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    忙しい人のための要約
    エビデンス(論文)は、再現性がないことや不正(改変・改ざん)などが指摘されており、非常に脆弱な面があることがわかっています。そういうことを意識しながら、現場で活かしていくことが大切でしょう。

     

     

    ◆エビデンス(論文)を盲信してはいけない

    EBM(根拠にもとづく医療)がいわれるようになり、エビデンス(論文)の重要性が高まっているのは言うまでもありません。

     

    しかし、そのエビデンスそのものが、不正や捏造、研究自体の不備などによって、信頼に足るものではないのではないか?と多くの研究や調査から指摘されています。

     

     

    ◆再現性の危機~ネイチャーの調査から~

    科学とはなんぞや?と問われると、多くの哲学者や科学者たちがいろいろなことを提唱しており、なかなか簡単にこれですとは言えません。

     

    しかし、一般的に科学においては、再現性が重要であるという認識があるかと思います。再現性というのは、所定の条件や手順のもとでは、おなじ事象がくりかえし起こったり、観察されたりすることです。

     

    けれど、その再現性が危機に瀕していると、科学者たちが警鐘を鳴らしています。

     

    研究者1576人を対象にして、ネイチャーがおこなったアンケートによると、科学論文の再現性は危機的な状況にあると答えた人が90%もいました(1)。

     

    また、同様のアンケートを分析した結果、70%以上がほかの科学者の実験結果を再現しようとして失敗した経験があり、自身の実験結果の再現に失敗した経験がある研究者も、半数以上いることがわかりました。

     

     

    ◆問題のある論文でも半数が採択された

    Bohannonの興味ぶかい報告があります(2)。

     

    彼は、わざと不備のある薬の論文を、架空の著者名・所属をもちいて、オープンアクセスジャーナル304誌に提出しました。この論文の不備は、高校生レベルの化学に関する知識があれば気づけるとのこと。

     

    ちなみに、オープンアクセスジャーナル(open access journal)というのは、論文著者が掲載料を支払うというものです。通常のジャーナルよりも、採択率が高いというメリットがあるとされています。

     

    さて、一般的に考えれば、これらの論文はリジェクト(掲載不可・却下)されるはずです。

     

    しかし、実際はジャーナルの半数以上(157誌)がこの論文を受けいれ、その不備(致命的な欠陥)に気づきませんでした。

     

    採択されやすいとはいえ、明らかに不備のある論文が半数以上も受けいれられるというのは、やや驚きですね。

     

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    ◆不正をしている研究者たちは多い?

    2009年にでた、非常にこわいシステマティックレビュー(メタアナリシス)があります(3)。

     

    この研究では、「捏造」「改ざん」「研究不正」などのキーワードから約3000ほどの論文をピックアップし、そこからさらに21まで絞りこみ、研究者の不正行為について分析をおこなっています。

     

    結果は、研究者の約2%(1.97%:95%CI0.86–4.45)が、自分で不正(データや結果の改変・改ざんを少なくとも1回)をしたことがあるとしています。

     

    また、約14%(14.12%:CI9.91–19.72)の研究者が、同僚の不正(改ざん)を見たことがあるとしています。

     

    これは、不正のなかでも氷山の一角だと思われます。もっと多くの不正がおこなわれている可能性はおおいにありえますし、おそらくそうでしょう。

     

     

    ◆メタアナリシスもお金により結論が変わる

    メタアナリシスというのは、エビデンスのなかでももっとも信頼性が高いものであるといわれています(参照:理学療法士の70.1%がガイドラインを使ってないという事実

     

    つまり、非常に影響力がおおきく、これらの報告をもとにガイドラインなどもつくられたりするわけですね。

     

    しかし、そのメタアナリシスも、お金によって結果が変わるという報告があります(4)。

     

    これは、20のメタアナリシスの結論部分を読んでもらい、甘味飲料摂取と体重増加が関係あるのか?について、両者に関連があるかないかを5点満点で評価してもらいました。評価するのは、分野に精通した専門家と大学院生の11名です。そして、その評価された点数を、研究費の出どころ別にわけて分析しました。

     

    結果は以下のようになりました。

     

    資料(4)より引用改編

     

    研究費の出どころが企業以外の場合は、平均3.39点であり、両者(甘味飲料摂取と体重増加)には因果関係がありそうであると判断されました。一方、研究費の出どころが企業からの場合は、平均1.78点となり、両者には因果関係がなさそうであると判断されました。

     

    つまり、企業の立場としては、甘味量で体重増加という結論は売り上げに影響がでてしまうので、避けたいところです。それを研究者が忖度して、論文を作成したのではないか?ということですね。いわゆる利益相反というやつです。

     

    これとほぼおなじような結果になった報告が、ほかにもあります(5)。この報告では、企業からの資金提供があると研究の8割が甘味料と体重増加に関連なしと結論し、企業からの資金提供がないと研究の8割が関連があると結論していました。

     

     

    ◆不正する科学者は真の科学者ではない

    医師である岩田健太郎さんは、著書『食べ物のことはからだに訊け!』のなかで、以下のように述べています。

     

    サイエンスとはラテン語のスキエンス、「知ること」が語源ですから、知りたい、本当のことを知りたい、今分かっていないことを知りたい、という希求が真のサイエンティストをつくるのです。(中略)

    本当はどうなのか「知りたい」と思っていれば、データの捏造なんてできるはずがないのです! 近年科学の世界ではデータの捏造がしばしば指摘されていますが、彼らは真の科学的なマインドを全く持っていないのです。

    「真実はどこにあるのか知りたい」という精神を持たず、「真実はどうでもよいから、有名雑誌に載りたい」なのですから。

    食べ物のことはからだに訊け!』P47~48

     

    不正してしまう理由は、個人的な資質もあるかと思いますが、環境や状況などの面もからんできて、一概には断定はできません。

     

    しかし、どういう理由であろうが、ダメなものはダメです。「科学者としての矜持」といっては大げさかもしれませんが、真の科学者でありたいものですね。

     

     

    ◆批判的に吟味し、そして活かしていく

    エビデンスを批判的にみるというのは、EBMの基本中の基本のことです。論文には、いままで述べてきたように、脆弱な面があることを意識することが大切だと思います。

     

    こういう脆弱な面をみて、「じゃあエビデンスなんて意味ないね」と、統計的推論を軽視して、個別事例だけを重視してしまうのもよろしくないと思います。

     

    現に研究者たちは、少しでも研究の状況がよくなるように切磋琢磨しています。また、EBMが医療界にもたらした功績は、歴史を見ればあきらかです。知らない人は、下の本を読んでみてください。

     

    エビデンスの脆弱性を意識しつつ、批判的に吟味しながら、患者さんと情報を共有して意思決定をしていく。そういう基本的なことを、地道に実践していくことが大切なのではないでしょうか。

     

    【資料】

    (1)nature『1,500 scientists lift the lid on reproducibility

    (2)Who’s afraid of peer review?[PMID:24092725]

    (3)How many scientists fabricate and falsify research? A systematic review and meta-analysis of survey data.[PMID:19478950]

    (4)Reviews examining sugar-sweetened beverages and body weight: correlates of their quality and conclusions.[PMID:24572563]

    (5)Financial conflicts of interest and reporting bias regarding the association between sugar-sweetened beverages and weight gain: a systematic review of systematic reviews.[PMID:24391479]

     

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