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    忙しい人のための要約
    エクササイズ前の静的ストレッチは、運動能力(パフォーマンス)をさげることが示唆されています。また、痛みがでるほどのストレッチをしても、痛みがないときと効果が変わらないことも報告されています。ストレッチをする場合は、適応をみきわめることが大切です。

     

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    ◆静的ストレッチは運動能力を下げる

    静的ストレッチ(以下、ストレッチ)の目的としては、

    ①可動域の維持・向上

    ②血液循環の向上

    ③筋肉痛の軽減

    ④ケガの予防……

    などが考えられます。リハビリテーションの現場では、運動療法を実施するまえにストレッチをしていること(人)が多いような気がしています。

     

    小さいときから運動のまえにはストレッチをするように指導されるので、それがあたりまえになっているのかもしれません。小学校や中学校の体育の授業のまえにはストレッチをしていたような記憶もあります。

     

    しかし、2012年のSimicらのメタ・アナリシスでは、「運動前の静的ストレッチはパフォーマンスをさげる」という結論がでています(1)。

     

    メタ・アナリシスとは、統計的エビデンス(根拠)のなかでも信頼性が高いものです(→「EBMの超基礎知識」を参照ください)。

     

    結果は以下のようになりました。

     

    資料(1)参照作成

     

    ストレッチにより、筋力(strength)は5.4%、筋出力(power)は1.9%、瞬発的筋パフォーマンス(ジャンプ・スプリント・投擲など)は2.0%低下しました。これらは、年齢・性別・トレーニングのレベルには関係ありませんでした。

     

    また、ストレッチの時間が短いほど(とくに45秒以内)、筋力・筋出力・瞬間的筋パフォーマンスの低下率は小さくなりました。つまり、ストレッチが長くなるほど、筋機能・能力が低下したということです。

     

    資料(1)より引用改編

     

     

    ◆静的ストレッチは筋肉痛とケガを減らさない

    ストレッチの効果について調査したシステマティック・レビューがあります(2)。

    この調査では、これまでに報告された8つの論文を分析しています。

     

    まず、運動後の筋肉痛の結果。

    資料(2)より引用

     

    統計的にはストレッチをしてもしなくても、筋肉痛に変わりないという結果でした。つまり、ストレッチしようがしまいが、筋肉痛は起こるときは起こるということです。

     

    ただ、ストレッチをしている群は痛みが減っている傾向があったそうですが、それはほんのわずかで効果も少ないことが示唆されています。

     

    つぎにケガの予防の結果。

    ケガの内訳は、アキレス腱炎・捻挫・骨折・骨膜炎・前脛骨区画症候群です。分析されたのは2つの論文でした。

     

    結果は以下のようになりました。

    資料(2)より引用

     

    1998年・2000年のどちらの論文も似たような結果でした。すなわち、ストレッチをしている群もしていない群もケガが発生した割合がほぼ同じだったということです。

     

    いまのところストレッチには、筋肉痛を軽減させる・ケガを予防する効果はないようです。しかし、この報告で対象になったのは若年者ですので、高齢者のかたにストレッチをした場合どうなのかは不明です。

     

    ただ、高齢者のかたにストレッチをしても、転倒を予防することはできないという報告があります(3・4)。つまり、ストレッチに転倒を予防する効果はないということです。

     

    高齢者のかたにも、ストレッチによる機能向上の効果は少ないのかもしれません。

     

     

    ◆痛みがでる静的ストレッチはダメ!?

    最近、ストレッチのおもしろい報告がでました(5)。

     

    「痛みがでるまでストレッチをする群」と「痛みまではいかない非痛み群」にわけて、4週間(4回/週)にわたりストレッチを実施してもらいました。

     

    結果は以下のようになりました。

     

    資料(5)参照作成

     

    どちらの群も股関節屈曲の可動域・長座体前屈の距離は向上しましたが、群間に統計的な効果の差はありませんでした。

     

    研究者たちは、痛みのあるストレッチを推奨する理由はないと結論しています。

     

    高橋哲也さんはROMエクササイズ時の注意点について以下のように述べています。

     

    痛みがある場合には、十分に注意しましょう。繰り返される痛み刺激は、末梢神経から脳に至る痛覚伝導路に複数の機能的あるいは構造的な変化を生じさせ、複合性局所疼痛症候群(CRPS)を引き起こす可能性があります。そのためROMエクササイズは痛みのない、もしくは痛みを最小限にとどめた範囲内で実施する必要があります。

    (”臨床思考”が身につく運動療法Q&A)

     

    健常人でROMエクササイズをしたからCRPSになることは、ほぼないと思われます。しかし、痛みがあるストレッチには、ないものと比較して効果に差がないことが示唆されています。痛みはないほうがいいでしょうね。

     

    【資料】

    (1)Does pre-exercise static stretching inhibit maximal muscular performance? A meta-analytical review.[PMID:22316148

    (2)Effects of stretching before and after exercising on muscle soreness and risk of injury: systematic review.[PMID:12202327

    (3)Community-based exercise program reduces risk factors for falls in 65- to 75-year-old women with osteoporosis: randomized controlled trial.[PMID:12403738]

    (4)Effective exercise for the prevention of falls: a systematic review and meta-analysis.[PMID:19093923]

    (5)The effects of 4 weeks stretching training to the point of pain on flexibility and muscle tendon unit properties.[PMID:28647867

    (6)″臨床思考″が身につく運動療法Q&A、高橋哲也、医学書院、2016

    (7)高齢者の機能障害に対する運動療法、市橋則明、文光堂、2010

     

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