◆はじめに
前回は、他人から老けて見られる人は短命である(死亡率が高い)という記事を書きました(参照:老け顔は短命~見た目年齢と寿命の関係について~)。
今回は、自分自身が老けているという気持ちをもっていると、死亡率が上昇するという研究を紹介したいと思います。
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◆実年齢より老けていると思う人は死亡率があがる
2015年、イギリスのIsla Ripponらは、自身が実年齢よりも老けていると思っている人は死亡率が高くなることを報告しました(1)。
彼らの研究は、2004年から2005年におこなわれたコホート研究*(English Longitudinal Study of Ageing)の52歳以上(平均65.8歳)、6489人を対象にしています。
「あなたは自分のことを何歳くらいだと思いますか?(How old do you feel you are?)」と訊くことで、自分自身にいだく年齢(自己認識年齢)を調べ、そこから死亡率などの関係を分析しました。
自己認識年齢の内訳
・平均自己認識年齢:56.8歳
・実年齢より若いと思っている人:69.6%
・実年齢くらいと思っている人:25.6%
・実年より老けていると思っている人:4.8%
論文では、対象者を自己認識年齢別で3群にわけました。
・実年齢と同じくらい群(2歳下1歳未満)
・実年齢よりも老けてる群(1歳以上)
・実年齢よりも老けてる群(3歳以上)
3群の死亡率は以下のようになりました。
資料(1)より作成
自分が老けこんでいると思っている人ほど、死亡率が高かったということですね。
また、性別や年齢、うつ状態、認知機能などで調整しても、実年齢よりも老けこんでいると思いこんでいる感覚は、死亡率の重要な独立した予測因子でした(相応群と老化群(3歳以上):ハザード比1.41;95%CI 1.10-1.82)。
つまり、若いと思っている人にたいして、老け込んでいると思っている人の死亡リスクは1.4倍になるということです。
自己認識年齢と全死亡率リスク:資料(1)より引用
いや、もしかすると亡くなる直前の人が多くふくまれていて、それが影響しているのではないかとも考えられますよね。亡くなる前の人は、老けたと考えるのは予想できますから。
しかし、この研究では、調査開始時から1年以内に亡くなった方を除外しても、自己認識年齢が予測因子であることには変わりなかったとのことです。
自己認識年齢と死因別死亡率:資料(1)より引用
ちなみに、この老けこんでいる感覚と心血管疾患死亡との間には、相関がありましたが、がん死亡とのあいだに相関はありませんでした。
◆自身を若く思うのは主観的健康観
自分のことを若いと思うのは、主観的健康観(自分がどのくらい健康だと考えてるかを示す指標)ともいえますね。主観的健康観は、1950年代後半よりアメリカで使用されはじめ、総合的な健康指標として意味をもつことが示されています(2)。
つまり、自分は健康であると思っている人は、健康傾向であり、健康でないと思っている人は、不健康傾向にあるということですね。
ほかにも、主観的健康観は死亡(3-5)や身体機能低下(6)などの予測に役立つことが報告されています。
この主観的健康観は、なにが関係しているんでしょうか?
◆自主性と肯定的な認知を促すことが肝要
いろいろ考えられると思いますが、やはり自主性(主体的思考)というのが大切ではないかなと思います。
自主的に考えることができない人は、他人の影響を受けやすいと思われます。このことについては『ロバの親子証拠群~主体的思考・目利き力・遮断力~』に書いていますので、参照にしてください。
やはり、自分で考え、自分で健康を保とうと意識している人は健康志向だと思います。そういう健康への積み重ねが、自分の若い気持ちに繋がるんじゃないでしょうか?
トレーニングもしない、食事にも気を使わない。そういった人が、自分の健康や若さに自信を持てるとはなかなか思えません。
そういうことを考えると、医療者が患者さんにできることはなにがあるのでしょうか?
最初に紹介した論文では、以下のようにまとめられています。
The mechanisms underlying these associations merit further investigation. Possibilities include a broader set of health behaviors than we measured (such as maintaining a healthy weight and adherence to medical advice), and greater resilience, sense of mastery, and will to live among those who feel younger than their age.
Self-perceived age has the potential to change, so interventions may be possible.Individuals who feel older than their actual age could be targeted with health messages promoting positive health behaviors and attitudes toward aging.
~意訳~
自分を老けていると思っている人の死亡率が高くなるメカニズムは不明であり、さらなる検討をおこなう価値はある。死亡率が高くなる因子の可能性としては、今回の研究では除外した広範な健康行動(健康的な体重維持や医学的アドバイスの遵守など)、病気からの回復する力、優越感、若い人と過ごすのが苦にならないなどが考えられる。
自己認識年齢は変化する可能性があり、介入により意識は変えられる可能性がある。自分のことを老けていると思っている人が、肯定的な健康行動や老化(加齢)にたいする肯定的な見方をうながすような介入を行うことが有用かもしれない。
「年齢だから仕方ない」といった否定的な認知を生みださないようにするのは、慢性疼痛でも言われていることですね。医療者は、肯定的な認知に転換できるような言葉を使うことが望ましいと思いますね。
【資料】
(1)Feeling old vs being old: associations between self-perceived age and mortality.[PMID:25506678]
*Cohort profile: the English longitudinal study of ageing.[PMID:23143611]
(2)健康観の転換ー新しい健康理論の展開、園田恭一、東京大学出版会、1998
(3)Subjective state of health and survival in elderly adults.[PMID:3385152]
(4)Self-evaluated health and mortality among the elderly in New Haven, Connecticut, and Iowa and Washington counties, Iowa, 1982-1986.[PMID:2293757]
(5)藤田利治、地域老人の健康度自己評価の関連要因の関連要因とその後2年間の死亡、社会老年学、31:43‐51、1990
(6)Risk factors for functional status decline in community-living elderly people: a systematic literature review.[PMID:10075171]
(7)検証「健康格差社会」、近藤克則、医学書院、2007
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