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思いやりが強い看護師ほど燃え尽き症候群になる!?

忙しい人のための要約
緒方洪庵は人情が先行するからと福沢諭吉の治療をほかの医師に託しました。看護師は純粋な利他性が高い人が多く、燃え尽き症候群になりやすいとの報告もあります。患者を家族のように思えといった過剰な人情優先的な医療に気をつけましょう。

 

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目次

◆福沢諭吉が語る緒方洪庵の親切

ときおり、「患者さんのことを家族と思え」などとのたまう方がおられますが、わたしはそれには賛成しかねますね。

 

わたしの思いを伝えるのに、福沢諭吉の『福翁自伝』にうってつけのお話がありますので、紹介したいと思います。それは福沢が、蘭学者であり医師でもあった緒方洪庵が開いた適塾にいたときのことで、福沢は腸チフスという感染症にかかってしまいました。

 

そのときの私は堂島の倉屋敷の長屋に寝ていた。ところが先生が見舞いに見えまして、「いよいよ腸チフスに違いない。本気で治療しなければ危険な病気である」と言う。私がその時受けた緒方先生の親切というのは、今にも忘れられない。

「おれはお前の病気をたしかに診てやる。診てやるけれども、おれが自分で薬の処方はできない。何しろ迷ってしまう。この薬あの薬と迷って、あとになってそうでもなかったと言ってまた薬の加減をし、しまいには何の治療をしたかわけがわからんようになるというのは人情として避けられない。だから、病は診てやるが薬の処方はほかの医者に頼む。そのつもりでいろ」と言って、先生の友人、内藤数馬という医者に処方を託し、内藤の家から薬をもらって、先生はただ毎日来て容体を診て病中の摂生法を指図するだけであった。

『福翁自伝』P61-62

 

緒方洪庵は医師です。自身が診察して、福沢に薬を処方することもできるわけです。しかし、緒方はこれを避けます。なぜなら、人情が先行してしまい、適切な治療ができないからと言うのです。

 

福沢諭吉 緒方洪庵

 

これが、「患者を家族と思え」に首肯できない理由です。医療者は治療とともに、心配りをすることも大切であると思います。心配りが足らず、患者さんは余計な不安や悲しみを抱えてしまうのはよろしくありません。

 

しかし、患者を家族と思うといった、心配りが行きすぎてしまうのも、これはこれであまり褒められたものではありません。ある程度の中立性というか、冷静さが欠かせないと思うんです。

 

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◆利他性が強い看護師は燃えつきてしまう

医療者が患者にたいして心配りすることは大切です。しかし、それが過大になってしまうと、医療者自身の健康を害してしまう可能性があります。

 

行動経済学には、「利他性」という概念があります。カリフォルニア大学サンディエゴ校のジェームズ・アンドレオーニは、これを「純粋な利他性」と「ウォーム・グロー」にわけられるとしています(1.2)。

 

純粋に利他的な人とは、他人の喜びを自分の喜びとして感じ、他人の悲しみを自分の悲しみとして感じるというように、共感特性の強い人のことだ。(中略)

一方で、ウォーム・グローをもつ人は、看護行為を行っている自分が好きというように、看護行為そのものから自分自身の喜びを見出す。

『医療現場の行動経済学』P252

 

そして、看護師においては、一般の人よりも「純粋な利他性」を有する人が多いことが報告されています(3)。

 

看護師 利他性

資料(3)より作成

 

また、以下のグラフに示すように、そういう人ほど燃えつき症候群になりやすいことがわかりました。

 

看護師 燃え尽き症候群

資料(3)原典、(4)参照作成

 

情緒的消耗感というのは、燃えつき症候群の症状のひとつです。神経内科医である下畑享良さんのブログで、この情緒的消耗感が出てきている早期の段階での対処が大切であることが、指摘されています。

 

バーンアウトの3症状は「情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感の低下」である(図).これらは並列に生じるものではない.

つまり,情緒的消耗感から患者さんに対して非人間的な対応をしたり,無関心や思いやりに欠ける言動などをする「脱人格化」に至るには「職業人・人間としての倫理観」という大きなハードルがある.

すなわち,このハードルを乗り越える以前の情緒的消耗感を呈している早期の段階(まだ燃え尽きてしまっていないという意味でバーニングアウトと呼ぶ)にある医師を見出し,介入を行うことが重要になってくる.


Neurology 興味を持った「脳神経内科」論文『医師のバーンアウト対策に必要な視点とは

 

また、「純粋な利他性」を有する看護師は、ほかの看護師と比較して、睡眠薬や精神安定剤、抗うつ剤を常用している可能性が高いこともわかりました。

 

 

 

◆思いを込めるのもほどほどに

看護師といった職業を目指す人は、人のためになにかをしてあげたいという心優しい人が多いのだと思いますし、統計的にもそういう傾向があることがわかりました。

 

そういう気持ちは大切であると思いますし、そういうものが発露したのが「患者さんを家族と思え」といった言葉なのかもしれません(逆に冷たすぎてそういう指導がなされている可能性もありますが……)。

 

しかし、それがいき過ぎて、自身が燃えつき症候群になってしまったり、薬を常用しないとやっていけないといったことになってしまうのは、ちょっと辛いですよね。

 

患者さんに心を配って、よりより看護(医療)を提供しようとするのはすばらしいことですが、もうすこし気楽に構えてみるのもいいかもしれません。また、役職に就いている人ならば、部下がそういう状況におちいっていないかマネジメントすることも大切でしょう。

 

緒方洪庵が言っていたように、あまりに思い入れが強くなると、過剰な医療といった不利益な医療になる可能性もあります。中立的・冷静、もうすこし荒っぽくいえば、ちょっとクールな医療でもいいんじゃないでしょうか。

 

そんなことを思いますね。

 

【資料】

(1)Andreoni J.Giving with Impure Altruism: Applications to Charity and Ricardian Equivalence.Journal of Political Economy 1989,97(6):1447-1458.

(2)Andreoni J.Impure Altruism and Donations to Public Goods: A Theory of Warm-Glow Giving.The Economic Journal 1990,100(401):464-477.

(3)佐々木 周作若野 綾子平井 啓大竹 文雄.看護師の利他性と燃え尽き症候群:プログレス・レポート.行動経済学 第10回大会プロシーディングス,2016,9:91-94.

(4)医療現場の行動経済学、大竹文雄・平井啓、東洋経済新報社、2018

(5)現代語訳福翁自伝、福沢諭吉/齋藤孝編訳、ちくま新書、2011

 

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