◆帰ってきたヒトラー あらすじ
※音が出ますのでご注意ください。
映画『帰ってきたヒトラー』は2015年に放映されました(日本では2016年)。あらすじをWikipediaから引用します(ネタバレがあるので知りたくな人は飛ばしてください)。
2014年のベルリンに蘇ったヒトラーは、疲労で倒れ込んだところをキオスクの主人に助けられ、そのままキオスクに居候することになった。同じ頃、テレビ会社「My TV」をクビになったザヴァツキは、撮影した映像にヒトラーそっくりの男が映り込んでいるのを発見し、テレビ会社に復職するための自主動画を撮影するためヒトラーと共にドイツ中を旅する。
ザヴァツキは撮影した動画を手土産にテレビ会社に復職し、ヒトラーはトーク番組「クラス・アルター」へのゲスト出演が決定した。ヒトラーの政治トークは視聴者の人気を集め、一躍人気者となる。
しかし、ドイツ人にとってタブーである「ヒトラーネタ」で視聴率を集める局長のベリーニに反発するスタッフが現れ始め、中でも局長の地位を狙う副局長のゼンゼンブリンクはベリーニを失脚させるため、ヒトラーのスキャンダルを探していた。
ゼンゼンブリンクはヒトラーがザヴァツキとの旅の途中で犬を射殺していたことを知り、トーク番組でその映像を公開させる。視聴者からの批判を受けたヒトラーは番組を降板させられ、彼を重用したベリーニもテレビ会社をクビになる。
ザヴァツキの家に居候することになったヒトラーは、自身の復活談を描いた『帰ってきたヒトラー』を出版する。『帰ってきたヒトラー』はベストセラーとなり、ザヴァツキとベリーニは映画化を企画する。
一方、ヒトラーが降板した「クラス・アルター」は視聴率が低迷し打ち切りが決まり、新局長となったゼンゼンブリンクは番組を立て直すため映画製作への協力を申し出る。映画製作が進む中、監督となったザヴァツキは恋人のクレマイヤーの家にヒトラーと共に招待されるが、ユダヤ人であるクレマイヤーの祖母がヒトラーを拒絶する。
クレマイヤーがユダヤ人だと知った時のヒトラーの反応を見たザヴァツキは疑念を抱き、ヒトラーが最初に現れた場所が総統地下壕跡地だったことに気付き、ヒトラーがモノマネ芸人ではなく本物の「アドルフ・ヒトラー」だと確信する。
ザヴァツキはベリーニに真実を伝えるが相手にされず、取り乱した様子から「精神を病んだ」と判断されたザヴァツキは精神病棟に隔離されてしまう。映画がクランクアップした頃、ヒトラーは自身を支持する若者を集めて新しい親衛隊を組織し、再び野望の実現のために動き出す。
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◆反戦映画でありナショナリズム化を批判
以前から私はこの映画を見たかったのですが、ちょうどラッキーなことにdTVで無料で見られるようになっていたので観てみました(ウォーキングデッドや名探偵コナンとか見放題になってるので好きな人は登録してみるといいですよ※2018/4/10現在)。
映画は非常によかったです。集中して見れましたし、中だるみもなかったように思います。まずヒトラーが似てるんですよね。YouTubeなどでヒトラーの演説が聞けますが、これを見てから映画を見ると似てるのがよくわかると思います。これを吹き替えで観てしまうのはもったいないと思いますね。
※音が出ますのでご注意ください
Eine Rede von Adolf Hitler (アドルフ・ヒトラー氏の演説)
また、この映画は完全に映画の部分とドキュメンタリーの部分が入り混じってるんですよね。だから観ていてこれは映画なのかドキュメンタリーなのかよくわからなくなるんですが、それがまた妙にリアリティを醸成して引き込まれました。
さて、私としてはこの映画はナショナリズム化していく国際情勢を批判する反戦映画だととらえました。反戦映画というとやや言葉が不適かもしれません。もっと簡単にいうと、国際協調が大切なんだよということですかね。
アメリカのトランプ大統領がアメリカファーストを掲げていますが、そういうナショナリズム化が世界中で起きてるんですよね。日本は島国なので実感がないかもしれませんが、ヨーロッパなどは地続きなわけで、どんどん移民・難民が押し寄せて大きな政治問題になっているとのこと。
アメリカでもそういう移民難民が増えて仕事がなくなったという人がトランプ大統領を支持したわけです。そういったナショナリズム化の潮流を批判しているのがこの映画だと思うんですよね(注:映画自体はトランプ大統領誕生前に製作されてます)。
◆差別は頭が悪いから起こる?
イギリスの2つの大規模データ(約15000人)を解析したところ、知性(頭の良さ)が低いと差別主義者になりやすいよということが示唆されました(1)。つまり、差別主義者は頭が悪いということですね。
なんでこんな話をしたかというと、ヒトラー(差別心)は誰しもの心のなかにあり、それを防ぐのは知性だと思ったからです。映画の終局ではザヴァツキに「怪物め」と責められ、それに応える以下のようなヒトラーの発言があります。
私が?なら怪物を選んだ者たちを責めるんだな。選んだ者たちは普通の人間だ。優れた人物を選んで、国の命運を託したのさ。どうする?選挙を禁止するか?なぜ人々が私に従うのか考えたことはあるか?彼らの本質は私と同じだ。価値観も同じ。私は人々の一部なのだ。
この言葉は非常に重いと思います。ヒトラーというのは突然変異から生まれたわけでも、遠くからやってきた宇宙人でもないわけです。
◆福沢諭吉の一身独立して一国独立する
福沢諭吉は「一身独立して一国独立する」ということを説きました。簡単にいえば、国民ひとりひとりが学問に励み、広く知識を有し、社会的役割にふさわしい人間性を備えることができてこそ、国家は真に独立することができるということですね。
これは現代の政治でも同じようにいえると思うわけです。政治家の質が低いとよくいわれますが、それを選んだのは私たち国民自身です。
かかる愚民を支配するにはとても道理をもって諭(さと)すべき方便なければ、ただ威をもって畏(おど)すのみ。西洋の諺(ことわざ)に「愚民の上に苛(から)き政府あり」とはこのことなり。
こは政府の苛きにあらず、愚民のみずから招く災なり。愚民の上に苛き政府あれば、良民の上には良き政府あるの理なり。ゆえに今わが日本国においてもこの人民ありてこの政治あるなり。
『学問のすすめ』
政治家のレベルは国民のレベルなんです。国民が知性を磨くことで、政治家の質も向上するんです。ヒトラーのような独裁者を出さないためには、国民の知性が必須なんです。
そんなの今の時代に心配しなくても大丈夫だよと思っている人もいるかもしれませんが、映画では家族を虐殺されたクレマイヤーという高齢のユダヤ人女性がヒトラーに向かってこう言い放つシーンがあります。
あんたが私の家族をガス室で殺したんだ。昔と同じだね。同じことを言ってる。みんな最初は笑ってた。だまされないよ。忘れてない。出ていけ。出てけ!この極悪人め。
◆さいごに
誰しもの心の中にヒトラー(差別心や独裁心)はいます。そういう心があること自体を非難してはいけないと思います。それは心の自由を制約してしまうものです。
けれど、それを心の中にとどめることができず、体現してしまうのはよろしくないと思います。それを思うがままに体現していては、諍(いさか)いは絶えませんから。
ナショナリズム化が進んでいく今、しっかりと知性を涵養し、再び惨劇を起こさぬように国民ひとりひとりが学びつづけることが大切なのではないかなとこの映画を観て思いました。
【資料】
(1)Bright minds and dark attitudes: lower cognitive ability predicts greater prejudice through right-wing ideology and low intergroup contact.[PMID:22222219]
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