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ヘルスリテラシーの教育が大切?~人は簡単に変わらない~

忙しい人のための要約
他人を変えようとするな、自分を変えよ。というのはよく言われることですが、非常に理にかなった言葉であるといえます。他人が変わるなどと安易に思うのは傲慢です。ヘルスリテラシーを意識し、自分で自分を変えることが大切なのかもしれません。

 

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目次

◆教育しても知識は増えるが行動は変わらない

先日、『地域・国全体の身体活動を促進する「普及戦略の科学」 』(週刊医学界新聞)という記事を読みました。そのなかに6000人を対象にした、CWC(コミュニティ・ワイド・キャンペーン)についての無作為比較試験が紹介されていました(1)。

 

CWCというのは「多機関の協働によって行われ、広範囲に渡る様々な構成要素を含む介入アプローチ」と定義されていてます(2)。つまり、今回の調査でいえば健康増進のためにいろんなことをしてみようということです(笑)

 

たとえば介入群には以下のようなものが実施されました。

①情報提供(チラシ・ポスターの配布、音声放送など)

②教育機会(祭り、運動イベント、健診、講習会など)

③環境整備(運動指導員などの人的サポートの整備、歩数計の貸し出し、警察と共同した安全反射板の配布など)

 

そして5年間で身体活動(歩行習慣や筋力運動の実施、柔軟運動の実施)に差が出るのかを分析しました。結果は1年後評価、3年後評価では有意な変化はありませんでした。5年後評価で以下のような傾向が見受けられました。

・身体活動実施者の割合が、対象群では-3.0%(95%CI:-7.1~+1.2)、介入群では+1.5%(95%CI:-0.1~+3.8)。

・変化の群間差は+4.5%(95%CI:-0.3~+9.3)で、介入群において身体活動実施者が増加傾向。

 

細かくいうと、歩行実施者の割合は増加傾向(p=0.058)、柔軟運動実施者は有意に増加(p=0.049)、筋力運動実施者の割合は群間差なし(ns)でした。

 

つまり、5年ものあいだ情報提供や教育機会、環境整備といった多面的なアプローチを行ったにもかかわらず、ちょっと身体活動が増加したかもねくらいのレベルということです(主要な分析では統計的に有意差がない)。これは2015年のコクランレビュー(33の論文の解析)でも同様の結論でした(3)。

 

資料(1)より引用改編

 

この実験の面白いところは、気づきと知識が介入群で有意に増加しているということです。しかし、それが行動(身体活動)にまでいっていないということですね(上図)。つまりは「わかっちゃいるけどやめられない(わかっちゃいるけどやれない)」という状態になっているということですね。

 

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◆人間を変えるなんて容易く考えてはいけない

臨床では患者さんの行動を変えることが求められることが多いように思います。「廃用症候群にならないように離床時間を増やす」とか「糖尿病のコントロールのため食事指導を行う」とか。でも、そういう行動変容を起こすことって難しいんだなぁと先ほどの研究を見て思いました。

 

以前、『「相手の身になれ」と言う人ほど、相手の身になったことがない、考えたことがない』ということを吉岡友治さんの言をもとにして指摘しました(→参照『人の気持ちはわからないという謙虚さが大切』)。

 

『どうして患者さんは寝たきりになってるんだ!お前の努力が足りないんじゃないか』みたいに叱る人がいるかもしれませんが、そういう人は行動の変化がいかに難しいことなのかということを真剣に考えたことがないのかもしれません。

 

 

◆洗脳に似てるのかもしれない

『カルト脱出記』などの著者である佐藤典雅さんがテレビでこんなことを言っていました(正確なものではなくうろ覚えです)。

 

「洗脳されている人を他人が解くことはできない。たとえば「洗脳されてるぞ」と洗脳を否定しても洗脳されている当人は「こいつはわかっていない」と反発的になり逆に洗脳を強化してしまう。逆に「その宗教はいいね」などと肯定すればそれはそれで洗脳を強化する方向にいってしまう。つまり、洗脳されている人は自分で洗脳されていることに気づく以外に洗脳を解くすべはない」

 

なんとなく今回の研究に近いものを感じるんですよね。他人が運動しろ!これを食べるな!タバコ吸うな!と言ったところで、本人の健康に対する内的動機がなければあまり成果がないんですよね。

 

かといって本人の気づきや知識を増やしても行動にはむずびつかない。これはなかなかややこしいもんですね。

 

メタ認知(自分を客観視すること)やヘルスリテラシー(健康情報の目利き力→参照『ロバの親子症候群』)などを早期に教育して身に着けさせる、行動経済学的アプローチ、応用行動分析的アプローチを導入(検討)するといった対策などが大切なのかもしれません。

 

 

◆ヘルスリテラシーの効果と低い日本

ヘルスリテラシーが行動変容に関わっている可能性はあります。日本医療政策機構が女性2000名(18歳~49歳)を対象に実施した調査では、以下のようなことがわかりました(4)。

・女性に関するヘルスリテラシーの高さが、仕事のパフォーマンスの高さに関連

・女性に関するヘルスリテラシーの高さが、望んだ時期に妊娠することや不妊治療の機会を失することがなかったことに関連

・女性に関するヘルスリテラシーの高い人は、女性特有の症状があった時に対処できる割合が高い

 

ほかにもヘルスリテラシーの報告はあります。いくつか紹介します。

・AHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality)の報告によれば、ヘルスリテラシーが低いのは医療の質の低下、健康状態の悪化、救急搬送率・入院率・長期入院率の上昇、予防サービスの低下に関連している(5)。

・52歳以上の7858名(イギリス人)を5年間追跡したコホート研究によれば、ヘルスリテラシーが低い人は高い人と比較して死亡リスクが1.4倍であった(6)。

・システマティックレビュー(111個の論文解析)によれば、ヘルスリテラシーの低さは健康状態の悪化と死亡率の上昇に関連している(7)。

 

さてヘルスリテラシーが大切なことはわかりましたが、日本人はどれほどのヘルスリテラシーを持っているのでしょうか?ヘルスリテラシーを調査した報告があります。

 

資料(8)参照作成:原典(9)(10)

 

上のグラフをみればわかるように日本は外国と比較するとヘルスリテラシーが低いことがわかります(9・10)。ちなみに50点満点です。これは日本の教育体制や国民資質なども関係しているのかもしれません。わたしとしては話題になった道徳教育よりもこういった現実的な教育を増やしていくほうが優先順位が高いように思いますが、みなさんはどう思われますでしょうか?

 

最後になりますが、よく自己啓発などでは他人を変えようとするな、自分を変えよということがいわれます。これは理にかなったことなのかもしれません。他人はそう簡単に変わらない。自分で自分を変えるしかない、、、のかもですね。

 

【資料】

(1)A community-wide campaign to promote physical activity in middle-aged and elderly people: a cluster randomized controlled trial.[PMID:23570536]

(2)The effectiveness of interventions to increase physical activity. A systematic review.[PMID:11985936]

(3)Community wide interventions for increasing physical activity.[PMID:25556970]

(4)日本医療政策機構「働く女性の健康増進に関する調査2018(最終報告)」(→PDFをダウンロード

(5)The health illiteracy problem in the USA.[PMID:20109814]

(6)Association between low functional health literacy and mortality in older adults: longitudinal cohort study.[PMID:22422872]

(7)Low health literacy and health outcomes: an updated systematic review.[PMID:21768583]

(8)健康を決める力「日本人のヘルスリテラシーは低い

(9)Comprehensive health literacy in Japan is lower than in Europe: a validated Japanese-language assessment of health literacy.[PMID:26001385]

(10)Measuring health literacy in Asia: Validation of the HLS-EU-Q47 survey tool in six Asian countries.[PMID:28142016]

(11)科学研究費助成事業『身体活動推進のためのポピュレーション・アプローチ:地域無作為化試験』

 

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