と人は病む』

 

その後、Deitrick(7)やTaylor(8)、Powers(9)といった先駆者たちの研究や1960年代の宇宙研究などにより、安静の害が解明されていきました。

 

そして、1900年代後半には、外科術後を中心に離床がすすめられるようになりました。

 

しかし、当時は離床そのものの効果に関するエビデンスは多くありませんでした。そのため、ダラススタディ(参照:『3週間の安静は40年分の加齢とおなじ』)などの寝たきり研究によって証明された、長期臥床の弊害をさけるという目的が主で、離床がすすめられていました。

 

つまり、「安静の害を避けるため」という意味あいの、消極的な離床がおこなわれていたといえます。

 

 

③2000年代(離床治療期)

しかし、2000年代にはいり離床のとらえ方が変わりました。

 

新しい鎮静薬(プロポフォール・デクスメデトシジン)の登場により、離床がおこないやすくなったのです。

 

ここから従来のケアと早期離床を比較することで、早期離床のエビデンスがつぎつぎと生まれました。

 

それは入院期間の短縮(10,11)、せん妄の予防(10,12)、QOLの改善(13)など多岐にわたりました。

 

また、1999年のAllenらが39の研究を分析した報告によれば、安静臥床によってなんらかの利益を認めたという研究はひとつもないとのことです(14)。

 

これらの知見をふまえ、「安静はよくない・離床はしたほうがいい」という消極的な離床から、「離床はおこなわなければならない」という積極的な離床になったのです

 

よほどの特別な場合をのぞいて、安静にはなんのメリットもありません。

 

2000年代になり、離床は治療になったのです。

 

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◆廃用症候群という言葉

さきに述べたように、disuse syndrome(廃用症候群)という概念を紹介したのはHirschbergです。日本では和訳である廃用症候群という用語が、もっとも多く使われています。

 

しかし、欧米では廃用症候群という用語は、あまり使用されていません。

 

廃用症候群と意味するところはほぼ同じで、以下のような言葉が代わりに使用されているようです。

 

〇身体的不活動(physical inactivity)

:Rusk(Rehabilitation medicine 3ed・4ed)

 

〇不活動(inactivity)

:Downey(Physiolosical basis of rehabilitation mediccine)、DeLisa(Rehabilitation medicine 2ed)、Kottke(Krusen’s Handbook of physical Medicine and Rehabilitation 4ed)

 

〇デコンディショニング(deconditioning syndrome)

:Downey、Braddom(Physical Medicine and Rehabilitation)、DeLisa、Kottke

 

〇不動(immobility)

:DeLisa

 

〇不動化(immobilization)

:Kottke

 

〇無活動状態(hypodynamics)

:McCally

 

日本でも、廃用という言葉の不明瞭性(意味がわからない)や印象的な問題(廃人・廃棄物などを連想する)などから、代わりの言葉をさがすべきであるという議論がなされているようです。

 

さきほど引用した大川医師は、廃用症候群の代わりに「生活不活発病」という言葉を提唱しています。

 

大川医師は著書のなかで、最近は生活不活発病が一般的になったと書いていますが、やや自画自賛がすぎる気がします。大半の医療者は廃用症候群を使っているのではないでしょうか。

 

ほかにも三好正堂医師は、著書『間違いだらけのリハビリテーション』のなかで、廃用症候群を「運動不足病」と書いています。

 

今後、なにかしら変化が生じていくのか、気にかかるところですね。

 

 

 

【資料】

(1)Hirschberg GG:Rehabilitation、12‐23

(2)美津島隆:用語としての廃用症候群、MB Med Reha NO.72:1-4,2006

(3)Hilton J:On the influence of mechanical and psysiolosical rest in the treatment of accidents and surgical disease and diagnotic value of pain, Bell and Daldy, London, 1863

(4)Some radical changes in the after treatment of celitomy cases.JAMA.33:454-456.1899

(5)Activity in advancing years.[PMID:14772519]

(6)「動かない」と人は病む、大川弥生、講談社現代新書、2013

(7)Effects of immobilization upon various metabolic and physiologic functions of normal men.[PMID:18920941]

(8)Effects of bed rest on cardiovascular function and work performance.[PMID:15398582]

(9)powers JH:The Abuse of Rest as a Therapeutic Measure in Surgery.J An Med Assoc,125:1079,1944

(10)Early physical medicine and rehabilitation for patients with acute respiratory failure: a quality improvement project.[PMID:20382284]

(11)Physical therapist-established intensive care unit early mobilization program: quality improvement project for critical care at the University of California San Francisco Medical Center.[PMID:23559525]

(12)Effectiveness and safety of the awakening and breathing coordination, delirium monitoring/management, and early exercise/mobility bundle.[PMID:24394627]

(13)Early exercise in critically ill patients enhances short-term functional recovery.[PMID:19623052]

(14)Bed rest: a potentially harmful treatment needing more careful evaluation.[PMID:10520630]

(15)間違いだらけのリハビリテーション、三好正堂、経営者新書、2015

(16)曷川元:これまでの10年これからの10年 臨床の流れから将来像を考える.EARLY MOBOLIZATION JOURNAL.VOL2:6-9,2016

(17)若林秀隆:高齢者の廃用症候群の機能予後とリハビリテーション栄養管理.静脈経腸栄養、Vol. 28 No. 5 p. 1045-1050、2013

 

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