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    忙しい人のための要約
    鉄欠乏は多彩な症状を呈します。貧血、エネルギー産生(電子伝達系)の障害、肝機能(解毒機能)の低下、免疫機能の低下、舌や爪の異常(赤色平滑舌・スプーンネイル)、のどの違和感・閉塞感、認知機能低下、異食症(異常に氷を食べる)などです。疑わしい症状があれば、病院を受診し鉄の状態を確認しましょう。

     

     

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    ◆鉄欠乏は世界で最多の栄養障害

    鉄が不足しているというのは、一種の栄養障害です。鉄欠乏症は世界で最多の栄養障害であるといわれています。

     

    鉄欠乏の現状については、以下の記事を参照してください。

     

    鉄不足(欠乏)は世界でいちばん多い栄養障害

    世界の80%の人が鉄欠乏症であるといわれており、鉄欠乏は世界最多の栄養障害です。多くの報告から日本人女性の30~70%が鉄欠乏の疑いがあると考えられます。

     

     

     

    ◆貧血の定義

    鉄が不足していると聞くと、貧血を想起する人が多いと思います。

     

    貧血という言葉はよく聞きますが、貧血の定義を知っている人は少ないかもしれません。専門書で調べてみます。

     

    貧血(anemia)とは、

    血液単位溶液中のヘモグロビン濃度が正常範囲を超えて低下した病態をいい、多くの原因による種々の病型がある。

    (生化学辞典)

    赤血球(red blood cells[RBC])の大きさまたは数あるいは赤血球に含まれるヘモグロビン量の不足である。

    (栄養学と食事療法大辞典)

     

    難しいですね。

     

    簡単に言えば、貧血とはヘモグロビンが足りてない状態をいうようです。鉄不足以外にも貧血の原因はいろいろあります(葉酸欠乏、ビタミンB12吸収障害、失血など)。

     

    ちなみにヘモグロビンが低いと貧血と診断されて、鉄剤を処方されたりすることがあると思います。

     

    しかし、鉄剤だけでは不十分だと思います。鉄というのはタンパク質と結合して十分に働くことができるようになるからです。ヘモグロビンもヘム鉄とグロビンというタンパク質が合体したものです。

     

    つまり、鉄ばかり摂ってもタンパク質が不足していればヘモグロビン値が改善されるのは難しいでしょう。

     

     

     

    ◆貧血の三大症状

    貧血の原因は鉄欠乏だけではありませんが、どの貧血でも3つの共通する症状があります。


    (1)酸素欠乏による症状

    貧血になれば、酸素を運ぶ能力が低下します。つまり、体中が酸欠状態になります。

     

    脳が酸欠になれば、頭痛やめまい、耳鳴り、ふらつき、ひどい場合には失神が起こります。心臓の酸欠が起これば狭心症、骨格筋に酸欠が起これば易疲労感や倦怠感、脱力感が生じる可能性があります。

     

    (2)酸素欠乏による代償症状

    身体の酸素が不足すれば、身体はそれを何かしらで代償(肩代わり)する必要があります。

     

    おもに呼吸数が増える、心拍数が増えるなどです。薄くなってしまった血液を量でカバー(代償反応)しようとするわけです。その結果として、息切れや動悸、頻脈などが感じられることがあります。

     

    (3)赤血球量の減少による症状

    顔色が悪くなったり(青白くなったり)、眼瞼結膜が白っぽくなります。眼瞼結膜というのは、あっかんべーしたときに見える眼球の下の部分です。

     

     

     

    ◆電子伝達系を障害する

    鉄はシトクロムという物質の構成要素です。

     

    シトクロムというのは、鉄の酸化還元反応によって電子伝達を行うヘムタンパク質です。簡単にいえば電子伝達(系)というのは、エネルギーであるATPを産生する酸化的リン酸化という反応の流れ(系)のことです

    つまり、鉄不足→シトクロム不足→電子伝達系が止まる→ATP(エネルギー)不足ということが起こり、疲れやすくなったりするわけですね。

     

    鉄が薪で、炎がATP(エネルギー)みたいな感じです。薪が不足すれば、炎は小さくなっていきますよね。

     

     

     

     

    ◆肝機能(毒素の排泄能力)低下

    肝臓は多くの働きをしてくれている大切な臓器です。手術で切除しても自然に再生できるようになっているほどですから、どれほど人体にとって大切なのかがわかりますね。

     

    肝臓の機能の中でも重要なのが、解毒です。大まかに言えばアルコールや薬剤、ホルモンなどを処理するという作用があります。

     

    その解毒を行うためにはシトクロムP450という酵素が必要なのです。シトクロムといえば、電子伝達系のところでも出てきました。あれと同じで、鉄とタンパク質が必要なんですね。

     

    つまり、鉄欠乏があるとシトクロムP450が不足するため、解毒機能も低下してしまうわけです。

     

     

     

    ◆免疫機能の低下

    鉄が欠乏すると、循環Tリンパ球の濃度が低下し、マイトジェン(引用者注:分裂促進物質)応答が概して障害される。ナチュラルキラー(Natural killer[NK])細胞の活性も低下する。鉄が欠乏している動物では、インターロイキン‐1の産生が減少し、インターロイキン‐2の産生量が抑制されることが報告されている。

    (栄養学と食事療法大辞典)

     

    鉄不足によりT細胞が減少し、インターロイキン‐1やインターロイキン‐2が減少し、免疫細胞の分裂促進が低下するようです。下のイラストを参照にするとわかりやすいです。

     

    資料(1)より引用

     

     

     

    ◆舌と爪の異常(赤色平滑舌・スプーンネイル)

    鉄欠乏によって舌や爪にも異常が出てきます。

     

    (1)赤色平滑舌

    写真は資料(2)より引用

     

    舌は赤色平滑舌という状態になります。舌にある小さな突起(乳舌頭)が萎縮して、表面がつるつるになり、赤色を呈するようになります。

     

    (2)スプーンネイル・匙状爪

    写真は資料(3)より引用

     

    爪は中ほどが窪んで反りあがり、スプーン(匙)のようになります。これをスプーンネイル匙状爪といい、これは鉄欠乏性貧血に特徴的な症状です。

     

     

     

    ◆のどの閉塞感、違和感(プラマー・ビンソン症候群)

    のどの閉塞感や違和感に鉄欠乏が関係している可能性もあります。プラマー・ビンソン症候群(Plummer-Vinson syndrome)と呼ばれています。

     

    咽頭や食道の膜が薄くなり、胃カメラなどの内視鏡で見るとEsophageal web(食道網)が観察されます。

     

    症例報告もあります(2)。

    患者は77歳の女性。鉄欠乏性をともなう小球性低色素性貧血により嚥下障害や息切れなどの症状が出現、入院しました。2週間にわたり鉄剤を経口摂取してもらうと大きな改善が認められました。上の写真はEsophageal web、下は食道上部の狭窄です。

     

    資料(2)引用改編

     

    Uchidaらの報告によれば(4)、日本人の鉄欠乏性貧血患者353名のうちの1.1%にプラマー・ビンソン症候群が認められたとしています(ちなみに舌乳頭萎縮と異常な爪は5.4%、異食症は0.06%)。

     

    約350人のうちに1%といるというのは、割合的には多いような気がします。

     

    診断できるまでひどくはないにせよ、前兆的に症状が出ることもあると思うので、のどの違和感や閉塞感を感じる女性は鉄を検査してもらったほうがいいでしょう。

     

     

     

    ◆認知機能の低下

    鉄欠乏が認知機能に関与しているようです。

     

    鉄はすべての年齢層の人において、脳の正常機能に利用される。鉄は神経伝達物質とおそらくミエリンの機能と合成に関与している。小児における早期の鉄欠乏性貧血では、有害な影響が何年間も続く可能性がある。たとえば、貧血の小児では学業成績、地殻運動能力、注意力、学習能力、記憶能力の低下を認める。

    (栄養学と食事療法大辞典)

     

    上記にあるように幼児期の鉄欠乏が長期にわたり認知機能や運動機能に影響を与えるという報告があります(5)。幼少時はとくに鉄欠乏に注意したほうがいいと思います。

     

    資料(6)より引用改編

     

    母親と子どもの鉄(フェリチン)欠乏は関連していることが報告されていますから(6)、鉄欠乏がある母親はとくに注意して子どもの食事などに配慮する必要があると思います。

     

     

     

    ◆異食症(氷食症)

    異食症についてWikipediaより引用します。

    異食症(いしょくしょう、羅: pica)は、栄養価の無いものを無性に食べたくなる症候。食する対象は土・紙・粘土・毛・氷・木炭・チョークなどが挙げられる。小児と大人の妊婦に多い。picaとはラテン語でカササギを意味する。カササギは何でも口に入れることから名づけられた。

     

    鉄欠乏で最も多いのは氷食症です。言葉通り、氷を無性に食べたくなるという症状です。今のところ、メカニズムはよくわかっていません。

     

    私が幼いころ、いとこが氷をボリボリ食べていました。私は氷なんて美味しいとは思わなかったので不思議に思っていました。今になって思えば鉄欠乏があったのかもしれないなぁと思います。

     

    【資料】

    (1)カラー図解 免疫学の基本がわかる事典、鈴木隆二、西東社、2015

    (2)A case of plummer-vinson syndrome showing rapid improvement of Dysphagia and esophageal web after two weeks of iron therapy.[PMID:25028578]

    (3)Spooning of the nails and webbing of the esophagus: koilonychia and Plummer-Vinson Syndrome.[PMID:26734146]

    (4)[The frequency and development of tissue iron deficiency in 6 iron deficiency anemia patients with plummer-vinson syndrome].[PMID:9866421]

    (5)Long-lasting neural and behavioral effects of iron deficiency in infancy.[PMID:16770951]

    (6)Correlation between maternal and childhood VitB12, folic acid and ferritin levels.[PMID:28367192]

    (7)生化学辞典第4版、今堀和友ら監修、東京化学同人、2007

    (8)栄養学と食事療法大辞典、キャスリーン・マハンら(香川靖雄ら監修)、ガイアブックス、2015

    (9)貧血大国・日本、山本佳奈、光文社新書、2016

     

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