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    忙しい人のための要約
    退院するときに、歩行(歩数や活動量)を指導することがあります。歩数の目安として、下肢筋の廃用性萎縮を予防する4000歩が目安になります。また、健康を維持するための運動強度(中等度~高度)といったものも、対象者にあわせて指導することが大切でしょう。

     

     

    ◆プロローグ

    おばあちゃん
    リハビリお世話になりました。
    SGM
    帰っても、体力を落とさないようにしてくださいね。
    おばあちゃん
    SGMさん、健康のためにはどのくらい歩いたらいいんかな?
    花子
    なるべく歩いたらいいんだよ、おばあちゃん。
    おばあちゃん
    それだとよくわからんねぇ……
    SGM
    だいたいの目安がありますよ。それは、本編で。

     

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    ◆リハビリテーションの退院時指導

    リハビリテーションを受けていた患者さんが退院されるときに、退院時指導を行うことがあります。これは診療報酬でも決まっている大切なものです。

     

    【退院時リハビリテーション指導料(300点)】

    患者の退院時に当該患者又はその家族等に対して、退院後の在宅での基本的動作能力若しくは応用的動作能力又は社会的適応能力の回復を図るための訓練等について必要な指導を行った場合に算定する。

     

    リハビリテーションの観点から、退院後の療養上必要と考えられる指導をおこなった場合」に算定します。

     

    指導内容は、「患者の運動機能及び日常生活動作能力の維持及び向上を目的として行う体位変換、起座又は離床訓練、起立訓練、食事訓練、排泄訓練、生活適応訓練、基本的対人関係訓練、家屋の適切な改造、患者の介助方法、患者の居住する地域において利用可能な在宅保健福祉サービスに関する情報提供等に関する」ものとされています。

     

    この退院時指導のときに、患者さんから「帰ったらどのくらい歩けばいいのか?」といったことを訊かれることもあると思います。

     

    無理しない程度にね」とか「できる範囲で動きましょう」とか、あいまいな指導をしている人もいるのではないでしょうか?

     

    でも、それって専門職としてやや物足りない感じがします。患者さんもよくわからないですよね。そもそも、それくらいの指導なら素人でもできます。

     

    そんなこともあって、すこし調べてみることにしました。

     

     

    ◆健康日本21(厚生労働省)が推奨する歩行数

    厚生労働省がさだめる健康日本21では、歩数について以下のような記載があります(文献・注などは省略、改行は筆者による)。

     

    日常生活において身体活動量を増やす具体的な手段は、歩行を中心とした身体活動を増加させるように心掛けることである。

    (中略)

    身体活動量と死亡率などとの関連をみた疫学的研究の結果からは、「1日1万歩」の歩数を確保することが理想と考えられる。日本人の歩数の現状では、1日平均で、男性8,202歩、女性7,282歩であり、1日1万歩以上歩いている者は男性29.2%、女性21.8%である(平成9年度国民栄養調査)。

    最近10年間の歩数の増加傾向を考慮して、当面10年間の目標として、男女とも歩数の1,000歩増加を目指し、1日平均歩数を男性9,200歩、女性8,300歩程度を目標とする。

    1,000歩は約10分の歩行で得られる歩数であり、距離としては600~700mに相当する。

     

    厚生労働省によれば、男性で9200歩・女性8300歩が目標とされています。

     

     

    ◆4000歩で廃用性筋萎縮を予防できる

    田中らの健常中高年者18名を対象にした研究があります(2)。

     

    万歩計で歩数を計測し、軽度(4000歩以下)、中等度(4000~8000歩)、高度(8000歩以上)にわけました。そして、歩行量と大腿中央部の筋横断面積を比較しました。

     

    資料(2)引用改編作成

     

    軽度(4000歩以下)の群の筋横断総面積が有意に減少していました。

     

    つまり、健常中高年者では、廃用性筋萎縮を防ぐために1日約 4000歩以上の活動性を維持することが大切ということです。

     

     

    ◆中之条研究~歩数と運動強度の重要性~

    東京都健康長寿医療センター研究所の青栁幸利医師は、「中之条研究」というものを報告しています(3)。

     

    これは、群馬県中之条町の65歳以上の方5000人を対象に、13年間という長期間にわたりおこなわれた研究です。

     

    内容は年に1回、詳細なアンケート調査をおこないました。そこで運動や身体活動、食生活、睡眠時間、労働時間、病気の有無などを調べ、健康診断のデータも提供してもらいました。

     

    さらに、その中の500人を対象にして、小型の「身体活動計」を携帯してもらい、1日の歩数や中強度(3METs以上)の活動時間を記録しました。

     

    研究の結果から興味ぶかいことがわかりました。健康を維持するためには、歩くだけでは不十分で、中等度の活動も必要であるということが示されたのです。

     

    資料(3)より引用改編作成

     

    中央をはしる緑色の矢印が活動の質とバランスがよいラインです。このライン上にある活動をされている人が、とくに健康的だったのです。

     

    とくに、③・④のグループに近づくような生活をおくることが、健康長寿になるためには大切です。

     

    中強度の活動というのは、メッツ(METs)で計測します。メッツというのは、体を安静にしているときを基準にして、運動の強さを数値化したものです。

     

     

    強い運動ばかりしていても歩数が不足してるとダメ、歩数が多くてもメッツ(運動強度)が低いことばかりしていてもダメ、ということがわかったのです。

     

     

    ◆中強度メッツの年齢別目安

    中強度のメッツは年齢によって変わってきます。若い人に楽な運動が、年配の人にはキツイということもありますよね。青柳医師の著書では、大まかな目安は以下のようになっています。

     

    20~30代:5.0~6.9メッツ

    40~50代:4.0~5.9メッツ

    60代以上:3.0~4.9メッツ

     

    もうすこし科学的な目安となると、米国スポーツ医学会(American College of Sports Medicine)による以下のような目安があります(4)。

     

    資料(4)より引用

     

    すこし見づらくて申し訳ないです。この報告によると中等度(moderate)の運動強度は、20~39歳では4.8-7.1メッツ、40~64歳では4.0-5.9メッツ、65歳以上では3.2-4.7メッツとなっています。

     

     

    ◆健康を守る黄金バランスは「8000歩/20分」

    青栁医師は、歩行数と中強度の活動についてこう述べています(改行は筆者による)。

     

    健康を保つためには、1日平均どのくらいの身体活動をするのが理想なのでしょうか?

    答えを先にいうと、「1日8000歩/中強度の活動20分」が健康を保つために有効です。この「1日8000歩/中強度の活動20分」を実現すると、次の11の病気や症状を予防できることが中之条研究からわかっています。

    ①要支援・要介護、②うつ病、③骨粗しょう症、④骨折、⑤高血圧症、⑥糖尿病、⑦脂質異常症、⑧心疾患(狭心症・心筋梗塞)、⑨脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)、⑩認知症(血管性認知症・アルツハイマー病)、⑪ガン(結腸ガン・直腸ガン・肺ガン・乳ガン・子宮内膜ガン)

     

    資料(3)引用改編作成

     

     

    ◆メタ・アナリシス~体力がある人は長生き~

    中之条研究は示唆ぶかい研究ではありますが、群馬県という限られた地域のひとつの疫学研究にすぎません。

     

    体力と心疾患の発症リスクについて、Kodamaらが報告しているメタ・アナリシスがあります(5)。メタ・アナリシスというのは、一定の条件を満たす多数の論文の結果をまとめて解析するものです。エビデンスについては、「EBM(根拠に基づく医療)とは~初学者のための超基礎知識~」をみてください。

     

    この研究では、運動強度(心肺持久力)と心疾患との関係を、33の論文から分析しています。

     

    資料(5)引用改編

     

    解析によれば、運動強度が1METs増加すると、心疾患発症が13~15%軽減することがわかりました(全体的な死亡率も低下)。

     

    また心疾患の発症を予防するには、男性(50歳)で8METs、女性(同)で6METsの運動強度が必要であること示唆されました。

     

    つまり、高強度の運動をしている人ほど死亡率が低いということです。

     

     

    ◆歩数と運動強度のバランスがポイント

    さて、まとめていきます。

     

    歩数の最低限レベルとしては、下肢筋の廃用予防になる4000歩が目安になるかもしれません。中之条研究でも4000歩からうつ病の予防になるレベルになっていますから、精神的にも関係がありそうです。

     

     

    また、歩くだけでは健康を維持することが難しいことがわかっています。歩数にくわえて、中等度~強度の活動が必要ということです。これは、基礎疾患や年齢、その人の性格などが関係してくることなので、ケースバイケースの指導が必要になってくると思います。

     

     

    ◆エピローグ

    SGM
    ひとまず、4000歩を目安にしてみるのがいいかもしれません。
    おばあちゃん
    4000歩ね。万歩計でも買って、はかってみようかね。

     

    SGM

    それがいいかもしれませんね。だいたい1000歩あるくのに10分くらい。距離なら600~700mくらいといわれてます。

    あとは、掃除機かけたり、庭の草むしりでもいいので、こまめに動くことも大事ですよ。

     

    おばあちゃん
    犬がおるから、散歩でもええんかね?
    SGM
    散歩でもいいですよ。
    おばあちゃん
    なるほどね。ありがとね。

     

     

    【資料】

    (1)厚生労働省「健康日本21

    (2)田中宏太佳ら:健常中高年者の日常生活の活動性と下肢筋力・筋横断面積 : 脳卒中片麻痺患者の廃用性筋萎縮予防に関する研究.日本リハビリテーション医学会誌 27(6): 459-463、1990

    (3)なぜ、健康な人は「運動」をしないのか?、青栁幸利、あさ出版、2014

    (4)American College of Sports Medicine position stand. Quantity and quality of exercise for developing and maintaining cardiorespiratory, musculoskeletal, and neuromotor fitness in apparently healthy adults: guidance for prescribing exercise.[PMID:21694556]

    (5)Cardiorespiratory fitness as a quantitative predictor of all-cause mortality and cardiovascular events in healthy men and women: a meta-analysis.[PMID:19454641]

    (6)あざむかれる知性、村上宣寛、ちくま新書、2015

    (7)労働安全衛生総合研究所「研究紹介

     

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