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◆頭痛のレッドフラッグ
資料(9)引用作成
◆原因:くも膜下出血とは?
くも膜下腔に出血が起こり[脳脊]髄液に血液が混入した状態を、くも膜下出血(subarachnoid hemorrhage;SAH)という。(中略)
その原因は脳血管障害のみならず、脳腫瘍、感染症、全身血液疾患など多岐にわたるが、代表的なものは脳動脈瘤の破裂によるものであり、外傷性を除く特発性SAHの75~85%が破裂脳動脈瘤により、脳動脈奇形(10%)がこれに次ぐ。
『標準脳神経外科学』
頻度としては、およそ6~29人/人口10万人に発生するようです。これは脳血管障害全体の約10%強を占めています。
◆症状:激しい頭痛(雷鳴頭痛)
典型的なくも膜下出血の症状としてよく挙げられるのが、雷鳴頭痛(突然の激しい頭痛)ですね。アメリカではThunderclap headache(TCH)というようです。言葉どおり、カミナリのように激しい頭痛ということでしょう。
雷鳴頭痛の特徴は、突発的な重度の頭痛で、1~3分以内に痛みのピークに達するものです(1.12)。痛みの感じとしては、「バットで殴られたような痛み」や「人生最悪の痛み」などと表現されることが多いようです。
雷鳴頭痛がおこる疾患は100以上(頭蓋内出血、脳梗塞、頚動脈解離、感染症など)あるといわれていますが(2.3)、もっとも一般的な原因としてくも膜下出血が挙げられています(4.5)。
雷鳴頭痛で受診した患者の11.3%がくも膜下出血であった(6)、雷鳴頭痛の10~25%がくも膜下出血であるという報告もあります(7)。
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◆突然発症は危険!
資料(8)参照作成
痛みの程度も重要ですが、さらに大切なのは突然発症しているかということです。くも膜下出血の特徴は、先述した雷鳴頭痛のような突然発症です。これが認められたら、早急に救急車を呼びましょう。
医師である植村研一さんの著書より引用します。
くも膜下出血の特徴というのは突発ピーク型の頭痛が必発することです。ガーンと突然頭が痛くなり、瞬時にしてピークに達する。この「突発ピーク型の頭痛」というのは、長年の脳外科の経験からいってもくも膜下出血以外にありません。
ですから、Anamnese(引用者注:病歴)で突発ピーク型の頭痛を聞いたら、CTもルンバールも、ハンマーや、Babinski徴候の検査も要らない。ひたすらに救急車を呼んで脳外科に送ることです。
『頭痛・めまい・しびれの臨床』
◆重大な頭痛を見抜く質問
痛みの程度(軽度)によっては、危険な頭痛と判断していいのか迷うこともあるかもしれません。そういうときのための突発的な頭痛を見ぬくための質問があります。
「その痛みは突然でした?」などと患者さんに訊いても、なかなか要領をえないことがあります。「突然なのかな?急に起こったような感じもするし、どうなのかな···」みたいな感じです。
そこで、「頭が痛くなった時、なにをしていたか?」と訊くわけです。
突然の痛みというのは、なにをしていたかわかるのです。逆になにをしていたのかわからないような頭痛は、徐々に頭痛が増強していった可能性が高く、片頭痛や緊張型頭痛であると推察できるわけです。
お風呂を洗っていた時、買い物をしていたとき、テレビで水戸黄門が印籠を出したときなど、なにをしていたのかはっきりくっきり思い出せるほど、危険な頭痛の可能性が高くなるといえます。
◆麻痺がないから大丈夫?
資料(10)参照作成・画像:郡山青藍病院
脳の疾患といえば、麻痺というイメージがあるかもしれません。だから、手足に麻痺がでなければ大丈夫と考えている人もいるのではないでしょうか。
しかし、くも膜下出血は別です。くも膜下出血というのは、脳の表面に血液が流れ出てしまうだけですから、神経症状がでないのは当然なのです。ゆえに、頭痛だけということも大いにあり得るわけです。頭痛はあるけど麻痺がないから大丈夫、なんてことはありません。
◆項部硬直がないから大丈夫?
くも膜下出血なら髄膜刺激症状である項部硬直(首筋が硬くなり、首を動かしにくい状態)が出るはずです。
たしかにシステマティックレビュー・メタアナリシスにおいても、首の痛み(陽性尤度比4.1:95%信頼区間2.2-7.6)・項部硬直(陽性尤度比6.6:95%信頼区間4.0-11.0)はくも膜下出血の特徴的な所見であるとされています(15)。
しかし、項部硬直がないからくも膜下出血じゃない、と判断するのは早計です。さきほどの植村研一さんはこう記しています。
くも膜下出血なら項部硬直 Nackenstarre が出ると思ってもだめです。一部の特殊例を除いて Nackenstarre は数時間でない。
私がみたくも膜下出血で、それこそ瞬時に意識障害と Nackenstarre が同時に出た患者がいましたけども、そのときはすでに呼吸は止まっていました。
『頭痛・めまい・しびれの臨床』
◆前兆:くも膜下出血は1回目が岐路
「大きな頭痛があったけれど、一晩休んだら治った」
これは非常に危険です。警告出血・警告頭痛(Warning Sign・Warning headache)かもしれません。
警告出血というのは、大きな発作の1~3週間前に起こる激しい頭痛のことです。未破裂動脈瘤の微量な出血により起こるとされています。
この1回目の警告出血に気づけず、2回目の本番でドーンと動脈瘤が破れてしまうと、血管攣縮が起こり非常に危険です。最初のうちに見つけるのが大切なんです。
◆とりあえず救急へ
くも膜下出血の1/3は症状が頭痛だけであり、問診といったことだけでは判断するのは難しいようです(13)。
また、発症してから時間が延長するにともなってCT検査の感度が低下する(14)、とくに発症から6時間以内の診断精度は高いという報告もあります(15)。
突発的な頭痛があれば迷わず救急へというのが賢明です。
こちらのブログ(「Hospitalist~病院総合診療医~」)も参考になりますので、一読をお勧めします。
【資料】
(1)Thunderclap headache.[PMID:24643327]
(2)A systematic review of causes of sudden and severe headache (Thunderclap Headache): should lists be evidence based?[PMID:25123846]
(3)Thunderclap headache.[PMID:16781992]
(4)Thunderclap Headache.[PMID:26252591]
(5)Thunderclap headache: diagnostic considerations and neuroimaging features.[PMID:23245274]
(6)Sudden onset headache: a prospective study of features, incidence and causes.[PMID:12110111]
(7)Rapid diagnosis vital in thunderclap headache.[PMID:27337756]
(8)頭痛・めまい・しびれの臨床、植村研一、医学書院、1987
(9)よくある気になるその症状、岸田直樹、じほう、2015
(10)危ない症候を見分ける臨床判断、林寛之・堀美智子、じほう、2015
(11)標準脳神経外科学11版、山浦晶・田中隆一、医学書院、2008
(12)診察エッセンシャルズ新訂版、松村理司、日経メディカル開発、2009
(13)Headache characteristics in subarachnoid haemorrhage and benign thunderclap headache.[PMID:9810961]
(14)Subarachnoid hemorrhage diagnosis: lumbar puncture is still needed when the computed tomography scan is normal.[PMID:8870753]
(15)Spontaneous Subarachnoid Hemorrhage: A Systematic Review and Meta-analysis Describing the Diagnostic Accuracy of History, Physical Examination, Imaging, and Lumbar Puncture With an Exploration of Test Thresholds.[PMID:27306497]
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