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理学療法士が効果のない治療をおこなう8つの理由

忙しい人のための要約
効果のない治療をおこなってしまう理由として(1)臨床経験(2)代替効果への過度の依存、(3)病気の自然経過、(4)病理生理学的モデルへの愛(誤っている)、(5)儀式と秘儀、(6)なにかをする必要がある、(7)だれも疑問をもたない、(8)患者の希望(真または偽り)が挙げられてる。それらについて解説した。

 

 

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目次

◆効果のない治療をおこなう理由を解説した論文

2004年、世界的に権威ある医学論文雑誌「British Medical Journal」(BMJ)に、『Why do doctors use treatments that do not work?』(なぜ医師は効果のない治療をおこなうのか?)という論文が掲載されました(1)。

 

この論文に挙げられている理由が、理学療法士にもあてはまりそうでしたので、すこし応用してまとめてみようと思います。

 

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◆理学療法士が効果のない治療をおこなう8つの理由

論文では以下の8つの理由が挙げられています。

 

(1)Clinical experience

(2)Over-reliance on a surrogate outcome

(3)Natural history of the illness

(4)Love of the pathophysiological model (that is wrong)

(5)Ritual and mystique

(6)A need to do something

(7)No one asks the question

(8)Patients’ expectations (real or assumed)

 

ひとつずつ私見を含めて解説していきましょう。

 

(1)臨床経験

これは想像しやすいですね。臨床で経験してきたことを土台にして、治療をおこなってしまうというわけですね。以前の患者さんにマッサージが効いたから、この患者さんにも同じようにやってしまおうという感じでしょうか。

 

それが必ずしも誤りであるとはいえないですが(臨床経験で培ってきた直感はときに正しいこともある)、そればかりに依拠してしまうと、おそらく進歩のない偏見だらけの治療になってしまうような気がします。

 

 

(2)代替効果への過度の依存

代替効果とはなんでしょうか?

 

医師である康永秀生さんの著書『健康の経済学』では、真の効果と代替効果について以下のように書かれています。

 

医薬品を含む医療サービスの効果には、「真の効果」と「代替効果」があります。

「真の効果」とは、疾病の予防や治癒、生存年の延長、生活・生命の質(quality of life:QOL)の改善などが含まれます。これに対し「代替効果」とは、検査値の正常化などが含まれます。

『健康の経済学』P69

 

たとえば、人工膝関節の手術をした患者さんがいたとしましょう。膝関節の可動域を改善することも重要ですが、膝関節の可動域だけよくなってもよろしくありません。

 

ADLやQOLの改善こそが手術の目的であるともいえます。膝関節の可動域改善が代替効果、手術によりADLやQOLの改善が真の効果といった感じですね。

 

膝関節の可動域の値に執着してしまって、ほかのADL練習などがおざなりになってはいけませんよということです。

 

 

(3)病気の自然経過

病気というのは、自然治癒することがよくあります。つまり、介入(理学療法)がなくても時間がたてば勝手に良くなるということです。

 

たとえば、ぎっくり腰痛でやってきた患者さんがいたとしましょう。介入したら次の日に痛みが減りました。理学療法に効果がありました。

 

これがよろしくないわけです。『平均への回帰』というものがありますが、人の体調は良いときもあれば悪いときもあります。大まかに見れば、体調というのは良くも悪くもないという平均に回帰(落ちつく)するわけです。別に介入しなくても、勝手に体調は落ちついていった、自然経過で勝手に良くなった可能性も大いにありうるわけです。

 

『不合理』という本では、平均の回帰について以下のように書いています。

 

少なくとも一定程度まで運や偶然に左右される状況では、あるときに例外的な結果が出た場合、次に出る結果は全体の平均値に近づく――多くの人はこの原理を理解していない。そのため極端すぎる予測をして失敗するのだ。

『不合理』P269

 

また、『前後即因果の誤謬』という可能性もあります。Wikipediaでは『ある事象が別の事象の後に起きたことを捉えて、前の事象が原因となって後の事象が起きたと判断する誤謬(因果の誤謬)』と説明されています。前後の時間経過で因果関係を結びつけちゃうミスってことですね。

 

こういう可能性があるということを、意識しておく必要はありますよね。

 

 

(4)病理生理学的モデルへの愛(誤っている)

たとえば、腰痛の患者の画像所見にヘルニアがあったとしましょう。だから腰痛の原因はヘルニアですよみたいな。ヘルニアがあっても腰痛がないことはありますし、これは病理生理学モデルへの愛というか思いこみに近いかもしれませんね。

 

理学療法士なら筋膜に原因がとか、運動連鎖に原因がとかになるかもしれません。自分の愛着があるモデルに引っ張られて、判断してはいけないよということでしょう。

 

ニュージーランド事故補償公団から出されている『急性腰痛と危険因子ガイド』には、腰痛を慢性化させる治療家の特徴として『痛みに対する視野の狭い医学モデルに固執し、長期的治療プランもないまま一時的な鎮痛処置に重点を置く』と書かれています。これもモデルへの愛といえますね。

 

詳しくは『急性腰痛と危険因子ガイド~慢性化させる治療家の特徴~』を参照してください。

 

 

(5)儀式と秘儀

ぱっと思いつくのは牽引でしょうか。ヘルニアだから牽引しときましょうみたいな。べつにエビデンスがあるわけでもなく、いままでの慣習からやりつづけるような感じですね。

 

もはや意味などは関係なくて、機械的にやってしまう。これが儀式(秘儀)化してしまった介入という感じですね。もちろん、惰性でやっているだけなので、効果がない治療になってしまいがちになるのは、想像に難くありません。

 

 

(6)なにかをする必要がある

効果が望めなくても、患者さんが望むからついついしてしまうといった感じでしょうか。

 

一応、薬出しときますねといったのもこれにあてはまるかもしれません。

 

 

(7)だれも疑問をもたない

たとえばマッサージ。

 

理学療法士もマッサージすることで患者さんが喜んでるし、患者さんも気持ちよくて異論はない(合意ができている)。つまり、このやってること(マッサージ)が本当に効果あるの? ってことにだれも疑問をもたないって感じですね。

 

たまたまマッサージしたあとに症状が改善したら、さきほどの「(1)臨床経験」、「(3)病気の自然経過」などと複合する可能性もありますね。マッサージは効くからつぎの患者さんにもやろうとか、自然経過ではなくこれはマッサージしたからよくなったんだみたいな。

 

 

(8)患者の希望(真または偽り)

これは「(6)なにかをする必要がある」と関わってくるかもしれません。患者さんの希望を尊重しすぎて、まったく科学的根拠のない介入をしてしまうといった感じです。

 

「もんで」と言うから言われたようにもむだけ。「湿布出して」と言うから、言われるがままに処方してしまうみたいな。

 

 

◆とある理学療法士で例えてみると・・・

※[ ]内は上記にあてはまる理由の番号です。

とある理学療法士は、関節調整の手技にはまりこみ、患者さんの病態をその手技の世界観だけで考えるようになりました[4]。あまり評価をおこなうこともなく、どの患者さんにも○○関節の調整をおこないます[5]。

 

理学療法士の評価はいつも「軽くなったでしょ?」「動きやすくなったでしょ?」と主観的で誘導的なものが多く[2]、1~2週間するとぎっくり腰でやってきた患者さんも「あなたのおかげで良くなってきたわ」と笑みをこぼします[3]。

 

理学療法士も患者さんが良くなったというので安心し、患者さんも専門家が言うならと納得します[7]。そして、理学療法士はこの手技は効果があるんだと信念を強くし、つぎの患者さんにも同じように手技をおこなっていきます[1]。

 

しかし、その手技は論文ひとつ報告されておらず、どこかの整体師が有料で教えているようなものでした。

 

ーーーーーーーーー

 

ひとつというよりは、上記にあげた理由が複合的になって、効果のない治療がおこなわれてしまっているという感じでしょうか。

 

対処法はいろいろあると思います。

 

説明の仕方によっても患者さんの考え方が変わるでしょうし、治療者の内省や学術的な研鑽もよいでしょう。

 

効果のない治療はムダな医療費につながります。医療費が増加している日本にとっては、ムダな医療費は節約しなければならないところです。

 

 

【資料】

(1)Doust, Jenny, and Chris Del Mar. “Why do doctors use treatments that do not work?.” (2004): 474-475.[PMID:14988163]

 

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