忙しい人のための要約
    フィードバック+褒めることで、脳卒中患者の歩行速度がより改善したという報告がある。状況に応じて褒めるという行為を実践してみるとよいかもしれない。

     

     

    ◆褒めると歩行速度がより改善した

    2010年、日本をふくめた国際的な研究が報告されました。『International randomized clinical trial, stroke inpatient rehabilitation with reinforcement of walking speed (SIRROWS), improves outcomes.』というものです。

     

    この報告では、具体的なフィードバックと褒める(励ます)ことが、歩行速度などに影響を与えるのかどうか?ということについて調べています。

     

    対象者は脳卒中患者179名で、介入群(daily reinforcement of speed:DRS)と対照群(no reinforcement of speed:NRS)にランダムに分けられました。

     

    方法について、以下のように記載されています。

    The experimental group received feedback about walking speed (daily reinforcement of speed, DRS) after each day’s 10-m walk. (中略)

    For example, “Very good! You walked that in (number of) seconds.” Then, (a) “This is better by (number of) seconds” or (b) “This shows you are holding your own” or (c) “I believe that you will soon be able to walk a bit faster.” The control group was not timed during its daily 10-m walk and received no information about walking speed (no reinforcement of speed, NRS).

     

    意訳しますと以下のような感じでしょうか。

    介入群(DRS)は、毎日10mの歩行後に歩行速度についてのフィードバックを受けた。(中略)

    たとえば、「とてもよかったですよ!。〇〇秒で歩けてましたよ」と述べたあとに、「○○秒速くなってますね」、「とてもいい感じに歩けてましたよ(訳がよくわかりませんでした笑)」、「あなたはもっと速く歩けるようになりますよ」。一方、対照群は、歩行速度は計測せず、歩行速度に関するフィードバックをしませんでした。

     

    介入前は、歩行速度は介入群 0.45 m/秒、対象群 0.46m/秒で有意差はありませんでしたが、退院時の結果は以下のようになりました(エラーバーは95%信頼区間をあらわす)。

     

    資料(1)より作成

     

    詳しくは以下のようになっています。

    ・介入群:0.45±0.37m/s → 0.91±0.57 m/s

    ・対照群:0.46±0.34 m/s → 0.72±0.44m/s

     

    すごく簡単にまとめると、褒める+フィードバックで歩行速度がより改善したということですね。

     

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    ◆子どもも褒め方で成績が変わる

    教育経済学を専門としている中室牧子さんは、著書『「学力」の経済学』のなかで、エビデンスの知見から、子どもの褒め方について以下のように述べています(2)。( )などは割愛しています。

     

    ほめ方の違いは、子どもたちの取り組み方にも影響を与えました。

    「頭がいいのね」ともともとの能力をほめられた子どもは、2回目の難しめのIQテストを受ける際、この試験のゴールは「よい成績を得ること」にあると考え、テストでよい点数が取れなかったときには、成績についてウソをつく傾向が高いことがわかったのです。

    また、彼らは、よい成績が取れたときはその理由を「自分は才能があるからだ」と考えたように、悪い成績を取ったときも「自分は才能がないからだ」と考える傾向があったことがわかっています。

    一方、「よく頑張ったわね」と努力した内容をほめられた子どもたちは、2回目、3回目のテストでも粘り強く、問題を解こうと挑戦を続けました。努力をほめられた子どもたちは、悪い成績を取っても、それは「(能力の問題ではなく)努力が足りないせいだ」と考えたようです。(中略)

    具体的に子どもが達成した内容を挙げることが重要です。そうすることによって、さらなる努力を引き出し、難しいことでも挑戦しようとする子どもに育つというのがこの研究から得られた知見です。

    『「学力」の経済学』P50-51

     

    これは子どもを対象にした研究ですので、成人に効果があるかは不明です。しかし、さきほどの研究では、努力の効果をフィードバックすることで、歩行速度が改善していたので、成人にも通用する可能性はありますね。

     

    以前、リハビリテーションの父と呼ばれるラスク医師について書きました(参照:リハビリテーションの父 ハワード・ラスク博士)。

     

    ラスク医師は著書のなかで、『リハビリテーションは、患者自身が限界と可能性を決めるという医者以上の力を持っている医療の一端です』と述べています。リハビリテーションは、患者のモチベーションが非常に重要なものであることは、臨床を経験されている方なら首肯できるのではないでしょうか?

     

    子どもの場合は、努力を褒めることで、困難に立ちむかう精神、いわば挑戦精神のようなものが身についたとのこと。成人の場合でも、工夫しながら用いてみるのもありかもしれません。

     

     

    ◆褒めることは相手を下に見ている?

    しかしながら、褒めるという行為に違和感を覚える方もいるかもしれませんね。褒めるというのは、相手を下に見ている行為だからです。これは心理学者であるアドラーも言及していました。

     

     

    たとえば、自分の上司が仕事でなにかしらの成功をおさめたときに、「よく頑張りましたね」なんて言いませんよね。

     

    しかし、子どもがテストで100点取ったら「よく頑張ったね」と言います。これは相手を下に見ているか、上に見ているかの違いがあります。対等または上の人に対して、褒めるという行為は変です。褒めるということ自体が、自分より下の人に向けておこなうものだからです。

     

    けれど、大切なのは目標を達成することなんですね。論理療法という心理療法においては、目標達成をさまたげる考え方を、人間の悩みのもとになる考え方(イラショナル・ビリーフ)であるとしています。

     

     

    対象者の身体能力を向上させたいという目標があるのであれば、些末なことにこだわらずに、実践してみるというのもありかもしれません。柔軟に考えて、状況に応じて方法を選択することが大切だと思いますから。

     

    【資料】

    (1)International randomized clinical trial, stroke inpatient rehabilitation with reinforcement of walking speed (SIRROWS), improves outcomes.[PMID:20164411]

    (2)Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance.[PMID:9686450]

     

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