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◆人間は怖い?「マッサージしないから訴える」
Twitterで知り合った作業療法士さんが、こんなことをつぶやいていました。
前日会った後輩が訪問で「マッサージ」とかしないからっていう理由で訴えらました泣
— 彷徨うOT (@OT38802828) July 17, 2017
訪問リハビリで、マッサージがなされなかったので、セラピストを訴えるみたいなことになりかけたそうなのです。
もちろん、セラピスト側に介入方法にも問題があったのかもしれません。しかし、ひとりに起こることは、誰しもに起こり得る可能性があります。
そもそも、いわゆる善良的な人だけがリハビリの対象になるということはありえません。人間というのは、優しい生き物でもあり、反面おそろしい生き物でもあります。
むかし、整形の医師に「この世でいちばん怖いものってなんですか?」と訊いたことがありました。医師はすこし悩んで、「人間かな」と言っていました。
人間は、みんながみんな優しいなんてことはあり得ません。優しい仮面をかぶった人もいますから。
◆仕事はつじつまが合えばいい
「怖い人」に負かされないためには、理論武装する必要があります。
そのために合理的な思考が欠かせません。
なんやかんや言っても、理路(物ごとのスジ道)が整然としていれば、臆することはありません。
つまり、つじつまが合えばいいんです。
日本マイクロソフト元社長である成毛眞さんは、著書『このムダな努力をやめなさい』で以下のように述べています。
サボるのはいけないと目くじらを立てる人もいるが、私は最終的に”つじつまが合う”なら問題ないと思う。
極論するならば、いかにサボるかがサラリーマンの命題であり、いかにサボらせないかが会社の命題である。
やや趣旨は異なるかもしれませんが、つじつまを合わせることは大切だと思います。あとを読めばわかりますが、論理のどこかに、仕事のどこかにつじつまが合わない所がでてきたとき、そこが非常に危ないのです。
つじつまを合わせられないということは、合理的な説明ができないのと同じだと思うのです。
◆法律は道具、知らなきゃ使えない
あとは法律知識です。日本は法治国家ですから、法律を知っているほうがいいのは、自明です。
仕事場でも法律知識はあったほうがいいでしょう。知らないがゆえに、搾取され、奴隷になってしまうのです。法律をもちだせば、会社はなにも言えません。
しかし、知らないことは使えませんよね。
弁護士の外岡潤さんは『社会人に贈る護身術としての法律講座』で、こう述べています(改行・下線は筆者による)。
法律は自動的に発動し自分を守ってくれるものではない。
だから「法律を盾に主張できない=無知(あくまで法律に関してだが)」な若者が集中的に搾取され、その結果、社会現象として「ブラックバイト」といった呼称が誕生するに至るのである。
そこがポイントだ。法律は平等でも公平でもない。使った者勝ちだ。「天は自らを助くる者を助く」を地でいく存在であり、それ自体としては道具でしかない。
法律は使ってこそ意味があります。
でも、知らないものは使えません。今回は、リハビリの訴訟で関わってきそうなものを、簡単にまとめてみました。
ちなみに法律関係の本は難解なものが多いですが、さきほど引用した本書は、会話形式で非常に読みやすいです。ぜひ、読んでみてください。
◆リハビリ事故の責任
まずは、責任というものを法的にまとめていきたいと思います。
断っておきますが、わたしは法律の専門家でもなんでもないので、書籍などをもとに書いていますが、誤っていることも考えられます。参考程度にしてもらえればと思います。
(1)非法的責任
非法的責任には、「共感的責任」と「道義的責任」があります。
非法的責任というのは、損害賠償や懲役刑などの制裁がない範囲の責任のことです。
①共感的責任
道義的責任とまではいきませんが、共感するまでの責任のことです。たとえば、あなたがスーパーで働いていたとします。そこに電話がかかってきました。
共感的責任とは、このように不快な思いをしたことへの共感なんですね。
なぜ、共感なのかというと、事実関係が不明だからです。もしかしたら、虫が入っていたというのがデマの可能性もあります。
ゆえに、まずは共感的な責任が先にきます。
②道義的責任
共感的責任がすすんだものが、道義的責任です。
「道義的」というのは、「道徳上」とか「人として」といった意味です。
さきほどの例でいえば、本当にこちらのミスで虫が入っていたとします。そういうときに、法律うんぬんではなくて、損害を与えてしまったことに申し訳なく思い、謝罪しますよね。それが道義的責任です。
これは世間一般によく見られますよね。友達から借りたものを失くしてしまって、「ごめんよ」というのは道義的責任です。しかし、ここから「お金を返せ」や「窃盗だ」となると、法的責任が生じてきます。
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(2)法的責任
法的責任には、民事的責任と刑事的責任があります。さきに刑事的責任から説明します。
①刑事的責任
刑事的責任とは、国家刑罰権にもとづく刑事罰(懲役・禁固・罰金など)の制裁を受けなければならない責任のことです。つまり、犯罪者(前科もち)になるということです。
医療者に落ち度がない場合、不可抗力の場合には、刑事責任を負うことはありません。
1.業務上過失致死傷罪
リハビリのときにもっとも問題になるのが、過失(不注意)によって、患者さんなどにケガを負わせたり、死亡に至らしめてしまう場合に成立する業務上過失致死傷罪です。
〇刑法
第211条(業務上過失致死傷等)
①業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
2.傷害罪
傷害罪も問題になるかもしれませんね。とくに介護などでは、ときおり事件としてニュースになっています。
傷害罪とは、過失(不注意)によってではなく、故意(わざと)に暴力行為をおこない、患者さんにケガさせた場合に成立します。
〇刑法
第204条(傷害)
①人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
②民事的責任
リハビリ事故でもっとも問題になるのは、民事上の責任です。これは損害賠償の責任ということですね。
損害賠償を定めている規定で、よく使われるものは不法行為と債務不履行です。
民事訴訟のときは、不法行為と債務不履行は、どちらか一方ということではなく、どちらも同時に主張することができます。
1.不法行為
不法行為というのは、契約関係になくても損害を生じた場合の補償を規定したものです。
〇民法
第709条(不法行為責任)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を、賠償する責任を負う。
この場合、とくに過失の有無が焦点となります。過失(不注意)以外のことも責任が問えるようになったら、多くの行動に制限がかかるためです。
不法行為が成立するための「過失」とは、「注意義務に違反した」ことが認められるということです。
注意義務には、予見可能性・予見義務(事故が起きそうなことを予見できたか?)、結果回避可能性・結果回避義務(事故を回避することができたか?)があります。
たとえば、リハビリで歩行訓練をするときに、明らかに転びそうな人を独歩させて転ばせたら、注意義務違反の可能性が高くなりますよね。
2.債務不履行
債務不履行というのは、契約上サービスを提供する側が負う義務(債務)を、十分果たせないために、相手に損害を与えてしまった場合の責任の規定です。
〇民法
第415条(債務不履行責任)
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
リハビリのときの、もっとも問題となる債務者(サービス提供者)の義務は、安全配慮義務です。
つまり、理学療法士であれば、患者さんに理学療法をおこなう義務と、それを安全におこなう義務があるのです。それは身体の安全だけではなく、生命・財産・利益侵害といったものも含まれています。
注意するべきは、安全配慮義務は、安全な結果を保証する義務ではないということです。悪い結果が生じたからといって、すぐさま安全配慮義務違反になるということでありません。
その悪い結果が、リハビリ担当者に求められている注意義務に違反していた場合、安全に配慮する義務を怠ったとして、法的責任が生じます。
たとえば、患者さんが転倒したしたらすべてがセラピストのせいになるわけではないですよね。
そこに、目を離していたとか、適切な介助をしていなかったなどの、セラピストの過失(不注意)があるときに、法的責任が生じるということです。
しかし、債権債務関係(サービスを受けとる側とサービスを提供する側)は、患者と組織(事業者・病院など)になりますので、債務不履行の責任は組織になります。
よって、セラピスト自身が責任を負うことはありません。
3.不法行為と債務不履行の違い
セラピスト個人レベルでは、不法行為と債務不履行の違いまでは知らなくてもいいかもしれません。
簡単にまとめるといかのようになります。
不法行為と債務不履行のもっとも大きな違いは、過失の立証責任の所在といわれています。
不法行為の場合は、被害者自身に立証責任があります。つまり、被害者が加害者の過失(不注意や落ち度)をあきらかにしないと、損害賠償を請求できないということです。
たいして、債務不履行の場合は、債務者(加害者)自身が、責めを負うことはないことを明らかにする必要があります。
→後編『リハビリ事故の事例・判例から対策を考える』につづきます。
【資料】
(1)新社会人に贈る護身術としての法律講座、外岡潤、KKベストブック、2016
(2)リハビリ事故における注意義務と責任、古笛恵子、新日本法規、2012
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