忙しい人のための要約
    語彙力はコミュニケーションの根源です。語彙力をあげる(多くの言葉や適切な表現方法を知る)ことで、伝えたい真意をなるべく誤解のないように伝えることができるようになります。おすすめの本を紹介していますので参照にしてください。

     

     

    ◆語彙(語彙力)とは?

    語彙(ごい)とは、『ある言語、ある地域・分野、ある人、ある作品など、それぞれで使われる単語の総体』(デジタル大辞泉)と定義されています。

     

    齋藤孝さんは、「語彙力」という言葉をつくっています(以下、語彙を含めた意味として語彙力に統一)。要は、どれだけ言葉を知っているか?  言いかえるならば、「どれだけ言葉を知っていて適切に用いられるか力」という感じです。

     

     

    ◆語彙力が低いと真意が伝わらない

    齋藤孝さんは、著書『大人の語彙力大全』のなかで、語彙力の重要性を以下のように述べています。

     

    言葉を知らなければ、伝えたいことを伝えることはできません。伝えたとしても、言葉の使い方が間違っていたら、相手は別の解釈をしてしまいます。(中略)

    語彙力はコミュニケーションの根源でもあるのです。

    大人の語彙力大全』P3-4

     

    もっともな指摘ですよね。たとえば、会社の忘年会。社長があなたに言います。

     

    『きみはホントに如才ないね』

     

    さて、これであなたがもし「如才ない」の意味を知っていれば問題ありませんが(誤解していたらダメですけど)、もし知らなければどうなるでしょうか?褒められているのか、怒られているのかわかりませんよね。困りますね。

     

    もちろん、ノンバーバルコミュニケーションがありますから、雰囲気としてなんとなくわかるとおもいます(表情や身ぶり手ぶりといった言葉以外のコミュニケーションをノンバーバルコミュニケーションという)。

     

    しかし、電話口や文章などでは、ノンバーバルコミュニケーションといった補完的なものが少なくなるので、語彙力がないと困ってしまいます。よって、語彙力を上げておくことは、コミュニケーションや社会生活を円滑におこなっていくうえで欠かせません。

     

    ちなみに如才ないというのは、「気がきいていて、抜かりがない」という意味です。

     

     

    ◆語彙の豊富な人は知的に見える

    ヘンリック・フェキセウスさんは、著書『影響力の心理』で、語彙の豊富さについて以下のように述べています。

     

    語彙の豊富さは、人間関係の豊かさに直結している。語彙が豊かな人はクリエイティブで知的だと見なされ、就職も昇進もしやすく、たいていの場合、人より真面目に話を聞いてもらいやすい。つまり、語彙を増やすほど、人生で得をするのだ。

    『影響力の心理』P66

     

    つまり、ハロー効果ということですね。ハロー効果というのは、「特定の利点や欠点などに目がいき、全体の印象がそれにひきずられてしまう」というものです。語彙を増やすことにより、ハロー効果が生まれ、人生がうまくいきやすくなる可能性がアップするということですね。

     

    ハロー効果を利用して、人生をうまくいくようにしようというのは、ふろむださんの著書『人生は、運よりも実力よりも「勘違いさせる力」で決まっている』でも、提言していたように思います。

     

     

     

    ◆語彙力を上げる方法

    この項では、語彙力をあげる方法について書いていこうとおもいます。

     

    (1)文章を書く

    1.ダラダラ書くな、意識して書く

    島田紳助さんが大阪NSCで講義したときに、野球選手の素振りを例にとって、意識の重要性について以下のように述べています(YouTubeなどにアップされているので見てみてください)。

     

    意識の問題なんですよ。だから、意味なく500回素振りしたら、腕太なるだけやね。だから掛布さんと同じように虎風荘で毎日500回素振りしよるみんな。でも、みんなしてるくらい一生懸命してる。それな、もう筋トレやねん、そんなもんは。練習にならんの。

    やっぱ意識して500回のうちの、1回1回に自分のイメージして。ピッチャーがおって、そのピッチャーが誰で、何球目でどう放りよんのかっていうイメージをして、意識して1回振るっていうのを500回繰りかえしてる人間と、一生懸命スイングをはようしようと思って振ってんのも筋トレにしか過ぎないんですよね。

     

    つまり、意識しないでダラダラ練習しても効果がない。意識して練習するところに、効果があるということですね。これは、語彙力を高める際にもおなじだと思います。ダラダラなんにも考えずに書いていても、おそらく語彙力はあがりません。

     

    この言葉よりも最適な語句はないか? ほかの言いまわしのほうが理解しやすいか?  もっと端的な文章にならないだろうか? などなど、意識しようと思えば、いくらでも意識できます。この推敲の過程が大切なんです。

     

    かの福沢諭吉は文章を書くにあたり、難解を嫌って平易を好みました。しかし、福沢がそのように平易な言葉を用いることができたのは、漢学といった語彙力が基盤にあったことも大きく寄与していると思います。また、家族に書いた文章を聴かせて、意味がわからないところがないか確認していたともいわれています。

     

    そういう語彙力トレーニングの積み重ねがあったからこそ、『学問のすすめ』はベストセラーになったのでしょう。ちなみに、この本は当時の日本人の10人にひとりが読んだといわれるほど売れました。

     

     

    2.抽象から具体へ変換する

    また、文章を推敲するにあたり、類義語や対義語を調べるもの大切だと思います。

     

    たとえば「嫌う」。これは非常に抽象的な言葉であると思います。「嫌う」には、さまざまな類義語があります。

    ・嫌悪

    ・嫌気

    ・憎悪

    ・蛇蝎(だかつ)

    ・食傷

     

    ほんの一部を挙げてみましたが、これだけでもいろいろな言葉を知ることができます。

     

     

    上図はイメージしやすいように模式的にあらわしたものですが、「嫌い」という抽象的な言葉を具体化することで、より子細に表現できるようになりますね。つまり、より的確に真意を伝えられるようになります。

     

    たとえば以下の文章を比較してみましょう。

    ・AさんはBさんを嫌っている

    ・AさんはBさんを憎悪している

     

    後者のほうがより具体的で、Aさんの心情をより感知することができるのではないでしょうか?

     

     

    3.漢字の選択にも注意する

    「あお」にもいろいろあります。

    ・青

    ・碧

    ・蒼

     

    おなじ「あお」でも、漢字から派生するイメージは違うのではないでしょうか? 『漢字の使い分けときあかし辞典』を見てみると、以下のように書かれています。

     

    一般的には《青》を用いる。生気のない「あお」、厳粛さや不安、神秘性を出したい場合には、《蒼》を使ってもよい。緑がかった「あお」、硬質な輝きや透明感をあらわしたいときには、《碧》を書いてもよい。

    『漢字の使い分けときあかし辞典』P15

     

    たとえば、あなたが男性で、奥さんは出産のために入院していたとしましょう。一晩かかり、朝方になってやっと産声を聴くことができました。

     

    『ホッとして外に出て、煙草を燻らせながら見上げると、蒼い月が微笑むように浮かんでいた』

     

    これが「蒼い月」ではなく「青い月」だと、ちょっとなんかニュアンスが曖昧に感じませんかね?(感じない人もいるかもしれません)。ほかにも例をあげてみましょう。

     

    『彼の傍若無人な振舞いが厭で仕方がない

     

    「厭で仕方がない」と「嫌で仕方がない」。前者のほうが「イヤな加減」がより強く感じられませんか?

     

    ほとんどの場合は《嫌》を用いる。(中略)強い拒絶感を表したい場合には、《厭》を書くこともできる。

    『漢字の使い分けときあかし辞典』P64

     

    今回は「あお」や「いや」を例に取りましたが、「あか」でも赤・朱・紅・赭といろいろありますから、そう考えると漢字ひとつとっても、馬鹿にはできません。たかか漢字、されど漢字。選択する字によって、自分の伝えたいことが変わってくるのです。

     

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    (2)読書をする

    月並みですけども、読書することも語彙力を高めるためには大切な要素であるとおもいます。しかしながら、読書といってもホリエモンさんやキンコン西野さんの本を読んでも、おそらく語彙力はつかないと思います。もちろん、両者の本が役に立たないというわけではなく、語彙力をあげるという目的には合致しないということです。

     

    語彙力をあげるなら、やはり小説がいいのではないでしょうか。実はライトノベルといったものでも、意外に難解な言葉が用いられており、語彙力アップにつながるようなのです。

     

    飯間浩明さんの『小説の言葉尻をとらえてみた』では、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』というライトノベルをとり上げて、以下のように分析をおこなっています。

     

    「一瞥・いぶかしい・おもんぱかる・刮目・忌憚・矜持・喧々囂々・最奥・自嘲・深淵・ためつすがめつ・躊躇・轍を踏む・恫喝・慟哭・投擲・憑依……」こうして見ると、若者向けの物語とは言いながら、かなり難しい語がでてきますね。

    全体として、「日本語能力試験」の最上級より難しい語は、約八十語ありました。『船を編む』の約三分の一です(作品全体の分量は、今回の物語が約十三万五千字、『舟を編む』が約十五万字)。

    この調査もまたざっとしたものですが、『舟を編む』を読んだときと同等以上の語彙量を得るには、この兄妹の物語を第三巻まで味わえばいい、と言えるでしょう。

    小説の言葉尻をとらえてみた』P162-163

     

    また、漫画もバカにはできません。同書では『ちはやふる』や『進撃の巨人』を取りあげて、以下のように分析しています。

     

    末次由紀『ちはやふる』および諌山創『進撃の巨人』のそれぞれ第一巻を調べたところ、外国人学習者が受験する「日本語能力試験」の最上級にも出てこない難しい語、特殊な語の数は、両作品ともに二十数語ありました。(中略)

    三浦しをん『舟を編む』には、「アイデンティティ・唖然・過酷・苦言・豪放磊落・西行忌・自愛専一・潤沢・嘱託・呻吟……」など、約二百三十語の難語が含まれていました。つまり、「小説一冊を読んだときと同程度の量の難しい語彙と出合うためには、漫画を十冊読めばいい」という結論を得ました。

    小説の言葉尻をとらえてみた』P162

     

    もちろん、この調査はサンプル数が少ないので、信頼度は低いと言わざるを得ません。しかし、固い読書が苦手だなぁという人には、この報告は僥倖ではないでしょうか?(ちなみに「僥倖」はギョウコウと読み、「思いがけない幸い」という意味)。

     

    もちろん、小説以外の新書や学術書でも語彙力を上げることはできると思いますが、本によってレベルが変わってくるので、いろいろな本をなるべく多く読むことが大切ですね。

     

     

    ◆語彙力をあげるためのオススメの本

    最後は語彙力を上げるのに有用な本を挙げておこうとおもいます。個人的にざっくばらんに選択された難解な言葉本はあまり役に立ちにくい、応用がききにくい印象です。

     

    やはり、辞典のほうが体系的にまとめられているので、実践向きで、応用がきくかなとおもいます。※定価が安価なものから紹介。

     

    (1)ことば選び実用辞典/学研

    この本は1000円でお釣りが返ってきますし、内容も非常に充実しています。コストパフォーマンスが非常に高いと思います。ほかの本は2000円以上するので、迷ってる人はこれをひとまず買っておけばいいかなって感じですね。

     

     

    (2)漢字の使い分けときあかし辞典/研究社

    記事のなかでも引用した辞典です。漢字の使い分けで迷ったときは、この本があれば大半はなんとかなると思います。たとえば「しずか」。漢字にすると静・閑・徐・寂などがありますが、どうやって使い分けますか?ほかにも「ひげ」。髯・鬚・髭とありますが、どう違うのでしょうか?気になるかたは、買ってみてはどうでしょうか。

     

     

    (3)慣例慣用句辞典/創拓社

    慣用句が五十音順だけではなく、①感覚・感情を表す慣用句、②からだ・性格・態度を表す慣用句、③行為・動作・行動を表す慣用句、④状態・程度・価値を表す慣用句、⑤社会・文化・生活を表す慣用句とわかれていて、非常に便利です。

     

     

    (4)てにをは辞典/三省堂

    これもすごい本です。各ジャンルの小説をはじめ、新聞や雑誌などから結合語を採集し、それを辞典にしたものです。たとえば「底抜け」。意味はわかるけど、底抜けという言葉をどうやって文章で使えばいいのかな?と思った時に、この辞典を開くと例文が書かれているわけです。底抜けに明るい、底抜けに朗らか、底抜けの愛情、底抜けの静寂……といった感じです。

     

     

    (5)大辞林/三省堂

    わたしがもっているのが大辞林なので大辞林を紹介しましたが、べつに広辞苑などでもいいです(あんまりこだわりがないので)。東進の林修さんは、広辞林をなんども通読したと言っていました。パラパラと見ているだけでも、こんな日本語あったんだぁと驚きの連続です。なんども通読するのは難しいでしょうが、一家に一冊置いておき、ときどきパラパラめくってみてもいいのではないでしょうか。

     

     

    ◆言語半信のすすめ~言葉の力を盲信してはいけない~

    ここまで語彙力の重要性や習得方法などを書いてきましたが、言葉の力というのは有限で、その効力が絶対的であるなどと盲信しないほうがよいでしょう。

     

    本記事では、言葉の効力を少しでも向上させるために書いていますが、言葉を完璧に使いこなせば、物事を完璧に伝えられるなんて思ってしまうとよろしくありません。

     

    佐藤信夫は著書『レトリック感覚』のなかで、言葉への向き合いかたについて以下のように述べています。

     

    ことばの忠実な表現力=伝達力を信じすぎている素朴な、あるいは思い上がった人々がいかに容易にうそつきになるか。言語盲信とその裏がえしの言語不信は、実際上がかなり近いところにある現象で、本当は自覚的な言語「半信」こそ、もっとも健全な姿勢であろう。

    『レトリック感覚』P59

     

    言語半信。こういう内省的な気持ちのうえに、よりよいコミュニケーションが創成されるのではないでしょうか。

     

     

    【資料】

    (1)大人の語彙力大全、齋藤孝、中経の文庫、2018

    (2)影響力の心理、ヘンリック・フェキセウス(樋口武志 訳)、大和書房、2016

    (3)小説の言葉尻をとらえてみた、飯間浩明、光文社新書、2017

    (4)レトリック感覚、佐藤信夫、講談社学術文庫、1992

     

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